[0411] 地域包括支援センターによる一次予防事業参加高齢者の転倒恐怖感と運動機能及び転倒との関連
Keywords:地域包括支援センター, 一次予防事業, 転倒恐怖感
【はじめに,目的】
高齢者の転倒は要介護認定となる重要な要因であり,全国的に転倒予防が取り組まれている。また,転倒発生に関わる多くの要因の中でも転倒恐怖感は健康状態の低下や身体機能の低下,または不安やうつなどとの関連が指摘され,検討すべき重要課題と認識されている(Legters, 2002)。各自治体では,介護予防の一環として地域包括支援センター(以下支援センター)を中心とした一次予防が実施されている。しかし,支援センターが運営する一次予防事業参加者を対象とした転倒やその要因の研究報告は会議録等で散見されるが,サンプル数が非常に少なく単一の支援センターのみのデータを使用していると思われる。そこで,我々は,自治体及び各支援センターと連携を図ることで複数の支援センターの一次予防事業参加高齢者を対象とし,転倒恐怖感が運動機能に与える影響,転倒恐怖感と転倒経験の関連について調査を行った。本研究では転倒恐怖感「有」,「無」の二件法(以下二件法)と14項目(各項目10点,合計140点)で構成されているmodified Falls Efficacy Scale(以下mFES)を用い,どちらが転倒恐怖感の評価として有用性の高い評価法であるかの検討を行い,今後の一次予防に役立てることを目的とした。
【方法】
対象者は,平成25年度に開催されている一次予防事業に参加した地域在住高齢者137名(男性:28名,女性:109名,平均年齢76.9±5.4歳)で,独歩またはT字杖で歩行可能な者を対象とした。重度の認知機能障害及び神経学的所見を有し,測定が実施困難な者は除外した。運動項目は,Timed Up & Go Test(以下TUG),握力,開眼片脚立位の測定を実施した。アンケート項目では,転倒恐怖感について二件法,mFESと過去1年間の転倒経験の有無を聴取した。先行研究より,mFESの得点が139点以下を転倒恐怖感有と判断した。
統計学的解析は,二件法より,全対象者を恐怖感有群(75名),無群(62名)の2群に分類し,各運動項目ついて対応のないt検定により群間比較を行った。mFESにおいても,満点群(68名)と139点以下群(69名)の2群に分類し,二件法の群間比較と同様の解析を行った。また転倒経験者と非転倒経験者に分類し,mFESの得点について対応のないt検定を行い,転倒経験の有無と二件法における恐怖感の有無の人数分布をχ²検定を用いて比較した。有意水準は全て5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会の承認(承認番号:025-008)を得た後に実施した。対象者は,本研究の主旨及び倫理的配慮について書面,口頭にて説明し,署名にて同意を得た者とした。なお,本研究データを使用するにあたり,西尾市長寿課の承認を得た。
【結果】
TUGでは,恐怖感有群(平均時間±SD:7.1±1.5秒)が恐怖感無群(6.3±1.2秒)より有意に遅かった(p<0.05)。mFESの139点以下群(7.1±1.5秒)は満点群(6.4±1.3秒)より有意に遅かった(p<0.05)。握力では,恐怖感有群(21.8±6.3kg)が,恐怖感無群(25.1±7.8kg)より有意に低かった(p<0.05)。mFESでは,2群間に有意な差を認めなかった。開眼片脚立位では,恐怖感有群(29.4±24.5秒)は,恐怖感無群(41.1±23.2秒)より有意に短かった(p<0.05)。mFESでは,2群間に有意な差を認めなかった。転倒経験有無によるmFESの比較では,転倒経験者(116.7±29.7点)が非転倒経験者(128.7±23.1点)より有意に低値を示した(p<0.05)。転倒経験の有無と二件法における恐怖感の有無の人数分布については,転倒経験者は,非転倒経験者よりも二件法による恐怖感を有する比率が有意に高かった(p<0.01)。
【考察】
TUGについて,二件法による恐怖感の有無,mFESの満点群と139点以下群による群間比較では,両方の群間に有意差が認められたことから,TUGのような複合的動作を含む運動は,転倒恐怖のような心理特性と関連することが示唆された。一方,握力,開眼片脚立位においては,二件法でのみ有意差が認められた。この結果より,一次予防の現場において,二件法がより有用な指標になる可能性が示唆された。転倒経験によるmFESの比較は2群間に有意差を認め,また転倒者が非転倒者に比べて恐怖感を有する比率が高かったことから,本地域の高齢者においても転倒恐怖感が転倒と強く関連することが示唆された。恐怖感を有する者は外出や活動量が減少し,運動機能が低下した可能性が考えられ,今後,外出頻度や活動量について精査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果より,一次予防事業の現場においてより簡便な二件法で恐怖感を問う評価方法の有用性が示され,支援センターで実施されている現場スタッフ及び理学療法士に役立つ情報となり得る。
