[0413] 当院初期もの忘れ外来を受診した後期高齢者における特徴
Keywords:後期高齢者, 運動機能, E-SAS
【はじめに】認知症患者は462万人に上るといわれており,軽度認知症を含めると高齢者の4人に1人が認知症,またはその予備軍であるといわれている。また超高齢社会を迎えた我が国は,今後75歳以上の年齢層しか人口が増えないと予測されており,ますます認知症患者が増えることは容易に想像できる。当院では認知症の早期発見・進行抑制を目標とした初期もの忘れ外来を2010年より開設した。開設当初よりセラピストも介入し,神経心理検査・運動機能検査にて評価を行い日常生活指導や運動指導を実施している。日々の診療の中で我々は,運動機能だけではなく心理社会学的側面の評価をする必要性を感じ,地域在住高齢者の介護予防評価として日本理学療法士協会が開発した『高齢者の活動的な地域生活の営みを支援するアセスメントセット;Elderly-status Assessment Set』(以下E-SAS)を2012年7月から導入した。そこで今回は認知症有病率が高い後期高齢者に焦点をあて,初期もの忘れ外来を受診した後期高齢者の認知機能低下がE-SASスコアや運動機能に与える影響について調査を行ったので報告する。
【方法】対象は2012年7月~2013年10月の間に,当院初期もの忘れ外来を初めて受診された後期高齢者58名(男性25名,女性33名)で平均年齢は80.6±3.4歳であった。全例独歩可能で日常生活は自立していた。E-SASは自己記入していただき,運動機能検査と神経心理検査を受けて頂いた。運動機能検査の内容は,運動器の痛み,転倒歴や運動習慣を聴取し,BMI,握力,大腿四頭筋筋力,10m歩行,Timed up and go test(以下TUG),開眼片脚立位,重心動揺検査(開眼静止立位・Cross Test)を測定した。認知機能に関しては,神経心理検査のMini-Mental State Examination(以下MMSE)を用い,23点以下で認知機能低下有りと判断した。統計解析は,認知機能低下の有無により分けられた2群間の比較を,対応の無いt検定またはχ2検定を用い5%未満をもって有意差ありと判断した。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。
【結果】全対象者のBMIは21.6±2.7 kg/m2,握力は24.3±7.4kg,大腿四頭筋筋力体重比は0.45±0.11kgf/kg,10m歩行は7.0±2.4秒,TUGは8.1±2.5秒,開眼片脚立位は16.8±11.0秒,重心動揺検査の総軌跡長は37.54±14.43cm,Cross Testの左右COP最大振幅は15.0±6.5cm,前後COP最大振幅は9.3±3.0cm,E-SASの生活の広がりは84.5±28.1点,入浴動作は9.9±0.2点,休まず歩ける距離は5.3±1.0点,人とのつながりは14.5±6.8点だった。また神経心理検査のMMSEは24.1±3.8点で,そのうち26名(45%)が認知機能低下を有した。そして,認知機能低下の有無で2群に分け運動機能検査の中で有意差が認められたのは,開眼片脚立位時間とCross Testの前後COP最大振幅であった。またE-SASでは,生活の広がり,人とのつながりの項目で有意差が認められた。
【考察】本研究では,当院初期もの忘れ外来を受診した後期高齢者58名を対象とし,認知機能低下の存在率及びその有無が運動機能やE-SASにどのように関連しているのかを検討した。その結果,認知機能低下は対象者の45%に存在した。認知症の有病率は,74歳までは10%以下だが85歳以上で40%超となるといわれており,今回の研究もそれと同等の値であった。そして認知症高齢者は,注意力の低下などから転倒する機会が増加するといわれ,外出機会の減少や活動量低下に伴い基本運動能力も低下すると考えられている。本研究の2群間でも,片脚立位とCOP最大振幅に有意差を認め,その他の項目も認知機能低下群で運動機能が低い傾向にあった。そのため,運動機能が落ちやすい認知機能低下高齢者には,良質な運動器を保つことは極めて重要なことだと考えられる。また今回我々が注目したE-SASの生活の広がり,人とのつながりの項目でも有意差を認めた。加齢に伴う虚弱による生活空間の狭小化や,独居高齢者の増加により地域や人とのつながりが減り他人と会話することさえ無くなっている現社会では,認知機能低下に心理社会的な要因が多く関与していることが考えられた。本研究結果から,ADLが自立しているような後期高齢者においては,良質な運動機能を保ち続け生活の広がりと人とのつながりを意識した活動参加をすることで,認知機能やADL低下を予防でき健康寿命の延長が期待できるのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】介護予防分野における理学療法士は,運動機能面だけではなく生活の広がりや人とのつながりなどの心理社会学的要因にも注目して運動指導を行うことで,より非薬物療法としての効果を得られる可能性がある。
