第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法8

Fri. May 30, 2014 2:25 PM - 3:15 PM ポスター会場 (神経)

座長:大垣昌之(社会医療法人愛仁会愛仁会リハビリテーション病院リハ技術部)

神経 ポスター

[0389] pushing現象を認める脳卒中片麻痺患者に対する体重免荷式歩行器での治療効果

谷口佳奈子 (鳥取生協病院リハビリテーション室)

Keywords:体重免荷式歩行器, Pushing, シングルケースデザイン

【はじめに,目的】
近年,体重免荷式(B期ody Weight Support:以下BWS)歩行支援装置を利用したトレーニングが,日本でも多くの施設で実施されるようになり,脊髄損傷や脳血管疾患をはじめ,様々な疾患に対する効果が報告されている。しかし,BWS装置を用いたトレッドミル上での歩行訓練が一般的であり,歩行器と一体化した機器を使用したケースは少ない。今回,BWS機能付き歩行器を使用し,Ipsilateral pushing現象(以下pushing)の軽減が得られた脳卒中片麻痺患者を担当する機会を得たため,経過・考察を交え報告する。
【方法】
対象は右被殻出血発症後4ヶ月以上経過した73歳,女性,Brunnstrom recovery stageII-III-II,感覚障害,半側空間無視,失認,失行,pushingを伴っておりADL全介助レベルの症例である。
研究デザインはAB期Aによるシングルケースデザインを用いた。治療の初回非介入期をA1期,介入期をB期,第2回非介入期をA2期と定義し,各々1週間(週6日ずつ)設けた。B期は通常の理学療法(1時間)終了後に,BWS歩行器(POPO REH-100株式会社モリトー)にて約10mの歩行運動を実施し,A1期・A2期には通常の理学療法のみを実施した。測定項目はScale for Contraversive Pushing(以下SCP),端座位保持時間,殿部荷重比とし各期の治療前後で評価を実施した。BWS歩行器の免荷率量は体重の40%とし,麻痺側下肢の振り出しは介助下にて実施した。各評価の経時的変化は各期にCeleration line(以下CL)で示し,A1期・A2期とB期の比較にはSplit-midl lineを用いて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,対象者には本研究の趣旨について事前に十分な説明を行い,同意を得たうえで実施した。
【結果】
SCPはA1期・A2期・B期において介入前後でスコアが低下し特にB期では大きな変化が得られた。またA1期およびA2期のCLと比較して,B期で大きく低下しPushing軽減を認めた。端座位保持時間,殿部荷重比はともにB期で改善を認め,A1期・A2期の平均値は端座位保持時間でA=22秒,B期=23秒,殿部荷重比でA=24%,B期=32%と大きな変化がないが,CLの傾きは,A1期は右上がり,A2期は右下がりのグラフを示した。
【考察】
今回,B期においてpushing軽減,端座位保持能力の向上を認めた。BWS歩行器使用による利点として,まず安定した免荷による恐怖心軽減,パターン運動による両側性の感覚入力の促進,それによるCPG駆動が考えられる。骨格筋からの入力を受ける介在細胞は歩行パターンの生成に関与(高草木)し,また歩行様筋活動が免荷による身体荷重量や股関節の動作範囲・動作様式がCPG活動に影響する(川島)との報告がある。今回,歩行運動により麻痺側からの筋感覚・荷重感覚情報を上位中枢に伝達することで運動制御に有用な情報が得られたと考えた。次に周辺視野情報の手がかりが得られたことが考えられる。オプティカルフローから知覚された自己の座標系の傾きは,動的な周辺視野情報によって得られる。自己の移動に伴い変化する周辺視野情報は,トレッドミル上での歩行運動では得られない要素であり,A1期・A2期と比較しても情報量が多いことからB期において端座位保持時間の向上,殿部荷重比の均等化が図れた一要因であることがいえる。
pushingの出現メカニズムとして非麻痺側空間,身体からの情報に対し健常半球に過剰な受容と認知がなされ,その結果運動系の過剰活動が生じる(沼田ら)との報告がある。本症例においては,上記のことから麻痺側からの感覚入力の促進により身体図式が再構成されたことがpushingの軽減,端座位保持能力向上を認めた要因と考える。ただし,身体図式は常時更新されているため,A2期においてCLは全体的に右下がりを示し,A1期と同様の身体図式へと更新されたと推測する。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はpushingを認める脳卒中片麻痺患者に対するBWS歩行器での治療効果を検討した報告である。結果からpushingの軽減,端座位保持能力向上を認め,本介入の治療効果があったと考える。今後,症例を重ねることでその効果を他症例でも認めることができれば,pushingに対する有効な治療介入になると思われる。