高齢者の転倒は要介護認定となる重要な要因であり,全国的に転倒予防が取り組まれている。また,転倒発生に関わる多くの要因の中でも転倒恐怖感は健康状態の低下や身体機能の低下,または不安やうつなどとの関連が指摘され,検討すべき重要課題と認識されている(Legters, 2002)。各自治体では,介護予防の一環として地域包括支援センター(以下支援センター)を中心とした一次予防が実施されている。しかし,支援センターが運営する一次予防事業参加者を対象とした転倒やその要因の研究報告は会議録等で散見されるが,サンプル数が非常に少なく単一の支援センターのみのデータを使用していると思われる。そこで,我々は,自治体及び各支援センターと連携を図ることで複数の支援センターの一次予防事業参加高齢者を対象とし,転倒恐怖感が運動機能に与える影響,転倒恐怖感と転倒経験の関連について調査を行った。本研究では転倒恐怖感「有」,「無」の二件法(以下二件法)と14項目(各項目10点,合計140点)で構成されているmodified Falls Efficacy Scale(以下mFES)を用い,どちらが転倒恐怖感の評価として有用性の高い評価法であるかの検討を行い,今後の一次予防に役立てることを目的とした。
【方法】
対象者は,平成25年度に開催されている一次予防事業に参加した地域在住高齢者137名(男性:28名,女性:109名,平均年齢76.9±5.4歳)で,独歩またはT字杖で歩行可能な者を対象とした。重度の認知機能障害及び神経学的所見を有し,測定が実施困難な者は除外した。運動項目は,Timed Up & Go Test(以下TUG),握力,開眼片脚立位の測定を実施した。アンケート項目では,転倒恐怖感について二件法,mFESと過去1年間の転倒経験の有無を聴取した。先行研究より,mFESの得点が139点以下を転倒恐怖感有と判断した。
統計学的解析は,二件法より,全対象者を恐怖感有群(75名),無群(62名)の2群に分類し,各運動項目ついて対応のないt検定により群間比較を行った。mFESにおいても,満点群(68名)と139点以下群(69名)の2群に分類し,二件法の群間比較と同様の解析を行った。また転倒経験者と非転倒経験者に分類し,mFESの得点について対応のないt検定を行い,転倒経験の有無と二件法における恐怖感の有無の人数分布をχ²検定を用いて比較した。有意水準は全て5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会の承認(承認番号:025-008)を得た後に実施した。対象者は,本研究の主旨及び倫理的配慮について書面,口頭にて説明し,署名にて同意を得た者とした。なお,本研究データを使用するにあたり,西尾市長寿課の承認を得た。
【結果】
TUGでは,恐怖感有群(平均時間±SD:7.1±1.5秒)が恐怖感無群(6.3±1.2秒)より有意に遅かった(p<0.05)。mFESの139点以下群(7.1±1.5秒)は満点群(6.4±1.3秒)より有意に遅かった(p<0.05)。握力では,恐怖感有群(21.8±6.3kg)が,恐怖感無群(25.1±7.8kg)より有意に低かった(p<0.05)。mFESでは,2群間に有意な差を認めなかった。開眼片脚立位では,恐怖感有群(29.4±24.5秒)は,恐怖感無群(41.1±23.2秒)より有意に短かった(p<0.05)。mFESでは,2群間に有意な差を認めなかった。転倒経験有無によるmFESの比較では,転倒経験者(116.7±29.7点)が非転倒経験者(128.7±23.1点)より有意に低値を示した(p<0.05)。転倒経験の有無と二件法における恐怖感の有無の人数分布については,転倒経験者は,非転倒経験者よりも二件法による恐怖感を有する比率が有意に高かった(p<0.01)。
【考察】
TUGについて,二件法による恐怖感の有無,mFESの満点群と139点以下群による群間比較では,両方の群間に有意差が認められたことから,TUGのような複合的動作を含む運動は,転倒恐怖のような心理特性と関連することが示唆された。一方,握力,開眼片脚立位においては,二件法でのみ有意差が認められた。この結果より,一次予防の現場において,二件法がより有用な指標になる可能性が示唆された。転倒経験によるmFESの比較は2群間に有意差を認め,また転倒者が非転倒者に比べて恐怖感を有する比率が高かったことから,本地域の高齢者においても転倒恐怖感が転倒と強く関連することが示唆された。恐怖感を有する者は外出や活動量が減少し,運動機能が低下した可能性が考えられ,今後,外出頻度や活動量について精査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果より,一次予防事業の現場においてより簡便な二件法で恐怖感を問う評価方法の有用性が示され,支援センターで実施されている現場スタッフ及び理学療法士に役立つ情報となり得る。