[0434] 膝前十字靭帯損傷予防のためのハイリスク選手検出の試み
キーワード:膝前十字靭帯損傷, ハイリスク選手, 左右差
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷は,最も予防効果が期待されているスポーツ疾患である。近年,ACL損傷予防プログラムが取り入れられることで,少しずつ発生率が減少している。このプログラムは「ハイリスク選手」を抽出し,選択的に実施すると効率がよくなると考えられている。ハイリスク選手の条件はいくつかあるが,スポーツ動作時に過度な膝関節外反を起こす選手に共通して注意がはらわれている。
ACL損傷は左膝関節の発生率が高いことが示されているが(井原ら2005,Urabe et al 2010),スポーツ動作時に左右の膝関節運動に違いがあるのかは,まだ十分に解明されていない。今回はサイドステップカッティング(side step cutting:SSC)動作時に,左膝関節の方が最大屈曲角度が小さく,最大外反角度が大きいのではないかという仮説をたてた。左膝関節で右関節との違いがみだせるか,また左右差が大きい人がどの程度含まれるのか検討した。
【方法】
対象は,下肢に大きな傷害の既往のない健康な女性バスケットボール選手15名である。平均年齢(±SD)は21.1±1.7歳,身長は161.5±3.2cm,体重は55.4±7.5kg,競技歴は6.7±2.5年だった。上肢は全員が右利きで,サッカーボールのキック足は左下肢だった。
足部接地地点の約5m手前から助走し,90°側方へのSSCを実施した。右方向と左方向の選択は,2m手前にあるセンサーマットとライト点灯をランダムに同期させることで行った。
SSCは5台のハイスピードカメラ(FNK-HC200C,4 assist社)を使用し,200Hzで撮影した。3次元解析ソフト(Detect社)により,三次元座標を求めた。Grood et al(1983)の方法を参照し,膝関節屈曲角度と外反角度を算出した。SSCは2期に分割し,足部接地から膝関節最大屈曲位までをストップ期,膝関節最大屈曲位から足部離地までを側方移動期として分析に用いた。各3回行い,1回の動作時間を100%に正規化し,膝関節屈曲角度と膝関節外反角度について3回の平均値を各対象の代表値とし,15名分を平均した。
統計学的分析には,左右の膝関節最大屈曲角度と最大膝関節外反角度について,対応のあるt検定を行った。危険率5%未満を統計学的に有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1327,1335)。研究に先立ち,十分な説明を行い対象の同意を得た。
【結果】
一周期でストップ期は右が平均52%,側方移動期は48%,左が49%と51%で,左右に有意差はなかった。接地時の膝関節屈曲角度に左右差はほとんどなく,平均22°だった。
ストップ期の膝関節最大屈曲角度は右平均57°,左54°だったが,有意差はなかった。
左膝関節の方が最大屈曲を示した時間が早かったが,有意差はなかった。右膝関節も左膝関節も,時間の経過とともに側方移動期で膝関節屈曲角度は漸減した。
膝関節最大外反角度は右平均7°,左5°だったが,有意差はなかった。最大外反を示す時間は左右ともストップ期で,一周期の約20%だった。膝関節屈曲角度の増加に伴い,外反角度は減少したが,側方移動期に移行する一周期の約50%で右膝関節も左膝関節も再度平均2°の外反を示す2峰性の軌跡を示した。
膝関節最大外反角度が大きい選手では,膝関節屈曲角度が小さくなる傾向が示された。選手の感応評価では,左右のSSCでどちらかといえば左下肢でストップする右方向へのSSCが行いやすいという者が多かった。左右のSSCで一方向の行いやすさを訴える選手でも,左右の膝関節運動が平均値と大きく逸脱していなかった。
【考察】
左下肢でストップし右方向にSSCする動作では,有意差がないものの,左膝関節が右よりも最大屈曲角度が小さく,最大外反角度が大きくなる傾向が示された。仮説を肯定するには至らなかった。今回は15名の対象であったが,母数を増加させることで対応できると考える。
本研究では,左右90°方向のSSCで膝関節運動に明確な左右差は示されなかった。したがって膝関節運動の左右差によって,左膝ACL損傷のハイリスク選手を検出することは現時点で困難と考えるのが妥当である。しかし,共通して認められた膝関節運動の傾向を,ACL損傷予防プログラムの指導に反映することは可能と思われる。SSCで,左膝関節運動がACL損傷発生のリスクに合致するにもかかわらず,女子バスケットボール選手では左下肢でのSSCが行いやすいという結果は興味深い。
【理学療法学研究としての意義】
ACL損傷が左膝関節に多い理由について,研究データから結果を示すことは,理学療法士の大きな使命である。本研究はACL損傷予防プログラムの実施のために,基礎的な実験室での研究成果をエビデンスとして蓄積するという意義がある。
膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷は,最も予防効果が期待されているスポーツ疾患である。近年,ACL損傷予防プログラムが取り入れられることで,少しずつ発生率が減少している。このプログラムは「ハイリスク選手」を抽出し,選択的に実施すると効率がよくなると考えられている。ハイリスク選手の条件はいくつかあるが,スポーツ動作時に過度な膝関節外反を起こす選手に共通して注意がはらわれている。
ACL損傷は左膝関節の発生率が高いことが示されているが(井原ら2005,Urabe et al 2010),スポーツ動作時に左右の膝関節運動に違いがあるのかは,まだ十分に解明されていない。今回はサイドステップカッティング(side step cutting:SSC)動作時に,左膝関節の方が最大屈曲角度が小さく,最大外反角度が大きいのではないかという仮説をたてた。左膝関節で右関節との違いがみだせるか,また左右差が大きい人がどの程度含まれるのか検討した。
【方法】
対象は,下肢に大きな傷害の既往のない健康な女性バスケットボール選手15名である。平均年齢(±SD)は21.1±1.7歳,身長は161.5±3.2cm,体重は55.4±7.5kg,競技歴は6.7±2.5年だった。上肢は全員が右利きで,サッカーボールのキック足は左下肢だった。
足部接地地点の約5m手前から助走し,90°側方へのSSCを実施した。右方向と左方向の選択は,2m手前にあるセンサーマットとライト点灯をランダムに同期させることで行った。
SSCは5台のハイスピードカメラ(FNK-HC200C,4 assist社)を使用し,200Hzで撮影した。3次元解析ソフト(Detect社)により,三次元座標を求めた。Grood et al(1983)の方法を参照し,膝関節屈曲角度と外反角度を算出した。SSCは2期に分割し,足部接地から膝関節最大屈曲位までをストップ期,膝関節最大屈曲位から足部離地までを側方移動期として分析に用いた。各3回行い,1回の動作時間を100%に正規化し,膝関節屈曲角度と膝関節外反角度について3回の平均値を各対象の代表値とし,15名分を平均した。
統計学的分析には,左右の膝関節最大屈曲角度と最大膝関節外反角度について,対応のあるt検定を行った。危険率5%未満を統計学的に有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1327,1335)。研究に先立ち,十分な説明を行い対象の同意を得た。
【結果】
一周期でストップ期は右が平均52%,側方移動期は48%,左が49%と51%で,左右に有意差はなかった。接地時の膝関節屈曲角度に左右差はほとんどなく,平均22°だった。
ストップ期の膝関節最大屈曲角度は右平均57°,左54°だったが,有意差はなかった。
左膝関節の方が最大屈曲を示した時間が早かったが,有意差はなかった。右膝関節も左膝関節も,時間の経過とともに側方移動期で膝関節屈曲角度は漸減した。
膝関節最大外反角度は右平均7°,左5°だったが,有意差はなかった。最大外反を示す時間は左右ともストップ期で,一周期の約20%だった。膝関節屈曲角度の増加に伴い,外反角度は減少したが,側方移動期に移行する一周期の約50%で右膝関節も左膝関節も再度平均2°の外反を示す2峰性の軌跡を示した。
膝関節最大外反角度が大きい選手では,膝関節屈曲角度が小さくなる傾向が示された。選手の感応評価では,左右のSSCでどちらかといえば左下肢でストップする右方向へのSSCが行いやすいという者が多かった。左右のSSCで一方向の行いやすさを訴える選手でも,左右の膝関節運動が平均値と大きく逸脱していなかった。
【考察】
左下肢でストップし右方向にSSCする動作では,有意差がないものの,左膝関節が右よりも最大屈曲角度が小さく,最大外反角度が大きくなる傾向が示された。仮説を肯定するには至らなかった。今回は15名の対象であったが,母数を増加させることで対応できると考える。
本研究では,左右90°方向のSSCで膝関節運動に明確な左右差は示されなかった。したがって膝関節運動の左右差によって,左膝ACL損傷のハイリスク選手を検出することは現時点で困難と考えるのが妥当である。しかし,共通して認められた膝関節運動の傾向を,ACL損傷予防プログラムの指導に反映することは可能と思われる。SSCで,左膝関節運動がACL損傷発生のリスクに合致するにもかかわらず,女子バスケットボール選手では左下肢でのSSCが行いやすいという結果は興味深い。
【理学療法学研究としての意義】
ACL損傷が左膝関節に多い理由について,研究データから結果を示すことは,理学療法士の大きな使命である。本研究はACL損傷予防プログラムの実施のために,基礎的な実験室での研究成果をエビデンスとして蓄積するという意義がある。