[0435] 非予測条件での90°サイドステップカッティング動作が膝関節運動に与える影響
キーワード:膝前十字靭帯損傷予防, サイドステップカッティング動作, 膝関節運動
【はじめに,目的】女子バスケットボール競技では膝関節に多くの外傷が発生しており,特に膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament;ACL)損傷の重大性は高い。サイドステップカッティング(sidestep cutting;SSC)動作は,非接触型ACL損傷を起こす動作のひとつである(Olsen et al. 2004)。この動作の際に,膝関節が過剰に外反することで損傷を惹起させると考えられている(Hewett et al. 2005)。SSCを実験室で測定・解析する際には,ストップ時の脚とストップ後の側方移動方向を前もって決めておく「予測条件」が圧倒的に多い。これに対して,光刺激等を使用して側方移動方向を「非予測条件」で設定する方法がある。ストップ脚を決めていないため,測定の失敗も多く,安定したデータを得るためには困難も多い。先行研究で,非予測条件で側方60°方向のSSCを測定したものがある(木村ら,2010)。この場合,予測条件よりも非予測条件で膝関節最大外反角度が増大していた。これまで女子バスケットボール選手を対象に,側方90°方向のSSCを予測条件と非予測条件で比較した研究はない。本研究ではこの条件の違いで,膝関節運動にどのような影響があるのかを提示したいと考える。仮説として,非予測条件での90°SSCは予測条件より難易度の高い動作となるため,膝関節最大屈曲角度は減少し,膝関節最大外反角度は増加するとした。
【方法】対象は大学女子バスケットボール選手で,膝関節外傷の既往がない者6名とした。年齢(平均±SD)は21.2±1.2歳,身長は161.3±3.5cm,体重は54.2±3.9kg,競技歴は8.3±2.3年であった。予測条件の90°SSCは,5mの助走路を最大努力で走り,指定した脚をセンサーマット(竹井機器工業社)上に軸脚としてストップしたのちに踏み切り,軸脚と反対の側方に90°移動する。非予測条件の90°SSCは,同じく5mの助走路で,スタート後3m地点に設置したセンサーマットを踏むと,光刺激でランダムに左右の方向が指定される。さらにその前方のセンサーマット上でストップしたのち,側方に90°移動する。本研究では,各試行で成功したものを3回抽出し,SSCにかかった時間を正規化して比較した。SSCの解析区間は,足部接地から足部離地までとした。三次元動作解析のために,対象の両下肢に反射マーカーを計16箇所貼付し,5台のハイスピードカメラ(フォーアシスト)を用いて,サンプリング周波数200Hzで撮影した。撮影した画像から動作解析ソフト(Ditect)を用いてDLT法により,三次元座標を求めた。本研究では軸脚の膝関節最大屈曲角度と膝関節最大外反角度を分析に使用した。統計学的分析には,対応のあるt検定を用いて,膝関節最大屈曲角度,最大外反角度を予測条件と非予測条件で比較した。危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1335)。研究に先立ち十分な説明を行い,対象の同意を得た。
【結果】90°SSCの膝関節最大屈曲角度は,左右の平均(±SD)が予測条件で51.2±5.5°,非予測条件で53.0±6.2°となり,非予測条件で1.8°大きかったが,有意差はなかった。膝関節最大外反角度は予測条件で8.2±3.8°,非予測条件で10.1±5.1°となり,非予測条件で1.9°大きくなった(p<0.05)。
【考察】非予測条件の90°SSCでは,予測条件より膝関節最大屈曲角度は減少し,膝関節最大外反角度が増加すると仮説したが,本研究では膝関節最大外反角度のみが大きくなった。ストップ動作で膝関節が屈曲していく際に,予め軸脚が分かっていてもいなくても,選手が行いやすい屈曲角度で最終的にはストップするのではないかと考えた。これは随意的な努力に加え,大腿四頭筋やハムストリングなど膝関節周囲筋の緊張や固有感覚で決定されるのかもしれない。一方,膝関節外反について予測条件では屈曲と同様に選手がある程度制御が可能であるが,非予測条件では屈曲の制御とは異なり膝関節回旋の要素が多くなるため,十分な制御が困難になることが考えられた。