【方法】対象は2012年7月~2013年10月の間に,当院初期もの忘れ外来を初めて受診された後期高齢者58名(男性25名,女性33名)で平均年齢は80.6±3.4歳であった。全例独歩可能で日常生活は自立していた。E-SASは自己記入していただき,運動機能検査と神経心理検査を受けて頂いた。運動機能検査の内容は,運動器の痛み,転倒歴や運動習慣を聴取し,BMI,握力,大腿四頭筋筋力,10m歩行,Timed up and go test(以下TUG),開眼片脚立位,重心動揺検査(開眼静止立位・Cross Test)を測定した。認知機能に関しては,神経心理検査のMini-Mental State Examination(以下MMSE)を用い,23点以下で認知機能低下有りと判断した。統計解析は,認知機能低下の有無により分けられた2群間の比較を,対応の無いt検定またはχ2検定を用い5%未満をもって有意差ありと判断した。
【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。
【結果】全対象者のBMIは21.6±2.7 kg/m2,握力は24.3±7.4kg,大腿四頭筋筋力体重比は0.45±0.11kgf/kg,10m歩行は7.0±2.4秒,TUGは8.1±2.5秒,開眼片脚立位は16.8±11.0秒,重心動揺検査の総軌跡長は37.54±14.43cm,Cross Testの左右COP最大振幅は15.0±6.5cm,前後COP最大振幅は9.3±3.0cm,E-SASの生活の広がりは84.5±28.1点,入浴動作は9.9±0.2点,休まず歩ける距離は5.3±1.0点,人とのつながりは14.5±6.8点だった。また神経心理検査のMMSEは24.1±3.8点で,そのうち26名(45%)が認知機能低下を有した。そして,認知機能低下の有無で2群に分け運動機能検査の中で有意差が認められたのは,開眼片脚立位時間とCross Testの前後COP最大振幅であった。またE-SASでは,生活の広がり,人とのつながりの項目で有意差が認められた。
【考察】本研究では,当院初期もの忘れ外来を受診した後期高齢者58名を対象とし,認知機能低下の存在率及びその有無が運動機能やE-SASにどのように関連しているのかを検討した。その結果,認知機能低下は対象者の45%に存在した。認知症の有病率は,74歳までは10%以下だが85歳以上で40%超となるといわれており,今回の研究もそれと同等の値であった。そして認知症高齢者は,注意力の低下などから転倒する機会が増加するといわれ,外出機会の減少や活動量低下に伴い基本運動能力も低下すると考えられている。本研究の2群間でも,片脚立位とCOP最大振幅に有意差を認め,その他の項目も認知機能低下群で運動機能が低い傾向にあった。そのため,運動機能が落ちやすい認知機能低下高齢者には,良質な運動器を保つことは極めて重要なことだと考えられる。また今回我々が注目したE-SASの生活の広がり,人とのつながりの項目でも有意差を認めた。加齢に伴う虚弱による生活空間の狭小化や,独居高齢者の増加により地域や人とのつながりが減り他人と会話することさえ無くなっている現社会では,認知機能低下に心理社会的な要因が多く関与していることが考えられた。本研究結果から,ADLが自立しているような後期高齢者においては,良質な運動機能を保ち続け生活の広がりと人とのつながりを意識した活動参加をすることで,認知機能やADL低下を予防でき健康寿命の延長が期待できるのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】介護予防分野における理学療法士は,運動機能面だけではなく生活の広がりや人とのつながりなどの心理社会学的要因にも注目して運動指導を行うことで,より非薬物療法としての効果を得られる可能性がある。