第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防5

2014年5月30日(金) 15:20 〜 16:10 第6会場 (3F 304)

座長:武政誠一(神戸国際大学リハビリテーション学部理学療法学科)

生活環境支援 口述

[0409] 自主参加型体操グループへ参加している地域在住高齢者における腰痛・膝痛の有無と運動機能および精神的健康の関係

植田拓也1,2, 柴喜崇2,3, 栗原翔3, 前田悠紀人4, 渡辺修一郎2,5 (1.医療法人社団涓泉会山王リハビリ・クリニック, 2.桜美林大学加齢・発達研究所, 3.北里大学医療衛生学部, 4.港北整形外科, 5.桜美林大学大学院老年学研究科)

キーワード:高齢者, 疼痛, 運動機能

【はじめに,目的】
高齢者が有する疼痛は身体機能の低下(安齋,2012)や,IADL,健康関連QOLの低下につながるとされており(Woo,2009),運動は疼痛の軽減に有効であるとされている。しかし,昨年我々が報告した自主参加型体操グループへの参加中止の要因では,実際の参加中止した理由の約40%を疼痛・怪我が占めており,運動習慣を有する高齢者にとっても疼痛および怪我の予防が重要であることが考えられた。本邦においては全高齢者のうちの約8割が介護も支援も必要としない自立高齢者であるとされ,平成22年国民栄養調査によると65歳以上で運動習慣のあるものの割合は40%以上であると報告されている。また,地域在住高齢者においては身体機能,障害など,個人の身体状況に合わせた予防的対策を検討する必要があり,一次予防の視点から運動習慣を有する元気高齢者の疼痛の実態の把握が必要であると考えられた。しかし,運動習慣を有する地域在住高齢者に着目した疼痛についての報告は少ない。そこで本研究では,運動習慣のある地域在住高齢者を対象として,性別毎に疼痛の有無と身体機能,精神的健康の関係について横断的に明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は神奈川県S市のラジオ体操会会員から募集し,2009年から2013年まで毎年実施している体力測定に参加した65歳以上の地域在住高齢者171名(男性89名,女性82名,平均年齢72.4±4.6歳)とした。各参加者の体力測定参加初年度の結果を分析対象とし,横断的に検討した。参加者には体力測定および質問紙調査を実施した。調査項目は,疼痛の有無,疼痛の程度,年齢,性別,運動機能として円背指数,握力,開眼片脚立位時間,立位体前屈,Timed Up and Go Test,5m最大および通常歩行時間,膝伸展筋力,精神的健康の指標としてWHO-5精神的健康度評価表(以下,WHO-5),転倒恐怖感の指標としてFall Efficacy Scale International(以下,FESI)を調査した。統計解析は,性別ごとに,疼痛の有無により2群に分類し,身体機能,WHO-5,FESIそれぞれをMann-WhitneyのU検定を用い2群間で比較した。また,疼痛の程度と各測定項目の相関関係を検討するため,Spearmanの順位相関係数を用い分析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究は研究代表者の所属する機関の研究倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には口頭および書面にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
腰痛を有する者は男性17名(19.1%),女性14名(17.1%)であり,膝関節痛を有する者は男性15名(16.9%),女性16名(19.5%)であった。腰痛有群と腰痛無群では,男性において,年齢(p=0.013),開眼片脚立位時間(p=0.04),Timed Up and Go Test(p=0.02),5m快適歩行時間(p=0.02),5m最速歩行時間(p<0.01)が統計学的に有意な差を示した。また,女性においては立位体前屈(p=0.006)のみ2群間で有意な差が確認された。膝痛の有無の群間比較では,男性で5m快適歩行時間(p=0.01),WHO-5精神的健康度評価表得点(p=0.006)の2項目に有意差が認められた。女性では,すべての項目で有意差は確認されなかった。疼痛の程度と各測定項目では,女性において膝痛の程度と膝伸展筋力(r=-0.608,p=0.012,n=15)の間にのみ統計学的有意な中等度の相関が確認された。
【考察】
本研究では運動習慣のある地域在住高齢者において,腰痛および膝痛の有無と身体機能の関係を検討した。性別に関わらず,腰痛,膝痛とも,地域在住高齢者の20%程度が有することが明らかとなった。これは一般高齢者を対象とした研究(Ono,2012)と比較してもやや低値を示した。また,腰痛については,腰痛有群で腰痛無群に比較し,有意に年齢が高いことが明らかとなった。男性では腰痛有群では腰痛に加え,高年齢による機能低下が,開眼片脚立位時間,Timed Up and Go Test,5m歩行時間など身体機能に関する項目で,有意に機能低下しているという結果につながったと考えられた。また,膝痛は男性において,5m快適歩行時間,WHO-5得点で2群間での有意な差が確認された。疼痛はQOLにも影響を与える(Woo,2009)ことが知られており,本研究でも同様の結果が示された。本研究では,運動習慣を有する地域在住高齢者の腰痛,膝痛を有する者の割合は一般高齢者に比較し低値を示すことが明らかとなった。また,精神的健康が疼痛有群で膝痛無群に比較し低値であったことから,運動習慣のある地域在住高齢者においても疼痛が精神機能,QOLにも影響することが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
疼痛は高齢者の健康寿命延伸の阻害要因である。本研究は,自立高齢者が運動を継続し,健康な身体,生活を維持していくための予防的介入の方策を検討する一助となると考えられ,理学療法学研究としての意義は高いと考えられた。