[0374] 特発性側弯症に対する運動療法実施後の身体機能とCobb角の変化
Keywords:特発性側弯症, 身体機能, Cobb角
【目的】
筆者らは先行研究で,学校検診で紹介された特発性側弯症に対して半年間の運動療法を行い,身体機能とCobb角の継時的変化について経過観察した。その結果,身体機能の向上がCobb角の増加を抑制する可能性が示された。しかし,どのような身体機能がCobb角の進行抑制に関与しているかは依然として不明のままである。そこで,本研究では特発性側弯症に1年間の運動療法を実施し,Cobb角の進行抑制に身体機能の向上が関与しているかを検討した。
【方法】
対象は当院に通院する特発性側弯症と診断された女子16名とした。運動療法開始時の年齢は11.6±2.2歳,身長は148.6±11.2cm,体重は38.7±7.3kgであった。すべての対象の利き手は右手だった。レントゲン所見では胸腰椎部のシングルカーブ(右凸5名,左凸11名)を呈しており,Cobb角は11.4±7.1°であった。前屈検査では凸側へのrib humpを認め,Risser signはgrade0~1だった。運動療法は自宅で行うホームエクササイズを主体とし,内容は側弯体操を毎日約20分間実施するよう指導した。側弯体操は八幡ら(2001)の方法をもとに,8種類の運動を1年間に渡って継続して指導した。定期的な検査を月に1回実施し,体操方法の確認と身体機能の評価を行った。身体機能の検査項目は体幹屈曲・伸展筋力,体幹側屈・回旋可動域,指床間距離(FFD)とした。体幹屈曲・伸展筋力の算出はGT-350(OG技研)を用い,等尺性の最大筋力を測定し体重で除した値とした。Cobb角の進行と身体機能の変化は,それぞれ運動療法前後の差で求めた。統計学的分析には,全ての項目を開始時と1年後について対応のあるt検定,Cobb角の進行と身体機能の変化の関係はPearsonの相関係数を用いた。それぞれ危険率は5%未満を有意とした。
【説明と同意】
対象と保護者に十分に説明を行い,紙面にて内容の公表について同意を得た。本研究は医療法人社団みのりの会田島医院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号141)。
【結果】
開始時の体幹側屈可動域は右側29.4±5.4°,左側29.1±7.8°,回旋は右側42.5±8.0°,左側40.9±9.0°であった。体幹筋力は屈曲7.9±1.8N/cm,伸展10.4±3.5N/kgだった。FFDは-0.4±9.3cmであった。1年後の身長は150.5±10.7cm,体重は39.7±6.8kgだった。体幹側屈可動域は右側31.6±5.4°,左側34.7±6.7°,回旋は右側49.1±7.4°,左側47.2±8.0°とそれぞれ拡大した。体幹筋力は屈曲10.1±2.1N/kg,伸展12.2±3.5N/kgとそれぞれ有意に向上した。FFDは5.2±7.1cmと向上した。レントゲン所見としてCobb角は11.6±7.7°に増加したが有意な変化を認めなかった(p=0.73)。Cobb角の増加と体幹伸展筋力の増加の間に有意な負の相関を認めた(r=-0.697,p<0.01)。Cobb角の増加と体幹右側屈可動域(r=0.679,p<0.01),体幹右回旋可動域(r=0.626,p<0.01),体幹左回旋可動域(r=0.598,p<0.05)に有意な正の相関を認めた。Cobb角の増加と身長(r=0.470,p=0.06),体幹屈曲筋力(r=-0.282,p=0.29),体幹左側屈可動域(r=0.045,p=0.87)および,FFD(r=0.132,p=0.63)には有意な相関は認められなかった。
【考察】
特発性側弯症の治療効果を確認するために1年間の運動療法を行い,身体機能とCobb角の調査を実施し,1年間でCobb角0.2°の増加を認めた。今回は1年間で身長は1.9cm増加したにも関わらず,Cobb角は0.2°と増加は比較的小さかったことから運動療法の影響があると考えた。Cobb角の増加と体幹伸展筋力の増加の間に有意な負の相関を認め,体幹伸展筋力の向上がCobb角の増加を抑制する可能性が示された。そのため,脊柱変形の進行を予防するために体幹伸展筋力を向上することが運動療法では大切であると考える。一方,Cobb角の増加と体幹屈曲筋力の増加の間に有意な相関を認めなかったが,山副らはCobb角と体幹屈曲筋力に負の相関があると述べており,体幹屈曲筋力の影響にも注意する必要がある。また,駒場らは側弯症の運動療法では体幹伸展筋力の瞬発力と体幹屈曲筋力の持久性の強化が重要と述べているため,今回は体幹屈曲筋力の間に有意な相関を認めなかったが,体幹屈曲・伸展筋力の必要性が示されたので体幹筋力エクササイズをしていくことはやはり大切であろう。Cobb角の増加と体幹右側屈,左右回旋可動域の間に正の相関が認められたことにより,体幹関節可動域・柔軟性を拡大するよりも体幹筋力の向上を目指すことが重要である。そのため,実施する側弯体操の項目も含め検討を行う必要がある。さらに症例を重ね,Cobb角の変化と身体機能のより詳しい関係を調査していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
