[0418] 臨床実習にクリニカルクラークシップを導入する方法論の模索(第2報)
Keywords:学生の理解度, 統合と解釈, 臨床推論
【はじめに】
当学院では,平成24年度臨床実習からクリニカルクラークシップ(CCS)による実習指導を臨床実習指導者(SV)に推奨している。第48回の本学会において,その実施状況の把握とCCSを現場に導入していくための方法論を模索し報告した。平成25年度はその結果を踏まえた上で学生の理解度に関するアンケートを行い,昨年課題に挙がった学生の理解度を把握する方法の具体的な方向性について一定の知見を得たので報告する。
【目的】
臨床実習(長期実習)指導に関するアンケート調査を実施し,CCSの実施状況を確認するとともに,今後レポートに代わるツールとして臨床実習における学生の理解度をどのように把握するか,その方法論の具体的な方向性を検討する。
【方法】
SVに臨床実習指導方法(レポート指導・CCS・レポート指導とCCSの併用)と,学生の理解度に関するアンケート調査を実施した。アンケートは留置式で複数回答,内容は①学生の理解度を把握するための方法に関する質問(11項目),②学生の理解度を把握するために欲しいツールを尋ねる質問(9項目),③レポート評価で重要視するポイントを尋ねる質問(10項目)とした。
有効回答は実習2期分で,レポート指導のSV(レポート)が19名,CCSのSV(CCS)が18名,レポート指導とCCSを併用したSV(併用)が50名の合計87名から回収した。調査結果の分析にはMicrosoftExcel 2010とフリーソフト“R”ver2.11.1を用い,基本統計および数量化III類によるカテゴリースコア・サンプルスコアの算出と散布図の作成,分析の視点となる軸の設定と分析および解釈を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に従い,アンケート調査に際してはSVに研究を目的として行うこと,個人情報などの漏洩がないことを紙面上で説明し,回答の返却をもって同意を得たものとした。
【結果】
①では,数量化III類を用いて質問項目に対するカテゴリースコアを基に分析の視点となる軸を設定した。水平軸には臨床能力(プラス成分)と課題作成能力(マイナス成分),垂直軸には記録とコミュニケーション(プラス成分)と実際の検査測定(マイナス成分)を取って直交グラフにした。次にこのグラフ上に各SVのサンプルスコアによる散布図を作成して,指導別に学生の理解度を把握する方法の特性について分析した。CCSでは水平軸の臨床能力にプロットが多く,レポートと併用では垂直軸全体の周辺にプロットが多くなる傾向にあった。一方レポートでは,当初予測された水平軸の課題作成能力への偏りは比較的なかった。また併用では,臨床能力と課題作成能力の双方を評価する傾向も見ることが出来た。
次に②では,全体を通して集計した結果,「学生の思考過程が見える」(57件)「ケースごとの記録と考察が書ける」(37件)「評価から治療への流れが追いやすい」(23件)の3項目が欲しいツールとして回答数が多かった。
③では,②と同様の集計で「問題点の関連付け」(77件)が最も回答数が多かった。その次に「臨床推論能力」(47件)「理学療法に関する知識」(39件)「検査測定の正確性」(37件)「運動療法の治療計画」(32件)が続いていた。
【考察】
①の結果から,CCSは比較的臨床能力を評価する傾向にあったものの,レポートおよび併用では当初想定された課題作成能力に偏った結果ではなかった。これはこれまで問題とされていたレポート作成偏重の指導ではなく,臨床場面でのリアルな経験も十分考慮された実習に移りつつあることを示唆している。この傾向は併用のグラフで著明に見られ,垂直軸を挟んで縦に広がった分布となっているものの,臨床経験と課題作成のバランスが意識されているのではないかと考えられる。
次に臨床経験を持たせながら学生の理解度を把握するツールをどのように設定するか検討した。ヒントとして②の結果を検証したところ,実際の現場で使用している患者カルテや,評価や考察および治療内容を記載する計画書の作成につながる要素であることが容易に考えられた。また③の結果から,SVがレポートを評価する時に重要視している項目が「問題点を関連付け」としての統合と解釈と,その過程で繰り返される「臨床推論能力」であるということから,より臨床に近い実践要素を含んだ,学生の理解度を簡便に分かりやすく表現できるツールの開発が期待されていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の調査では,臨床実習の中で学生の理解度を把握する方法が,現場での実践に近い形で展開されており,それが簡便な方法で形になるツールが期待されていることがわかった。今後は臨床の現場で実際に使用できる具体的なツールの開発を進めていく。
