[0385] 脳卒中後片麻痺者の加速度計を用いた体幹の運動についての歩行分析
キーワード:脳卒中後片麻痺者, 歩行, 体幹
【はじめに,目的】
通常歩行における運動は,骨盤-下肢の運動であるLocomotor Unitと頭部から上肢,骨盤にかけてのPassenger Unitに分けて考えることができる。健常者における歩行中のPassenger Unitの運動は周期的に対称的で安定した動きとなる。これに対して脳卒中後片麻痺者(以下,片麻痺者)の歩行ではPassenger Unitが非対称性や不安定性を呈することが報告されている(Hodt-Billington et al, 2008)。この研究では体幹の運動を調べるために,腰椎部に加速度を貼付し,前後,左右,上下方向の加速度における麻痺側-非麻痺側の違いを検討しているが,体幹の運動を考える際には頭部と骨盤の相互関係を考慮する必要があると考えられる。しかし,このような側面から片麻痺者のPassenger Unitの運動を検討した報告はない。本研究では,Passenger Unitの運動を簡便に評価するために,3軸加速度計を用いて,歩行時の体幹の矢状面上の運動を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,片麻痺者13名(以下,片麻痺群。地域在住慢性期8名,回復期病棟入院患者5名,平均年齢59.4±8.3歳,男性7名,女性6名,下肢Brunnstrom Recovery StageIII4名,IV4名,V3名,VI2名,発症後平均3.7±5.7年),健常若年者10名(以下,健常群。平均年齢22.4±0.8歳,男性5名,女性5名)とした。3軸加速度計(Delsys社製)は両踵部,腰部(L5),頸部(C7)に貼付し,5mあるいは10mの歩行路での快適歩行速度での歩行を2回行った。この時,杖は使用せず装具の有無は問わなかった。
解析対象は,進行方向の頸部(以下,CA)と腰部(以下,LA)の加速度データの前後方向成分とした。得られた加速度データから,安定した5歩行周期を解析区間とし100%に時間の正規化を行って1歩行周期の平均波形を求めたのち,歩行周期の平均値を0としてオフセットを行った。また,CAからLAを差分した値をCLAとして算出した。したがって,CLAが正の時は,骨盤からみて体幹が前方回転しており,負の値の時は後方回転していることを表している。CA,LA,CLAの加速度データの初期接地時の値(IC),踵接地直後の最小値(LR),反対側離地前後の最大値(TO),反対側初期接地前の最大値(TSt)を抽出し,解析に用いた。統計処理は,群間比較をMann-WhitneyのU検定を用い,歩行速度とCLAの各値の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて調べ,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本学倫理委員会の承認を得て,対象者には本研究の趣旨を説明した後,書面にて同意を得て行われた。
【結果】
CLAの比較において,片麻痺群は健常群と比較して麻痺側立脚期ではICとTStに有意な差があり,ICでは健常群が前方回転しているのに対して片麻痺群では後方回転していた。TStでは片麻痺群の前方回転が小さかった。非麻痺側立脚期ではICの時に麻痺側と同様の運動となり,有意差が認められた。CAの各値の比較では,麻痺側はすべての値が健常群より有意に前方への加速度が小さく,非麻痺側でもICとTStで有意に小さかった。LAの各値での比較では,麻痺側のLRとTStのみ有意に前方への加速度が小さかった。また,CLAの各値と歩行速度には,健常群ではすべての値で有意な相関がなかったが,片麻痺群では麻痺側のIC(r=-0.65),LR(r=-0.88),TO(r=0.70),TSt(r=0.79)および,非麻痺側のLR(r=-0.69)で有意な相関がみられた。
【考察】
今回の結果から,健常群と比べると,片麻痺群では麻痺側,非麻痺側ともに接地時に体幹が後方回転しており,麻痺側の立脚後期で体幹の前方回転が低下する特徴が示された。麻痺側接地時に体幹が後方回転する理由は,麻痺側への急激な衝撃を避けるためであると考えられるが,非麻痺側の接地時の体幹の後方回転は,麻痺側のTStの時期に麻痺側下肢による前方方向への力が形成できないために,体幹に生じる体幹の前方回転が小さくなり,結果として非麻痺側の後方回転が生じると考えられた。健常群ではCLAと歩行速度の関連はなかった。このことから健常者はLocomotor Unitの働きが重要であり,Passenger Unitが歩行速度に与える影響は少ないと考えられる。しかし,片麻痺群ではPassenger Unitの働きが歩行速度と密接に関連することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,頭部と骨盤の相互関係を考慮してPassenger Unitの矢状面上の運動を明らかにすることで,片麻痺者の歩行時の体幹の運動を検討する手掛かりになったと考えられる。
