[0381] 脳卒中後片麻痺患者の歩行時の前額面上における体幹運動の特徴
キーワード:片麻痺, 歩行, 体幹運動
【はじめに,目的】
臨床現場において,脳卒中後片麻痺患者の歩容異常として,左右方向の体幹運動が着目されることが多い。先行研究では,片麻痺患者における歩行時の体幹の非対称性の増加を加速度計を用いて検討したものがあるが,歩行周期における前額面上の体幹運動の特徴や,下肢筋力との関連を検討したものはない。このような歩行時の体幹運動について明確にすることは,理学療法評価やトレーニングに有効であると考えられる。本研究の目的は,片麻痺患者の歩行時の左右方向への体幹運動に着目して,その詳細を健常者と比較し,特徴を明らかにすることと,歩行に大きく影響すると考えられる麻痺側下肢筋力との関連を検討することである。
【方法】
対象は,脳卒中後片麻痺者(片麻痺群)13名(年齢59.5±8.7歳,男性8名,女性5名,下肢Brunnstrom Recovery Stage III4名,IV4名,V3名,VI2名)と,若年健常成人(健常群)10名(年齢22.4±0.8歳,男性5名,女性5名)とした。各対象者に快適速度での10m歩行を行わせた。測定には,Delsys社製3軸加速度筋電計(Trigno Wireless System)を用いた。踵部に装着した加速度計より,歩行時の足部の接地を判断し,1歩行周期時間を100%として時間の正規化を行った。さらに,身体背面部の第7頸椎部と第5腰椎部に装着した加速度計より,体幹と骨盤の前額面上での運動を測定した。5歩行周期時間における加速度の左右方向成分の平均値を,正が麻痺側(健常者右側),負が非麻痺側(健常者左側)になるように設定し算出した。体幹と骨盤の加速度計の値(C,L)から得られた波形の左右方向成分の差分(dCL)を求め,この波形のピーク値を算出した。dCLは骨盤に対して相対的に生じる体幹の加速度を表し,前額面上での体幹回転運動を示す。dCLの正負のピーク値を調べ,ピーク値が生じた時点でのC,Lの値を調べた。また,片麻痺群に対してはアニマ社製徒手筋力計を用い,下肢筋力(股関節屈曲,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈筋力)を測定した。統計解析は,Mann-WhitneyのU検定を用いて,片麻痺群と健常群のdCL,C,Lをそれぞれ比較した。また,Spearmanの順位相関係数を用いて,片麻痺群のdCL,C,Lと下肢筋力の関連を検討した。本研究の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得て,各対象者に測定方法および本研究の目的を説明した後,書面にて同意を得て行われた。
【結果】
dCLの結果から,前額面上での体幹回転運動の加速度が加わる方向は,健常群,片麻痺群ともに同様であった。両群とも,初期接地(IC)では接地側と反対側,両脚立脚期(DS)では接地側,単脚立脚期(SLS)では再び反対側であった。またC,Lの結果から,そのときの体幹,骨盤それぞれの左右方向への加速度が加わる方向も,両群に違いはなかった。体幹は,ICでは反対側,DSでは接地側,SLSでは接地側に加速されていた。骨盤は,ICでは接地側,DSでは反対側,SLSでは接地側に加速されていた。両群のdCL,C,Lの比較では,非麻痺側IC後のDSのdCL,両側のIC,DSのLにおいて,健常群の方が有意に大きくなった(p<0.05)。また,片麻痺群のdCL,C,Lと下肢筋力の関連では,Lにおいて,麻痺側ICの値と麻痺側膝関節伸展筋力(r=0.74,p<0.01),麻痺側DSと麻痺側膝関節屈曲筋力(r=0.81,p<0.001)に有意な相関が認められた。
【考察】
本研究の結果より,片麻痺患者における前額面上での体幹回転運動の加速度が加わる方向は,健常者と同様であった。片麻痺患者の前額面上での体幹回転運動の特徴は,非麻痺側接地後の非麻痺側方向への加速の減少にあった。健常者の歩行では,初期接地までに起こった接地方向への加速が荷重応答において減速されるために,接地側への体幹の回転が生じる。片麻痺患者では,初期接地までの加速が小さいため骨盤に対する減速も小さくなり,結果として,非麻痺側方向への体幹回転運動は小さくなったと考えられる。また,片麻痺患者の骨盤と体幹の左右方向への加速度が加わる方向には,下肢筋力が関連しており,麻痺側初期接地での骨盤の加速と膝関節伸展筋力が,麻痺側接地後の両脚立脚期での骨盤の減速と膝関節屈曲筋力が相関を示した。初期接地での骨盤の麻痺側方向への加速が生じるためには,膝関節伸展筋力による支持性が必要であり,両脚立脚期ではハムストリングスの股関節伸展作用が弱くなると,骨盤への減速が生じにくくなると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中後片麻痺者において,下肢筋力が歩行時の骨盤の左右方向への加速が加わる方向に影響しており,特に麻痺側膝関節屈曲・伸展筋力の増加が,歩行能力向上に重要であると考えられる。
