[0404] 胸腔鏡下肺葉切除術の退院後の運動耐容能に影響を及ぼす因子
Keywords:肺癌, 呼吸リハビリテーション, 術後運動耐容能
【はじめに】
当院では胸腔鏡下肺葉切除術(thoracoscopic lobectomy:TL)を施行した非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)患者全例に入院呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行っている。しかしTLは低侵襲手術であるため在院日数の短縮が可能になり,呼吸リハ介入も短期間になっている。これまで術後外来呼吸リハ継続は行っておらず,退院後の運動耐容能の経過は不明であった。そこで今回,退院後のTL患者の運動耐容能を測定し,その回復に関与する因子や,術前から退院後までの運動耐容能の推移を検討したので報告する。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は対象者全員に十分な説明を行い,同意を得た上で理学療法を実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。
【方法】
対象は,当院にて2012年10月~2013年10月までにTLと呼吸リハを施行され術前歩行が自立していたNSCLC患者(n=37,平均年齢68.3±7.5歳(54~83歳,中央値68歳))とした。呼吸リハは,手術後1病日(POD1)より早期離床を行い,POD2から退院日まで1日2回午前・午後と運動療法を行った。下肢筋力(等尺性膝伸展筋力)と運動耐容能(6分間歩行距離:6MWD)を,手術前,POD2,POD7,退院時,退院後(POD30)の計5回測定した。6MWDが手術前に比し,退院後(POD30)に100%以上回復しているか否かで,対象を回復群と低下群の2群に分類した。単変量解析として,連続変数の検定には正規性に応じて対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を,名義・順序変数にはFisherの正確検定を用い,患者因子および手術因子を両群間で比較した。多変量解析は,退院後6MWD回復or低下を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を用い,独立変数は単変量解析にて有意差を認めた背景因子とした。手術前から退院後(POD30)までの運動耐容能の推移を明らかにする目的で,計5回の各測定時期での6MWDを両群間で比較し,また反復測定の分散分析(repeated measures ANOVA)を行った。有意水準は危険率5%とした。
【結果】
退院後6MWD回復群は17例(45.9%),低下群は20例(54.1%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,退院後6MWD回復に関与する有意な独立変数は,年齢(>70歳)[odds ratio(OR),0.102;95% confidence interval(CI),0.0169-0.615;p=0.0128]と,退院時下肢筋力(<220N)[OR,9.820;95% CI, 1.6300-59.300;p=0.0128]であった。各測定時期での6MWDの比較においては,手術前~退院時(p=0.936,p=0.35,p=0.215,p=0.0698,respectively)では有意差を認めなかったが,退院後(POD30)にのみ両群間に有意差を認めた(p=0.0011)。反復測定の分散分析の結果,経時変化の比較(p<0.001)と交互作用(p<0.001)に有意差を認めた。
【考察】
本研究の対象者においては,全体の半数以上で,退院後(POD30)運動耐容能が術前レベルまで回復できていなかった。多変量解析の結果,その有意な独立因子は年齢と退院時下肢筋力であった。つまり,退院時の下肢筋力が低下した高齢患者群では,退院後に身体活動量が落ち,運動耐容能が回復出来ていない可能性が示唆された。運動耐容能の推移に関しては,両群間で入院中では有意差なく退院後(POD30)にのみ有意差を認めたことと,反復測定の分散分析で群間要因が有意でなかったことから,術後の運動耐容能は両群とも退院までは同様に推移するが,退院後においては回復群は右肩上がりに回復するのに対し,低下群では減少に転じてしまうことが判明した。したがって,呼吸リハ介入に関しては,高齢かつ退院時下肢筋力が低下した患者群に対して,外来呼吸リハなどの何らかの継続介入の必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回TL患者の退院後の運動耐容能回復に関与する因子を明らかにした。開胸下の肺切除術後患者に対する呼吸リハの報告は散見されるが,今回の結果によって,低侵襲手術であるTL患者の退院後呼吸リハの必要性がより高い症例を検出する事が出来るのではないかと考える。適応患者を厳選することで,より効果的な理学療法介入に寄与出来るのではないかと考える。
