第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 教育・管理理学療法 セレクション

臨床教育系,管理運営系

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 6:50 PM 第8会場 (4F 411+412)

座長:日髙正巳(兵庫医療大学リハビリテーション学部), 酒井吉仁(富山医療福祉専門学校理学療法学科)

教育・管理 セレクション

[0419] DVD版ティーチングティップスの教育的効果

堀本ゆかり1,2, 山田洋一1, 佐々木嘉光1, 中澤陽介1, 内田全城1, 石神理恵1, 鈴木りえ1 (1.一般社団法人静岡県理学療法士会教育管理系専門部会, 2.常葉学園静岡リハビリテーション専門学校)

Keywords:臨床教育, ティーチングティップス, 教育的効果

【はじめに,目的】
理学療法士養成校での臨床実習は,専門分野の34%を占めており,その成果は理学療法士育成の大きな位置づけとなっている。臨床実習指導者(以下,指導者)はロールモデルとして存在し,指導者と学生との関係性はその進捗に影響を与える。臨床実習の進捗が滞る原因は,学生の資質的課題,臨床実習施設および養成校の関わり方など多くの要因が存在する。臨床教育を向上させるためには,学生に関わる関係者が積極的な議論を行う必要がある。情意領域に関する議論は,捉え方によって偏る懸念があるため,言語に符号化された情報では十分に理解できない場合も少なくない。そのような状況を回避し,臨床実習指導者の教育力向上のティーチングティップスとして,臨床教育支援用DVDを制作し,その満足度について質問紙調査を行ったので報告する。
【方法】
DVDは静岡県理学療法士会 教育・管理系専門部会委員と有志の理学療法士により2本制作した。全視聴時間は約20分である。1本目は臨床実習NG集と題し,「学生の人格否定」「学生の孤立化」「パワハラ」「国語力の指導」「過剰な量の課題」の5つの場面で構成されている。2本目は症例検討会編でGOOD・NO-GOODの2部構成となっている。内容は,在学中に臨床実習指導で経験された事案をもとに台本を作成し,寸劇形式で撮影した。編集作業では,1編を短時間にとどめ,わかりやすさと見る側の負担感を軽減するように工夫した。
DVDは16県22施設に貸出を行った。内訳は県士会5件(22.7%)大学4件(18.2%)専門学校8件(36.4%)臨床実習施設5件(22.7%)である。貸出に際して,質問紙調査を依頼し,同意が得られた場合のみ返送いただく事とした。質問数は7項目で満足度と利用状況について調査した。質問紙回収数は26件(100%)で,臨床実習施設13件,養成校13件である。得られた結果を集計し,p<0.05で統計的処理を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
DVD制作およびレンタルに関しては,出演者および一般社団法人静岡県理学療法士会の了承を得た。また,DVDレンタル時に趣旨を説明し,同意が得られた場合に質問紙返送を依頼した。質問紙の内容に関しては,個人あるいは団体が特定されないよう配慮した。
【結果】
DVD視聴後の満足度では,満足72.0%,やや満足20.0%,やや不満8.0%であり,DVD版ティーチングティップスの教育的効果は有効92.3%,どちらとも言えない7.7%という結果であった。しかし,満足度をダミー変数に置き換え,一元配置分散分析で解析した結果,臨床実習施設と養成校では,分散比10.2,p<0.01で差を認めた。双方のコメントについても,臨床実習施設側はDVDの内容は現実的であると捉えており,教育力の向上に向けた建設的な意見が大半であった。一方,養成校側のコメントではDVDは非現実的であると捉える教員が存在し,満足度にバラツキが生じた。実習内容の改善に向けられるような意見は少ない傾向であった。有効と思われるDVDの利用方法に関しては,「臨床実習指導者研修会」100%,「新人教育プログラム」65.4%「各種研修会」30.8%,「ハラスメント研修会等」23.1%であった。
【考察】
木村によると,臨床実習の指導のあり方の多くは,指導者個々の価値観や経験則に基づいた実習指導として行われているのが実情のように思われると報告しており,指導者の資質に大きく左右される。DVDによる話題提供は,客観的な振り返りを促し,汎用的な場面で活用を可能にする。また,視聴者の共通認識を高めることができ,抵抗感や負担感を軽減することができる。視聴覚用メディアの利用は,学習者の興味を喚起し,視覚的イメージをもとに思考を構築するため議論に発展しやすい。Paivioによる二重符号化理論では人間の認知活動は,言語に符号化された情報と非言語的システムという2つのサブシステムは独立して存在し,加算的に学習効率を向上させるとされている。職場での認知的徒弟制度という学習デザインの成功体験は,臨床実習教育へのよりよい関わりを保証する要因とも成り得る。その学習デザインの中に,視点を明確にしたテーチングティップスを組み込むことにより,人材育成システムの効率化が期待できる。
臨床実習施設は複数の養成校より臨床教育を委ねられている事が少なくない。短期間で学生の変化を期待する分,指導者にかかる役割も大きい。臨床実習指導者の教育力向上が議論にあがるが,今回の臨床実習施設と養成校の認識の解離は,養成校教員の学生理解と臨床実習施設との連携の質,教員の臨床実習内容への関心度に潜在的な課題があるように捉えられる。
【理学療法学研究としての意義】
若手臨床実習指導者の急増により,徒弟制度を利用した臨床教育には限界が生じている。短編DVDでのテーチングティップスを使用する事により,客観的に事象を捉え,議論に発展させることができる。