通常歩行における運動は,骨盤-下肢の運動であるLocomotor Unitと頭部から上肢,骨盤にかけてのPassenger Unitに分けて考えることができる。健常者における歩行中のPassenger Unitの運動は周期的に対称的で安定した動きとなる。これに対して脳卒中後片麻痺者(以下,片麻痺者)の歩行ではPassenger Unitが非対称性や不安定性を呈することが報告されている(Hodt-Billington et al, 2008)。この研究では体幹の運動を調べるために,腰椎部に加速度を貼付し,前後,左右,上下方向の加速度における麻痺側-非麻痺側の違いを検討しているが,体幹の運動を考える際には頭部と骨盤の相互関係を考慮する必要があると考えられる。しかし,このような側面から片麻痺者のPassenger Unitの運動を検討した報告はない。本研究では,Passenger Unitの運動を簡便に評価するために,3軸加速度計を用いて,歩行時の体幹の矢状面上の運動を検討することを目的とした。
【方法】
対象は,片麻痺者13名(以下,片麻痺群。地域在住慢性期8名,回復期病棟入院患者5名,平均年齢59.4±8.3歳,男性7名,女性6名,下肢Brunnstrom Recovery StageIII4名,IV4名,V3名,VI2名,発症後平均3.7±5.7年),健常若年者10名(以下,健常群。平均年齢22.4±0.8歳,男性5名,女性5名)とした。3軸加速度計(Delsys社製)は両踵部,腰部(L5),頸部(C7)に貼付し,5mあるいは10mの歩行路での快適歩行速度での歩行を2回行った。この時,杖は使用せず装具の有無は問わなかった。
解析対象は,進行方向の頸部(以下,CA)と腰部(以下,LA)の加速度データの前後方向成分とした。得られた加速度データから,安定した5歩行周期を解析区間とし100%に時間の正規化を行って1歩行周期の平均波形を求めたのち,歩行周期の平均値を0としてオフセットを行った。また,CAからLAを差分した値をCLAとして算出した。したがって,CLAが正の時は,骨盤からみて体幹が前方回転しており,負の値の時は後方回転していることを表している。CA,LA,CLAの加速度データの初期接地時の値(IC),踵接地直後の最小値(LR),反対側離地前後の最大値(TO),反対側初期接地前の最大値(TSt)を抽出し,解析に用いた。統計処理は,群間比較をMann-WhitneyのU検定を用い,歩行速度とCLAの各値の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて調べ,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本学倫理委員会の承認を得て,対象者には本研究の趣旨を説明した後,書面にて同意を得て行われた。
【結果】
CLAの比較において,片麻痺群は健常群と比較して麻痺側立脚期ではICとTStに有意な差があり,ICでは健常群が前方回転しているのに対して片麻痺群では後方回転していた。TStでは片麻痺群の前方回転が小さかった。非麻痺側立脚期ではICの時に麻痺側と同様の運動となり,有意差が認められた。CAの各値の比較では,麻痺側はすべての値が健常群より有意に前方への加速度が小さく,非麻痺側でもICとTStで有意に小さかった。LAの各値での比較では,麻痺側のLRとTStのみ有意に前方への加速度が小さかった。また,CLAの各値と歩行速度には,健常群ではすべての値で有意な相関がなかったが,片麻痺群では麻痺側のIC(r=-0.65),LR(r=-0.88),TO(r=0.70),TSt(r=0.79)および,非麻痺側のLR(r=-0.69)で有意な相関がみられた。
【考察】
今回の結果から,健常群と比べると,片麻痺群では麻痺側,非麻痺側ともに接地時に体幹が後方回転しており,麻痺側の立脚後期で体幹の前方回転が低下する特徴が示された。麻痺側接地時に体幹が後方回転する理由は,麻痺側への急激な衝撃を避けるためであると考えられるが,非麻痺側の接地時の体幹の後方回転は,麻痺側のTStの時期に麻痺側下肢による前方方向への力が形成できないために,体幹に生じる体幹の前方回転が小さくなり,結果として非麻痺側の後方回転が生じると考えられた。健常群ではCLAと歩行速度の関連はなかった。このことから健常者はLocomotor Unitの働きが重要であり,Passenger Unitが歩行速度に与える影響は少ないと考えられる。しかし,片麻痺群ではPassenger Unitの働きが歩行速度と密接に関連することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,頭部と骨盤の相互関係を考慮してPassenger Unitの矢状面上の運動を明らかにすることで,片麻痺者の歩行時の体幹の運動を検討する手掛かりになったと考えられる。