当院では胸腔鏡下肺葉切除術(thoracoscopic lobectomy:TL)を施行した非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)患者全例に入院呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行っている。しかしTLは低侵襲手術であるため在院日数の短縮が可能になり,呼吸リハ介入も短期間になっている。これまで術後外来呼吸リハ継続は行っておらず,退院後の運動耐容能の経過は不明であった。そこで今回,退院後のTL患者の運動耐容能を測定し,その回復に関与する因子や,術前から退院後までの運動耐容能の推移を検討したので報告する。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は対象者全員に十分な説明を行い,同意を得た上で理学療法を実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。
【方法】
対象は,当院にて2012年10月~2013年10月までにTLと呼吸リハを施行され術前歩行が自立していたNSCLC患者(n=37,平均年齢68.3±7.5歳(54~83歳,中央値68歳))とした。呼吸リハは,手術後1病日(POD1)より早期離床を行い,POD2から退院日まで1日2回午前・午後と運動療法を行った。下肢筋力(等尺性膝伸展筋力)と運動耐容能(6分間歩行距離:6MWD)を,手術前,POD2,POD7,退院時,退院後(POD30)の計5回測定した。6MWDが手術前に比し,退院後(POD30)に100%以上回復しているか否かで,対象を回復群と低下群の2群に分類した。単変量解析として,連続変数の検定には正規性に応じて対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を,名義・順序変数にはFisherの正確検定を用い,患者因子および手術因子を両群間で比較した。多変量解析は,退院後6MWD回復or低下を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を用い,独立変数は単変量解析にて有意差を認めた背景因子とした。手術前から退院後(POD30)までの運動耐容能の推移を明らかにする目的で,計5回の各測定時期での6MWDを両群間で比較し,また反復測定の分散分析(repeated measures ANOVA)を行った。有意水準は危険率5%とした。
【結果】
退院後6MWD回復群は17例(45.9%),低下群は20例(54.1%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,退院後6MWD回復に関与する有意な独立変数は,年齢(>70歳)[odds ratio(OR),0.102;95% confidence interval(CI),0.0169-0.615;p=0.0128]と,退院時下肢筋力(<220N)[OR,9.820;95% CI, 1.6300-59.300;p=0.0128]であった。各測定時期での6MWDの比較においては,手術前~退院時(p=0.936,p=0.35,p=0.215,p=0.0698,respectively)では有意差を認めなかったが,退院後(POD30)にのみ両群間に有意差を認めた(p=0.0011)。反復測定の分散分析の結果,経時変化の比較(p<0.001)と交互作用(p<0.001)に有意差を認めた。
【考察】
本研究の対象者においては,全体の半数以上で,退院後(POD30)運動耐容能が術前レベルまで回復できていなかった。多変量解析の結果,その有意な独立因子は年齢と退院時下肢筋力であった。つまり,退院時の下肢筋力が低下した高齢患者群では,退院後に身体活動量が落ち,運動耐容能が回復出来ていない可能性が示唆された。運動耐容能の推移に関しては,両群間で入院中では有意差なく退院後(POD30)にのみ有意差を認めたことと,反復測定の分散分析で群間要因が有意でなかったことから,術後の運動耐容能は両群とも退院までは同様に推移するが,退院後においては回復群は右肩上がりに回復するのに対し,低下群では減少に転じてしまうことが判明した。したがって,呼吸リハ介入に関しては,高齢かつ退院時下肢筋力が低下した患者群に対して,外来呼吸リハなどの何らかの継続介入の必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回TL患者の退院後の運動耐容能回復に関与する因子を明らかにした。開胸下の肺切除術後患者に対する呼吸リハの報告は散見されるが,今回の結果によって,低侵襲手術であるTL患者の退院後呼吸リハの必要性がより高い症例を検出する事が出来るのではないかと考える。適応患者を厳選することで,より効果的な理学療法介入に寄与出来るのではないかと考える。