第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学,運動生理学

2014年5月30日(金) 15:20 〜 17:05 第4会場 (3F 302)

座長:中山彰博(帝京科学大学医療科学部理学療法学科), 磯貝香(常葉大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 セレクション

[0403] 筋収縮強度の違いが運動準備期の脳酸素動態に及ぼす影響

高井遥菜1,2, 椿淳裕1, 菅原和広1, 宮口翔太1,2, 小柳圭一2,3, 松本卓也1,2, 大西秀明1 (1.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 2.新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科, 3.神戸市立医療センター中央市民病院リハビリテーション技術部)

キーワード:近赤外線分光法(NIRS), 循環応答, 運動準備期

【はじめに,目的】運動時の循環調節には,筋の代謝性需要に応じた調節のほか,中枢性の循環調節が考えられている。これは,高位運動中枢からの運動指令と並行して,運動開始前から予測的に循環調節を行うことで運動開始時の急激な血圧上昇を防ぎ,スムーズな運動開始を可能とするものである。我々は,この運動準備期における体循環応答に着目し,運動準備期の平均血圧は,低強度,高強度の運動に比して中強度運動で有意に上昇することを明らかにした。本研究では,非侵襲的で,被験者の身体的拘束が少なく,運動時の脳活動を記録するのに適しているとされる近赤外線分光法(NIRS)を用い,中枢性循環調節の起源として注目される大脳皮質運動関連領野の運動準備期の活動を明らかにすることを目的とした。
【方法】エジンバラ利き手テストにて右利きと判定された健常成人6名(年齢:21.8±0.75歳)を対象に,最大随意収縮時筋張力の10%(低強度),50%(中強度),90%(高強度)の右手掌握運動と,運動を行わない対照条件を含む計4条件の課題の運動準備期における大脳皮質運動関連領野の脳血流動態と体循環応答を計測した。脳血流動態の計測はNIRSを使用し,左右の一次運動野(M1),運動前野(PMC),補足運動野(SMA)における酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)量を計測した。各被験者の計測位置統一のため,国際式10-20法におけるCzを基準に,照射プローブおよび受光プローブを装着し,38チャネルで計測を行った。NIRSの問題点として,測定値に頭皮血流の影響を含む可能性が指摘されているため,レーザー組織血流計により前額部の頭皮血流(SBF)も同時に計測した。平均血圧(MAP),心拍数(HR)は非掌握側第3指に装着した連続血行血圧動態装置で心拍一拍毎に計測した。プロトコルは安静120秒の後,運動20秒とし,各条件をランダムに行った。各データは安静中の20秒間の平均値からの変化量を用いた。運動直前の20秒間を運動準備期として,この区間の平均値を結果として扱った。統計処理は,各脳領域のoxy-Hb量に関しては「強度」×「半球側」×「領域」の3元配置分散分析,循環応答に関しては「強度」×「半球側」の2元配置分散分析を行った後,それぞれTukey HSD法による多重比較検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した。被験者には実験内容について十分に説明をし,書面にて同意を得た。
【結果】運動準備期における各領域のoxy-Hb平均値(単位:a.u.)は,M1において左半球で対照条件-0.398,低強度0.132,中強度-0.211,高強度1.173,右半球で対照条件0.263,低強度-0.034,中強度-0.337,高強度0.2304であった。PMCにおいては,左半球で対照条件-0.911,低強度0.1884,中強度-0.544,高強度0.7632,右半球で対照条件0.3169,低強度-0.509,中強度-0.003,高強度0.1173であった。SMAにおいては,左半球で対照条件-0.541,低強度0.037,中強度-0.631,高強度0.2861,右半球で対照条件0.282,低強度-0.05,中強度0.071,高強度-0.032であった。統計の結果,oxy-Hb量に関して,半球側,ならびに領域要因に差はなく(半球側(p=0.586),領域(p=0.626)),強度要因において高強度運動条件が他の条件に比べ有意に高い結果となった(p<0.05)。循環応答に関しては,MAP(半球側(p=0.969),強度(p=0.832)),HR(半球側(p=0.338),強度(p=0.499)),SBF(半球側(p=0.534),強度(p=0.342))と各要因間に有意な差は認められなかった。
【考察】各条件のSBF値に差がなかったことから,本結果への皮膚血流による影響は少ないと考えられる。本結果より,運動準備期には大脳皮質運動関連領野の中でも,一次運動野と運動前野において神経活動賦活が生じることが示された。運動中の脳循環動態を検証した研究では,脳血流量は筋収縮強度に依存して上昇することが示されており,この時MAPやHRも同様に変化することが報告されている(Sato K et al,2009)。本研究において循環応答に収縮強度による差は見られなかったが,MAPは中強度運動で最も上昇するという我々の先行研究の結果と合わせて考えると,運動準備期では脳血流量は筋収縮強度に依存するが,体循環反応はこれとは異なる可能性が考えられた。これに関わる因子として,今後自律神経系や運動準備に関わる大脳皮質運動関連領野の機能的な関わりをより詳細に検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】運動準備期の体循環調節と運動野との関係を検証することで,より安全な運動の処方や,運動による効率的な脳の賦活化の指標とすることが出来,運動療法をより有益なものとする手掛かりとなると考える。