臨床現場において,脳卒中後片麻痺患者の歩容異常として,左右方向の体幹運動が着目されることが多い。先行研究では,片麻痺患者における歩行時の体幹の非対称性の増加を加速度計を用いて検討したものがあるが,歩行周期における前額面上の体幹運動の特徴や,下肢筋力との関連を検討したものはない。このような歩行時の体幹運動について明確にすることは,理学療法評価やトレーニングに有効であると考えられる。本研究の目的は,片麻痺患者の歩行時の左右方向への体幹運動に着目して,その詳細を健常者と比較し,特徴を明らかにすることと,歩行に大きく影響すると考えられる麻痺側下肢筋力との関連を検討することである。
【方法】
対象は,脳卒中後片麻痺者(片麻痺群)13名(年齢59.5±8.7歳,男性8名,女性5名,下肢Brunnstrom Recovery Stage III4名,IV4名,V3名,VI2名)と,若年健常成人(健常群)10名(年齢22.4±0.8歳,男性5名,女性5名)とした。各対象者に快適速度での10m歩行を行わせた。測定には,Delsys社製3軸加速度筋電計(Trigno Wireless System)を用いた。踵部に装着した加速度計より,歩行時の足部の接地を判断し,1歩行周期時間を100%として時間の正規化を行った。さらに,身体背面部の第7頸椎部と第5腰椎部に装着した加速度計より,体幹と骨盤の前額面上での運動を測定した。5歩行周期時間における加速度の左右方向成分の平均値を,正が麻痺側(健常者右側),負が非麻痺側(健常者左側)になるように設定し算出した。体幹と骨盤の加速度計の値(C,L)から得られた波形の左右方向成分の差分(dCL)を求め,この波形のピーク値を算出した。dCLは骨盤に対して相対的に生じる体幹の加速度を表し,前額面上での体幹回転運動を示す。dCLの正負のピーク値を調べ,ピーク値が生じた時点でのC,Lの値を調べた。また,片麻痺群に対してはアニマ社製徒手筋力計を用い,下肢筋力(股関節屈曲,膝関節屈曲・伸展,足関節背屈・底屈筋力)を測定した。統計解析は,Mann-WhitneyのU検定を用いて,片麻痺群と健常群のdCL,C,Lをそれぞれ比較した。また,Spearmanの順位相関係数を用いて,片麻痺群のdCL,C,Lと下肢筋力の関連を検討した。本研究の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得て,各対象者に測定方法および本研究の目的を説明した後,書面にて同意を得て行われた。
【結果】
dCLの結果から,前額面上での体幹回転運動の加速度が加わる方向は,健常群,片麻痺群ともに同様であった。両群とも,初期接地(IC)では接地側と反対側,両脚立脚期(DS)では接地側,単脚立脚期(SLS)では再び反対側であった。またC,Lの結果から,そのときの体幹,骨盤それぞれの左右方向への加速度が加わる方向も,両群に違いはなかった。体幹は,ICでは反対側,DSでは接地側,SLSでは接地側に加速されていた。骨盤は,ICでは接地側,DSでは反対側,SLSでは接地側に加速されていた。両群のdCL,C,Lの比較では,非麻痺側IC後のDSのdCL,両側のIC,DSのLにおいて,健常群の方が有意に大きくなった(p<0.05)。また,片麻痺群のdCL,C,Lと下肢筋力の関連では,Lにおいて,麻痺側ICの値と麻痺側膝関節伸展筋力(r=0.74,p<0.01),麻痺側DSと麻痺側膝関節屈曲筋力(r=0.81,p<0.001)に有意な相関が認められた。
【考察】
本研究の結果より,片麻痺患者における前額面上での体幹回転運動の加速度が加わる方向は,健常者と同様であった。片麻痺患者の前額面上での体幹回転運動の特徴は,非麻痺側接地後の非麻痺側方向への加速の減少にあった。健常者の歩行では,初期接地までに起こった接地方向への加速が荷重応答において減速されるために,接地側への体幹の回転が生じる。片麻痺患者では,初期接地までの加速が小さいため骨盤に対する減速も小さくなり,結果として,非麻痺側方向への体幹回転運動は小さくなったと考えられる。また,片麻痺患者の骨盤と体幹の左右方向への加速度が加わる方向には,下肢筋力が関連しており,麻痺側初期接地での骨盤の加速と膝関節伸展筋力が,麻痺側接地後の両脚立脚期での骨盤の減速と膝関節屈曲筋力が相関を示した。初期接地での骨盤の麻痺側方向への加速が生じるためには,膝関節伸展筋力による支持性が必要であり,両脚立脚期ではハムストリングスの股関節伸展作用が弱くなると,骨盤への減速が生じにくくなると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中後片麻痺者において,下肢筋力が歩行時の骨盤の左右方向への加速が加わる方向に影響しており,特に麻痺側膝関節屈曲・伸展筋力の増加が,歩行能力向上に重要であると考えられる。