[0375] 変形性股関節症に対するホームエクササイズの短期効果
キーワード:変形性股関節症, ホームエクササイズ, NRS
【はじめに,目的】
変形性股関節症(股OA)の有病率は,X線診断によると1.0~3.5%,国内の人口で換算すると患者数は約120万~420万人と推測されている。臨床場面においても遭遇することの多い疾患であるが,股OAに対する運動療法の有効性に対する先行研究は十分とはいえないのが現状である。なかでも股OAに対するホームエクササイズ(HE)の効果については,報告が少なく一定の見解が得られていない。
当院では,大谷内氏により開発された運動療法である「ゆうきプログラム」を5年前から導入し,股OA患者に対するHEの取り組みを行っている。
そこで本研究では,当院で5年前から導入された股OA患者に対するHEの取り組みをもとに,股OA患者において開排(腓骨頭から床との垂直距離),疼痛の数値評価スケール(Numeric Rating Scale:NRS),日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOAスコア),関節可動域検査(ROMテスト)を用いた機能・器質的評価を継続的に実施することで,ホームエクササイズの有効性を検証することを目的に実施した。
【方法】
対象は平成22年1月から平成23年3月までに当科を受診し,股OAと診断された男性13例(57.0±17.5歳),女性82例(57.5±9.3歳)の95関節であった。X線所見よりKellgren and Lawrence grade(以下,K-L分類)で4段階に分類し,運動療法施行前と運動療法開始3ヶ月目において開排,NRS,JOAスコア,股関節ROMテストを用いて評価した。なお,3ヶ月間通院できなかった患者や関節リウマチを罹患している患者は本研究の対象から除外した。当院におけるHEの指導内容は,①骨盤アライメント調整運動,②関節可動域運動,③ストレッチング,④筋力増強運動の四項目を中心に構成されており,それらの運動内容や回数および運動の写真を記載した資料は対象者に合わせて配布した。その後,外来診療において2週間に1回,HEの方法および効果の確認を行った。統計学的検討は,K-L分類した4群のHE施行前とHE開始3ヶ月目における開排,NRS,JOAスコアをWilcoxonの符号順位検定を用いて比較検討した。それぞれの統計学的処理についての有意差の判定は,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全対象者には研究内容および方法を口頭と紙面にて十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した。
【結果】
全対象95例のうちK-L分類でgrade 1は39例,grade 2は13例,grade 3は31例,grade 4は12例であった。開排及びNRSはgrade 1~4において有意差が認められ,改善が見られた。JOAスコアではgrade 1,2,3において有意に改善が見られた。股関節ROMテストでは屈曲はgrade 1~3,伸展はgrade 2,外転はgrade 1,外旋はgrade 3で有意な改善が見られた。
【考察】
HEによる3ヶ月間の介入の結果,開排,NRSではgrade全てにおいて有意に改善傾向が認められた。開排は股関節屈曲・外旋動作であり,その障害には長内転筋などの股関節内転筋群の機能的影響を受けやすい。当院のHEでは,これら軟部組織に対する直接的アプローチに加え,骨盤アライメント調整運動を行うことで関節構成体や筋へのメカニカルストレスの緩和が得られやすく,その結果改善傾向が得られたものと推測される。股OAにおける疼痛の原因は滑膜炎や関節咬合不全,筋スパズムなどが一般的に挙げられる。このような場合は疼痛に対する防御姿勢が習慣化され,機能的脚長差を生じる可能性が指摘されている。それらを踏まえ,当院のHEでは骨盤アライメント調整運動を最初に行い,その後,関節可動域運動,ストレッチングにて可動性及び伸張性を得た後に筋力増強運動を行うように指導をしている。この一連の流れにより,疼痛部位に対するメカニカルストレスの緩和が得られた一つの要因と考えることができる。JOAスコアではgrade 1~3で有意な改善が認められたが,grade 4では有意な改善は認められなかった。その背景としてgrade 1~3に比べgrade 4では器質的変化が強く生じているため,主に股関節の屈曲を中心とした可動域制限や疼痛の改善が得られにくく,その結果JOAスコアにも反映されなかったものと考えられる。今回,股OAに対するHEの短期効果として,機能的な有効性を確認することができた一方,器質的影響が強い患者ではその有効性を示唆する見解は一部得られなかった。今後も継続的に追跡調査を行うことで,HEの長期効果について検証していきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,股OA患者に対するホームエクササイズの有効性を機能・器質的評価から短期的に検証した研究である。当院の取り組みを一つの例として,今後様々な取り組みが展開されることを期待したい。