平均1.9°の外反角度の増加は比較的大きなものであり,実際のスポーツ活動で不意にこのような非予測条件に類似した状況が起こると,ACL損傷のリスクになることが推測される。本研究では,非予測条件のみならず,予測条件でのSSCの測定も,安定したデータを得るためにかなりの試行回数を要した。実験室での測定結果が,実際のバスケットボール競技の局面に少しずつ反映できるように,さらに対象を増やして吟味する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】非予測条件の90°SSCで膝関節外反角度の制御が困難になることが示されたことは,ACL損傷予防の方策の立案に,新たなエビデンスを加えるという点で理学療法上の意義がある。この知見を女子バスケットボール選手のACL損傷予防の一助としたい。
【方法】対象は大学女子バスケットボール選手で,膝関節外傷の既往がない者6名とした。年齢(平均±SD)は21.2±1.2歳,身長は161.3±3.5cm,体重は54.2±3.9kg,競技歴は8.3±2.3年であった。予測条件の90°SSCは,5mの助走路を最大努力で走り,指定した脚をセンサーマット(竹井機器工業社)上に軸脚としてストップしたのちに踏み切り,軸脚と反対の側方に90°移動する。非予測条件の90°SSCは,同じく5mの助走路で,スタート後3m地点に設置したセンサーマットを踏むと,光刺激でランダムに左右の方向が指定される。さらにその前方のセンサーマット上でストップしたのち,側方に90°移動する。本研究では,各試行で成功したものを3回抽出し,SSCにかかった時間を正規化して比較した。SSCの解析区間は,足部接地から足部離地までとした。三次元動作解析のために,対象の両下肢に反射マーカーを計16箇所貼付し,5台のハイスピードカメラ(フォーアシスト)を用いて,サンプリング周波数200Hzで撮影した。撮影した画像から動作解析ソフト(Ditect)を用いてDLT法により,三次元座標を求めた。本研究では軸脚の膝関節最大屈曲角度と膝関節最大外反角度を分析に使用した。統計学的分析には,対応のあるt検定を用いて,膝関節最大屈曲角度,最大外反角度を予測条件と非予測条件で比較した。危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1335)。研究に先立ち十分な説明を行い,対象の同意を得た。
【結果】90°SSCの膝関節最大屈曲角度は,左右の平均(±SD)が予測条件で51.2±5.5°,非予測条件で53.0±6.2°となり,非予測条件で1.8°大きかったが,有意差はなかった。膝関節最大外反角度は予測条件で8.2±3.8°,非予測条件で10.1±5.1°となり,非予測条件で1.9°大きくなった(p<0.05)。
【考察】非予測条件の90°SSCでは,予測条件より膝関節最大屈曲角度は減少し,膝関節最大外反角度が増加すると仮説したが,本研究では膝関節最大外反角度のみが大きくなった。ストップ動作で膝関節が屈曲していく際に,予め軸脚が分かっていてもいなくても,選手が行いやすい屈曲角度で最終的にはストップするのではないかと考えた。これは随意的な努力に加え,大腿四頭筋やハムストリングなど膝関節周囲筋の緊張や固有感覚で決定されるのかもしれない。一方,膝関節外反について予測条件では屈曲と同様に選手がある程度制御が可能であるが,非予測条件では屈曲の制御とは異なり膝関節回旋の要素が多くなるため,十分な制御が困難になることが考えられた。平均1.9°の外反角度の増加は比較的大きなものであり,実際のスポーツ活動で不意にこのような非予測条件に類似した状況が起こると,ACL損傷のリスクになることが推測される。本研究では,非予測条件のみならず,予測条件でのSSCの測定も,安定したデータを得るためにかなりの試行回数を要した。実験室での測定結果が,実際のバスケットボール競技の局面に少しずつ反映できるように,さらに対象を増やして吟味する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】非予測条件の90°SSCで膝関節外反角度の制御が困難になることが示されたことは,ACL損傷予防の方策の立案に,新たなエビデンスを加えるという点で理学療法上の意義がある。この知見を女子バスケットボール選手のACL損傷予防の一助としたい。