第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節8

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM ポスター会場 (運動器)

座長:伊藤康弘(香川大学医学部附属病院リハビリテーション部)

運動器 ポスター

[0376] 末期変形性股関節症患者の転倒実態調査

生友尚志1, 永井宏達2, 田篭慶一1, 三浦なみ香1, 中川法一1, 増原建作3 (1.医療法人増原クリニックリハビリテーション科, 2.京都橘大学健康科学部理学療法学科, 3.医療法人増原クリニック整形外科)

Keywords:変形性股関節症, 転倒, 股関節

【はじめに,目的】
日本の65歳以上の地域在住高齢者の1年間での転倒発生率は10~20%と報告されている。高齢者において転倒は骨折などの重篤な傷害が生じる危険性があり,その予防対策は重要な課題となっている。一方,下肢の変性疾患は転倒発生の危険因子の1つとされているが,末期変形性股関節症(股OA)患者の転倒実態についての報告はほとんどない。そこで今回,末期股OA患者の転倒発生率や発生状況を明らかにすることを目的として転倒実態調査を実施したので報告する。
【方法】
2013年1月から10月までの間に人工股関節全置換術(THA)を目的に当クリニックに入院した末期股OAの女性患者127名を対象として転倒実態調査を実施した。慢性関節リウマチ,中枢神経障害,心臓疾患を有する症例,大腿骨頚部骨折術後,再THA,THA後1年以内の症例は対象から除外した。また,地域在住の同年代健常女性127名を対象として同様に転倒実態調査を実施した。
転倒実態調査は自己記入式のアンケートにて実施した。調査内容は過去1年間での転倒経験の有無と転倒回数,転倒発生時の状況(場所,時間帯,原因,方向,受傷内容)とした。股関節臨床評価としてHarris Hip Score(HHS)を用いた。罹病期間は最初に股関節に痛みや違和感が出始めてから調査日までの経過年数として調査した。転倒の定義はLambらの報告を参考にし,「いかなる理由であっても人が地面,床またはより低い面へ予期せず倒れること」とした。めまいや自転車,事故による転倒は分析対象から除外した。統計解析は,末期股OA患者と健常者の平均年齢の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。転倒発生者数と転倒発生状況の項目ごとの比較にはχ2検定を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の趣旨と内容を口頭ならびに書面にて十分に説明し,研究の参加の同意書に署名を得た。
【結果】
対象者のうち除外基準に該当せず,欠損データのない末期股OA患者100名(股OA群),健常者112名(健常群)を解析対象とした。平均年齢は股OA群62.6±9.5歳,健常群64.1±9.3歳であり,2群間に有意な差はなかった。股OA群のHHSは63.1±13.6点,罹病期間は9.4±9.4年であった。
過去1年間で転倒経験がある人は股OA群が35名,健常群が14名であった。転倒発生率は股OA群が35.0%,健常群が12.5%であり,股OA群のほうが有意に転倒発生が多かった(p<0.01)。
転倒発生状況において,股OA群,健常群それぞれの転倒者内での転倒場所の割合は,屋内が31%,14%,屋外が49%,79%,階段が20%,7%であった。転倒時間帯は,起床~10時が8%,29%,10時~17時が66%,50%,17時~就寝時が26%,21%,就寝~起床が0%,0%であった。転倒原因は,滑ったが9%,36%,つまずいたが43%,36%,バランスを崩したが48%,7%,物に当たったが0%,7%,その他が0%,14%であった。転倒方向は,前方が46%,64%,側方が43%,14%,後方が11%,22%であった。受傷内容は,怪我なしが34%,29%,打ち身が40%,21%,擦り傷が14%,43%,骨折が12%,7%であった。χ2検定の結果,転倒原因のみ2群間に有意な差がみられた(p<0.01)。また残差分析の結果,股OA群の転倒原因は健常群に比べてバランスを崩したが有意に多く(p<0.01),滑ったは有意に少なかった(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果,末期股OA患者の転倒発生率は同年代健常者に比べて非常に高いことがわかった。股OA群の転倒発生状況の特徴は,転倒場所は屋外が多く,時間帯は10時~17時の活動的な時間帯が多く,健常群と同様の傾向であった。転倒原因は2群ともつまずきによる転倒が多く,股OA群は健常群に比べてバランスを崩したことによる転倒が多かったが,滑ったことによる転倒は少なかった。転倒方向は2群とも前方への転倒が多かったが,股OA群においては側方への転倒も多くみられた。受傷内容は股OA群は打ち身が多く,骨折も12%みられた。末期股OA患者の転倒原因は健常者と異なる傾向があり,疾患特有の原因を有する可能性がある。今後,客観的な評価指標を含めた転倒原因の詳細な検討が必要であると考える。また,末期股OA患者は転倒発生率が高く,骨折者も多いことから転倒予防対策が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により末期股OA患者の転倒発生率が同年代健常者に比べて高いことが明らかとなった。今後,股OA患者の転倒発生原因の解明と転倒予防対策が必要であると考える。