第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法8

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 ポスター会場 (神経)

座長:大垣昌之(社会医療法人愛仁会愛仁会リハビリテーション病院リハ技術部)

神経 ポスター

[0386] 脳卒中後半側空間無視患者の回復過程における拡散テンソルTractographyによる脳内の経時的変化

長澤由季1, 猪村剛史1, 今田直樹1, 出海弘章2, 前田忠紀2, 沖修一3, 江本克也3, 山崎弘幸3, 谷到3, 鮄川哲二3, 荒木攻3 (1.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院リハビリテーション部, 2.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院検査部診療放射線科, 3.医療法人光臨会荒木脳神経外科病院診療部)

キーワード:脳卒中, 拡散テンソルTractography, 半側空間無視

【はじめに,目的】
脳卒中による右半球損傷患者の中には,左の空間を認識できない症状を認めることがしばしばある。従来より,左半側空間無視(以下,USN)が生じる病巣の特定について,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使用した研究がされてきた。近年では,連続した脳白質神経線維の走行を描出する,拡散テンソルTractography(以下,Tractography)により,3次元で脳白質線維の走行を捉え,障害部位の特定に用いられている。しかし,半側空間無視患者の回復に伴う経時的な脳内の変化を捉えた報告は少ないため,本症例検討では,Tractographyを用いて脳卒中後の半側空間無視患者の回復過程における脳内変化を水の拡散異方性の強さを示すfractional anisotropy(以下,FA値)に着目して検討する。
【方法】
対象は,平成25年9月に右被殻出血の診断で当院に入院した70代の女性1例とした。Tractographyの撮影は初回検査(発症から2日),発症時から約1ヶ月(以下,2回目)に撮影した。TractographyはPhilips社製3.0Tesla-MRI装置を使用した。撮影は基準線を眼窩外耳孔線とし,MPG印加軸数16軸,b value=1000s/mm³,スライス間隔は3mm,撮影枚数は50枚の条件で行った。解析にはPhilips社製Fiber Trackを使用し,上縦束・弓状束(以下,SLF/AF),下前頭後頭束(以下IFOF),下縦束(以下ILF),視放線(以下OR)を描出した。各々の関心領域には,SLF/AFは前頭葉と下頭頂小葉,IFOFは外包と後頭葉,ILFは側頭葉と後頭葉,ORは外側膝状体と一次視覚野に設定し,左右の描出線維を算出した。機能評価は線分二等分試験,線分末梢試験,花模写課題,FIMを用い,Tractographyの撮影時期に合わせて計2回評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院の医道倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
初回検査のFA値は,SLF/AF右側0.34,左側0.365,IFOF右側0.394,左側0.4,ILF右側0.365,左側0.405,OR右側0.428,左側0.403.2回目のFA値は,SLF/AF右側0.299,左側0.381,IFOF右側0,左側0.408,ILF右側0.313,左側0.432,OR右側0.383,左側0.377であり,左右のFA値を比較すると右側のFA値の低下と経時的な変化に伴い非損傷側のFA値の増加を認めた。機能評価の結果は,初回検査時に線分二等分試験,線分末梢試験でUSNは陽性であり,FIMは26点であった。2回目は線分二等分試験,線分末梢試験のいずれにおいても改善を認め,FIMも47点へ増加している。
【考察】
本症例検討では,発症から約1ヵ月後に線分二等分試験,線分末梢試験USNの改善を認め,同様に,非損傷側のFA値の増加を認めた。従来の報告では,慢性期のUSNが残存している患者のSLF,AF,IFOF,ORの損傷では,左の視空間の無視を認めたとの報告やSLFの一時的な不活性は一時的なUSNの症状を認めるなどもあるが,回復に伴う経時的な脳内の神経ネットワークの変化についての報告は少なく,未だ明確でない。また,左右の半球での連合線維の構造には差があり,弓状束前部線維ではFA値の左右差もあるとの報告もある。今回の症例報告では,脳卒中によるUSNの出現に対し,非損傷側の活動も関与をしている可能性が示唆される。しかし,今回は一症例検討に過ぎず,損傷部位の大きさや位置によっても反応は異なる可能性があり,今後は更に,対象のサンプル数を増やし,TractographyとUSN患者の脳内での神経ネットワークの変化を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,Tractographyが脳卒中後の半側空間無視の機能回復過程における評価法および予後予測因子として有用な可能性が示唆され,脳卒中領域における理学療法の発展に寄与すると考えられる。