当学院では,平成24年度臨床実習からクリニカルクラークシップ(CCS)による実習指導を臨床実習指導者(SV)に推奨している。第48回の本学会において,その実施状況の把握とCCSを現場に導入していくための方法論を模索し報告した。平成25年度はその結果を踏まえた上で学生の理解度に関するアンケートを行い,昨年課題に挙がった学生の理解度を把握する方法の具体的な方向性について一定の知見を得たので報告する。
【目的】
臨床実習(長期実習)指導に関するアンケート調査を実施し,CCSの実施状況を確認するとともに,今後レポートに代わるツールとして臨床実習における学生の理解度をどのように把握するか,その方法論の具体的な方向性を検討する。
【方法】
SVに臨床実習指導方法(レポート指導・CCS・レポート指導とCCSの併用)と,学生の理解度に関するアンケート調査を実施した。アンケートは留置式で複数回答,内容は①学生の理解度を把握するための方法に関する質問(11項目),②学生の理解度を把握するために欲しいツールを尋ねる質問(9項目),③レポート評価で重要視するポイントを尋ねる質問(10項目)とした。
有効回答は実習2期分で,レポート指導のSV(レポート)が19名,CCSのSV(CCS)が18名,レポート指導とCCSを併用したSV(併用)が50名の合計87名から回収した。調査結果の分析にはMicrosoftExcel 2010とフリーソフト“R”ver2.11.1を用い,基本統計および数量化III類によるカテゴリースコア・サンプルスコアの算出と散布図の作成,分析の視点となる軸の設定と分析および解釈を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に従い,アンケート調査に際してはSVに研究を目的として行うこと,個人情報などの漏洩がないことを紙面上で説明し,回答の返却をもって同意を得たものとした。
【結果】
①では,数量化III類を用いて質問項目に対するカテゴリースコアを基に分析の視点となる軸を設定した。水平軸には臨床能力(プラス成分)と課題作成能力(マイナス成分),垂直軸には記録とコミュニケーション(プラス成分)と実際の検査測定(マイナス成分)を取って直交グラフにした。次にこのグラフ上に各SVのサンプルスコアによる散布図を作成して,指導別に学生の理解度を把握する方法の特性について分析した。CCSでは水平軸の臨床能力にプロットが多く,レポートと併用では垂直軸全体の周辺にプロットが多くなる傾向にあった。一方レポートでは,当初予測された水平軸の課題作成能力への偏りは比較的なかった。また併用では,臨床能力と課題作成能力の双方を評価する傾向も見ることが出来た。
次に②では,全体を通して集計した結果,「学生の思考過程が見える」(57件)「ケースごとの記録と考察が書ける」(37件)「評価から治療への流れが追いやすい」(23件)の3項目が欲しいツールとして回答数が多かった。
③では,②と同様の集計で「問題点の関連付け」(77件)が最も回答数が多かった。その次に「臨床推論能力」(47件)「理学療法に関する知識」(39件)「検査測定の正確性」(37件)「運動療法の治療計画」(32件)が続いていた。
【考察】
①の結果から,CCSは比較的臨床能力を評価する傾向にあったものの,レポートおよび併用では当初想定された課題作成能力に偏った結果ではなかった。これはこれまで問題とされていたレポート作成偏重の指導ではなく,臨床場面でのリアルな経験も十分考慮された実習に移りつつあることを示唆している。この傾向は併用のグラフで著明に見られ,垂直軸を挟んで縦に広がった分布となっているものの,臨床経験と課題作成のバランスが意識されているのではないかと考えられる。
次に臨床経験を持たせながら学生の理解度を把握するツールをどのように設定するか検討した。ヒントとして②の結果を検証したところ,実際の現場で使用している患者カルテや,評価や考察および治療内容を記載する計画書の作成につながる要素であることが容易に考えられた。また③の結果から,SVがレポートを評価する時に重要視している項目が「問題点を関連付け」としての統合と解釈と,その過程で繰り返される「臨床推論能力」であるということから,より臨床に近い実践要素を含んだ,学生の理解度を簡便に分かりやすく表現できるツールの開発が期待されていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の調査では,臨床実習の中で学生の理解度を把握する方法が,現場での実践に近い形で展開されており,それが簡便な方法で形になるツールが期待されていることがわかった。今後は臨床の現場で実際に使用できる具体的なツールの開発を進めていく。