[0421] 理学療法士継続教育における臨床能力評価の自己評価と指導者による他者評価の比較
キーワード:継続教育, 臨床能力, 自己評価
【はじめに,目的】
理学療法士の継続教育に限らず,成果を確認する教育評価は効率的な教育を実施する上で不可欠である。学習者自身が行う自己評価は学習の振り返りや自己効力感を高める等の効果があり,自己主導型学習を促すことができる。しかし外部からの評価が無ければ独善的になる可能性があるため,自己評価と指導者評価の乖離を埋めることは重要である。本研究は資格取得後3年未満の理学療法士に対して自己評価と指導者評価を実施比較し,その特徴を検討することを目的とする。
【方法】
本研究は,理学療法における臨床能力評価尺度(Clinical Competence Evaluation Scale in Physical Therapy:以下CEPT)を用いて調査を行った。CEPTは7つの大項目(理学療法実施上の必要な知識・臨床思考能力・医療職としての理学療法士の技術・コミュニケーション技術・専門職社会人としての態度・自己教育力・自己管理能力)と53の評価項目で構成され,各項目に対して4段階の評定を行う評価尺度である(合計53~212点:点数が高いとより能力が高い)。本研究の対象は関東圏内の9つ医療施設に所属し,資格取得後の経験年数が3年未満の理学療法士(以下,学習者)及び,学習者に対して指導的立場にある理学療法士(以下,指導者)各69名の計138名であった。CEPTを用いて学習者は自己評価を,指導者は学習者に対する他者評価を実施した。得られたデータはCEPTの合計及び評価項目毎に学習者・指導者間の差をWilcoxon検定にて解析した。さらに学習者のCEPTの合計と指導者のCEPT合計の差を求め,その69組の平均値及び標準偏差(SD)を求めた。学習者と指導者のCEPTの合計の差が「平均値+1SD」以上の学習者を過大評価群,「平均値-1SD」未満の学習者を過小評価群として,各群での評価項目毎の学習者・指導者間の差をWilcoxon検定にて解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属する大学院の疫学研究に関する倫理審査委員会より承認を得ている。データの回収において,学習者・指導者間で相互の評価結果を確認しないように配慮した。無記名にて実施したため対象者に対して書面にて研究内容を説明した。研究への同意は施設管理者のみから同意を得て,対象者個人に対しては同意書を作成せず,研究への協力をもって同意を得たものとした。
【結果】
対象者の平均経験年数(SD)は学習者1.2(1.0)年,指導者6.4(2.7)年であった。CEPT合計の平均(SD)は学習者121.2(19.3)点,指導者139.0(25.5)点であり有意に指導者が高かった。評価項目毎のWilcoxon検定の結果においては46項目で有意に指導者が高かったが,大項目の「臨床思考能力」に関する3項目,「コミュニケーション技術」に関する1項目,「専門職社会人としての態度」に関する1項目,「自己管理能力」に関する2項目は有意な差が認められなかった。学習者のCEPTの合計と対応する指導者のCEPT合計の差の平均(SD)は-17.9(23.6)点であり,学習者合計と指導者合計の差が5.7点以上の学習者を過大評価群,差が-41.5点未満の学習者を過小評価群とした(各12名)。過小評価群の学習者・指導者のWilcoxon検定の結果は,53の評価項目全てにおいて指導者評価が有意に高かった。過大評価群の結果は大項目の「臨床思考能力」に関する2項目,「医療職としての理学療法士の技術」に関する1項目,「コミュニケーション技術」に関する3項目,「専門職社会人としての態度」に関する1項目,「自己教育能力」に関する2項目,「自己管理能力」に関する1項目の計10項目で学習者の自己評価が有意に高く,「専門職社会人としての態度」に関する1項目のみ自己評価が有意に低く,その他は有意差が認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,全体的には,経験年数3年未満の理学療法士は指導者による他者評価より,学習者自身の自己評価のほうが有意に低く評価していることが分かった。経験年数の浅い理学療法士は自己効力感が低いという報告もあり,これらの影響を受けている可能性がある。しかし過大評価群においては,「臨床思考能力」「コミュニケーション技術」「自己教育力」等の大項目に関するいくつかの評価項目は有意に自己評価のほうが高い結果となった。これらの項目は自己の能力に対して客観的に評価しづらいことが考えられ,適切に指導をする必要性があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
適切な学びを促すためには,自己評価と指導者評価の乖離を防ぐことが重要である。本研究は,自己評価と指導者評価を比較したものであり,これらを考慮した指導は理学療法士の継続教育に活用できると考える。