Cobb角20°未満の特発性側弯症に対しての運動療法の効果を検討したものは少なく,身体機能とCobb角の変化を示していく意義は大きいと考えている。
筆者らは先行研究で,学校検診で紹介された特発性側弯症に対して半年間の運動療法を行い,身体機能とCobb角の継時的変化について経過観察した。その結果,身体機能の向上がCobb角の増加を抑制する可能性が示された。しかし,どのような身体機能がCobb角の進行抑制に関与しているかは依然として不明のままである。そこで,本研究では特発性側弯症に1年間の運動療法を実施し,Cobb角の進行抑制に身体機能の向上が関与しているかを検討した。
【方法】
対象は当院に通院する特発性側弯症と診断された女子16名とした。運動療法開始時の年齢は11.6±2.2歳,身長は148.6±11.2cm,体重は38.7±7.3kgであった。すべての対象の利き手は右手だった。レントゲン所見では胸腰椎部のシングルカーブ(右凸5名,左凸11名)を呈しており,Cobb角は11.4±7.1°であった。前屈検査では凸側へのrib humpを認め,Risser signはgrade0~1だった。運動療法は自宅で行うホームエクササイズを主体とし,内容は側弯体操を毎日約20分間実施するよう指導した。側弯体操は八幡ら(2001)の方法をもとに,8種類の運動を1年間に渡って継続して指導した。定期的な検査を月に1回実施し,体操方法の確認と身体機能の評価を行った。身体機能の検査項目は体幹屈曲・伸展筋力,体幹側屈・回旋可動域,指床間距離(FFD)とした。体幹屈曲・伸展筋力の算出はGT-350(OG技研)を用い,等尺性の最大筋力を測定し体重で除した値とした。Cobb角の進行と身体機能の変化は,それぞれ運動療法前後の差で求めた。統計学的分析には,全ての項目を開始時と1年後について対応のあるt検定,Cobb角の進行と身体機能の変化の関係はPearsonの相関係数を用いた。それぞれ危険率は5%未満を有意とした。
【説明と同意】
対象と保護者に十分に説明を行い,紙面にて内容の公表について同意を得た。本研究は医療法人社団みのりの会田島医院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号141)。
【結果】
開始時の体幹側屈可動域は右側29.4±5.4°,左側29.1±7.8°,回旋は右側42.5±8.0°,左側40.9±9.0°であった。体幹筋力は屈曲7.9±1.8N/cm,伸展10.4±3.5N/kgだった。FFDは-0.4±9.3cmであった。1年後の身長は150.5±10.7cm,体重は39.7±6.8kgだった。体幹側屈可動域は右側31.6±5.4°,左側34.7±6.7°,回旋は右側49.1±7.4°,左側47.2±8.0°とそれぞれ拡大した。体幹筋力は屈曲10.1±2.1N/kg,伸展12.2±3.5N/kgとそれぞれ有意に向上した。FFDは5.2±7.1cmと向上した。レントゲン所見としてCobb角は11.6±7.7°に増加したが有意な変化を認めなかった(p=0.73)。Cobb角の増加と体幹伸展筋力の増加の間に有意な負の相関を認めた(r=-0.697,p<0.01)。Cobb角の増加と体幹右側屈可動域(r=0.679,p<0.01),体幹右回旋可動域(r=0.626,p<0.01),体幹左回旋可動域(r=0.598,p<0.05)に有意な正の相関を認めた。Cobb角の増加と身長(r=0.470,p=0.06),体幹屈曲筋力(r=-0.282,p=0.29),体幹左側屈可動域(r=0.045,p=0.87)および,FFD(r=0.132,p=0.63)には有意な相関は認められなかった。
【考察】
特発性側弯症の治療効果を確認するために1年間の運動療法を行い,身体機能とCobb角の調査を実施し,1年間でCobb角0.2°の増加を認めた。今回は1年間で身長は1.9cm増加したにも関わらず,Cobb角は0.2°と増加は比較的小さかったことから運動療法の影響があると考えた。Cobb角の増加と体幹伸展筋力の増加の間に有意な負の相関を認め,体幹伸展筋力の向上がCobb角の増加を抑制する可能性が示された。そのため,脊柱変形の進行を予防するために体幹伸展筋力を向上することが運動療法では大切であると考える。一方,Cobb角の増加と体幹屈曲筋力の増加の間に有意な相関を認めなかったが,山副らはCobb角と体幹屈曲筋力に負の相関があると述べており,体幹屈曲筋力の影響にも注意する必要がある。また,駒場らは側弯症の運動療法では体幹伸展筋力の瞬発力と体幹屈曲筋力の持久性の強化が重要と述べているため,今回は体幹屈曲筋力の間に有意な相関を認めなかったが,体幹屈曲・伸展筋力の必要性が示されたので体幹筋力エクササイズをしていくことはやはり大切であろう。Cobb角の増加と体幹右側屈,左右回旋可動域の間に正の相関が認められたことにより,体幹関節可動域・柔軟性を拡大するよりも体幹筋力の向上を目指すことが重要である。そのため,実施する側弯体操の項目も含め検討を行う必要がある。さらに症例を重ね,Cobb角の変化と身体機能のより詳しい関係を調査していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
Cobb角20°未満の特発性側弯症に対しての運動療法の効果を検討したものは少なく,身体機能とCobb角の変化を示していく意義は大きいと考えている。