変形性股関節症(股OA)の有病率は,X線診断によると1.0~3.5%,国内の人口で換算すると患者数は約120万~420万人と推測されている。臨床場面においても遭遇することの多い疾患であるが,股OAに対する運動療法の有効性に対する先行研究は十分とはいえないのが現状である。なかでも股OAに対するホームエクササイズ(HE)の効果については,報告が少なく一定の見解が得られていない。
当院では,大谷内氏により開発された運動療法である「ゆうきプログラム」を5年前から導入し,股OA患者に対するHEの取り組みを行っている。
そこで本研究では,当院で5年前から導入された股OA患者に対するHEの取り組みをもとに,股OA患者において開排(腓骨頭から床との垂直距離),疼痛の数値評価スケール(Numeric Rating Scale:NRS),日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOAスコア),関節可動域検査(ROMテスト)を用いた機能・器質的評価を継続的に実施することで,ホームエクササイズの有効性を検証することを目的に実施した。
【方法】
対象は平成22年1月から平成23年3月までに当科を受診し,股OAと診断された男性13例(57.0±17.5歳),女性82例(57.5±9.3歳)の95関節であった。X線所見よりKellgren and Lawrence grade(以下,K-L分類)で4段階に分類し,運動療法施行前と運動療法開始3ヶ月目において開排,NRS,JOAスコア,股関節ROMテストを用いて評価した。なお,3ヶ月間通院できなかった患者や関節リウマチを罹患している患者は本研究の対象から除外した。当院におけるHEの指導内容は,①骨盤アライメント調整運動,②関節可動域運動,③ストレッチング,④筋力増強運動の四項目を中心に構成されており,それらの運動内容や回数および運動の写真を記載した資料は対象者に合わせて配布した。その後,外来診療において2週間に1回,HEの方法および効果の確認を行った。統計学的検討は,K-L分類した4群のHE施行前とHE開始3ヶ月目における開排,NRS,JOAスコアをWilcoxonの符号順位検定を用いて比較検討した。それぞれの統計学的処理についての有意差の判定は,危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全対象者には研究内容および方法を口頭と紙面にて十分に説明し,同意を得た上で研究を開始した。
【結果】
全対象95例のうちK-L分類でgrade 1は39例,grade 2は13例,grade 3は31例,grade 4は12例であった。開排及びNRSはgrade 1~4において有意差が認められ,改善が見られた。JOAスコアではgrade 1,2,3において有意に改善が見られた。股関節ROMテストでは屈曲はgrade 1~3,伸展はgrade 2,外転はgrade 1,外旋はgrade 3で有意な改善が見られた。
【考察】
HEによる3ヶ月間の介入の結果,開排,NRSではgrade全てにおいて有意に改善傾向が認められた。開排は股関節屈曲・外旋動作であり,その障害には長内転筋などの股関節内転筋群の機能的影響を受けやすい。当院のHEでは,これら軟部組織に対する直接的アプローチに加え,骨盤アライメント調整運動を行うことで関節構成体や筋へのメカニカルストレスの緩和が得られやすく,その結果改善傾向が得られたものと推測される。股OAにおける疼痛の原因は滑膜炎や関節咬合不全,筋スパズムなどが一般的に挙げられる。このような場合は疼痛に対する防御姿勢が習慣化され,機能的脚長差を生じる可能性が指摘されている。それらを踏まえ,当院のHEでは骨盤アライメント調整運動を最初に行い,その後,関節可動域運動,ストレッチングにて可動性及び伸張性を得た後に筋力増強運動を行うように指導をしている。この一連の流れにより,疼痛部位に対するメカニカルストレスの緩和が得られた一つの要因と考えることができる。JOAスコアではgrade 1~3で有意な改善が認められたが,grade 4では有意な改善は認められなかった。その背景としてgrade 1~3に比べgrade 4では器質的変化が強く生じているため,主に股関節の屈曲を中心とした可動域制限や疼痛の改善が得られにくく,その結果JOAスコアにも反映されなかったものと考えられる。今回,股OAに対するHEの短期効果として,機能的な有効性を確認することができた一方,器質的影響が強い患者ではその有効性を示唆する見解は一部得られなかった。今後も継続的に追跡調査を行うことで,HEの長期効果について検証していきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,股OA患者に対するホームエクササイズの有効性を機能・器質的評価から短期的に検証した研究である。当院の取り組みを一つの例として,今後様々な取り組みが展開されることを期待したい。