理学療法士の継続教育に限らず,成果を確認する教育評価は効率的な教育を実施する上で不可欠である。学習者自身が行う自己評価は学習の振り返りや自己効力感を高める等の効果があり,自己主導型学習を促すことができる。しかし外部からの評価が無ければ独善的になる可能性があるため,自己評価と指導者評価の乖離を埋めることは重要である。本研究は資格取得後3年未満の理学療法士に対して自己評価と指導者評価を実施比較し,その特徴を検討することを目的とする。
【方法】
本研究は,理学療法における臨床能力評価尺度(Clinical Competence Evaluation Scale in Physical Therapy:以下CEPT)を用いて調査を行った。CEPTは7つの大項目(理学療法実施上の必要な知識・臨床思考能力・医療職としての理学療法士の技術・コミュニケーション技術・専門職社会人としての態度・自己教育力・自己管理能力)と53の評価項目で構成され,各項目に対して4段階の評定を行う評価尺度である(合計53~212点:点数が高いとより能力が高い)。本研究の対象は関東圏内の9つ医療施設に所属し,資格取得後の経験年数が3年未満の理学療法士(以下,学習者)及び,学習者に対して指導的立場にある理学療法士(以下,指導者)各69名の計138名であった。CEPTを用いて学習者は自己評価を,指導者は学習者に対する他者評価を実施した。得られたデータはCEPTの合計及び評価項目毎に学習者・指導者間の差をWilcoxon検定にて解析した。さらに学習者のCEPTの合計と指導者のCEPT合計の差を求め,その69組の平均値及び標準偏差(SD)を求めた。学習者と指導者のCEPTの合計の差が「平均値+1SD」以上の学習者を過大評価群,「平均値-1SD」未満の学習者を過小評価群として,各群での評価項目毎の学習者・指導者間の差をWilcoxon検定にて解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属する大学院の疫学研究に関する倫理審査委員会より承認を得ている。データの回収において,学習者・指導者間で相互の評価結果を確認しないように配慮した。無記名にて実施したため対象者に対して書面にて研究内容を説明した。研究への同意は施設管理者のみから同意を得て,対象者個人に対しては同意書を作成せず,研究への協力をもって同意を得たものとした。
【結果】
対象者の平均経験年数(SD)は学習者1.2(1.0)年,指導者6.4(2.7)年であった。CEPT合計の平均(SD)は学習者121.2(19.3)点,指導者139.0(25.5)点であり有意に指導者が高かった。評価項目毎のWilcoxon検定の結果においては46項目で有意に指導者が高かったが,大項目の「臨床思考能力」に関する3項目,「コミュニケーション技術」に関する1項目,「専門職社会人としての態度」に関する1項目,「自己管理能力」に関する2項目は有意な差が認められなかった。学習者のCEPTの合計と対応する指導者のCEPT合計の差の平均(SD)は-17.9(23.6)点であり,学習者合計と指導者合計の差が5.7点以上の学習者を過大評価群,差が-41.5点未満の学習者を過小評価群とした(各12名)。過小評価群の学習者・指導者のWilcoxon検定の結果は,53の評価項目全てにおいて指導者評価が有意に高かった。過大評価群の結果は大項目の「臨床思考能力」に関する2項目,「医療職としての理学療法士の技術」に関する1項目,「コミュニケーション技術」に関する3項目,「専門職社会人としての態度」に関する1項目,「自己教育能力」に関する2項目,「自己管理能力」に関する1項目の計10項目で学習者の自己評価が有意に高く,「専門職社会人としての態度」に関する1項目のみ自己評価が有意に低く,その他は有意差が認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,全体的には,経験年数3年未満の理学療法士は指導者による他者評価より,学習者自身の自己評価のほうが有意に低く評価していることが分かった。経験年数の浅い理学療法士は自己効力感が低いという報告もあり,これらの影響を受けている可能性がある。しかし過大評価群においては,「臨床思考能力」「コミュニケーション技術」「自己教育力」等の大項目に関するいくつかの評価項目は有意に自己評価のほうが高い結果となった。これらの項目は自己の能力に対して客観的に評価しづらいことが考えられ,適切に指導をする必要性があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
適切な学びを促すためには,自己評価と指導者評価の乖離を防ぐことが重要である。本研究は,自己評価と指導者評価を比較したものであり,これらを考慮した指導は理学療法士の継続教育に活用できると考える。