[0438] 選択反応が片脚着地動作に及ぼす影響について
キーワード:着地動作, 膝関節外反, 前十字靱帯
【はじめに,目的】
前十字靭帯(ACL)損傷の発生型は,接触型と非接触型に分類でき,7対3の割合で非接触型損傷が多いことが知られている。また,着地時や方向転換時の膝外反角度の大きさがACL損傷のリスクとして考えられており,片脚着地は両脚着地より膝外反角度が大きいとの報告がある。そして,実際のスポーツ場面では,着地場所の予測や確認をできない場合が多く,このことがACL損傷のリスクとして影響があるのではないかと考えた。よって,本研究では片脚着地動作における選択反応の影響に着目し,4方向への選択反応を加えた片脚着地動作のアライメントを解析した。
【方法】
1.対象
健常大学生10名(年齢20.1±1.2歳,身長159.9±5.4cm,体重52.1±4.7kg)とし,非接触型のACL損傷は女性に多いことから全員女性とした。
2.課題動作
対象が高さ30cmの台に右下肢で片脚立位をとり,前後左右の4方向へ落下するものとした。なお,対象には動作開始から終了までを通して,胸の前で腕を組み,視線は常に前方へ向けるよう指示した。
1)着地方向既知
対象に着地方向をあらかじめ伝え,検査者の合図により落下する。
2)着地方向未知
対象の正面に位置した検査者が着地方向を指さし,その方向にできるだけ速く落下する。
3.解析
ビデオカメラとダートフィッシュソフトウェア(ダートフィッシュ社製,Ver pro5.5)を使用し,膝関節外反角度と膝関節最大屈曲角度を測定した。膝関節外反角度は足底全面が接地した瞬間(足底接地時外反角度)と膝関節が最も屈曲した瞬間(膝屈曲時外反角度)の2相を測定した。
成功例のうち最初の3回の平均を代表値として,既知と未知の条件間での関節角度の比較は対応のあるt検定,4方向での関節角度の比較はTukey法による多重比較にて行った。各検定における有意水準を危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,対象者が所属する大学の倫理委員会の承認を受け,事前に研究内容を対象者に十分説明し,書面で同意を得た上で行った。
【結果】
1.膝関節外反角度
1)足底接地時外反角度
既知条件では右側方で6.9±8.0度,左側方で11.2±5.2度,前方で12.1±6.2度,後方で9.0±6.6度,未知条件では右側方で7.0±5.9度,左側方で11.5±5.5度,前方で9.7±4.3度,後方で8.9±5.5度であり,既知と未知の条件による有意差および着地方向による有意差は認められなかった。
2)膝屈曲時外反角度
既知条件では右側方で10.5±8.0度,左側方で29.1±5.6度,前方で24.0±9.3度,後方で20.2±7.9度,未知条件では右側方で13.4±1.15度,左側方で28.6±9.7度,前方で23.0±12.1度,後方で21.7±9.2度であり,両条件ともに右側方が有意に小さかった。既知と未知の条件による有意差は認められなかった。
3)足底接地時外反角度と膝屈曲時外反角度の比較
両条件ともに,左側方,前方,後方にて膝屈曲時外反角度が有意に大きかった。
2.膝関節最大屈曲角度
既知条件では右側方で61.1±7.3度,左側方で66.6±8.8度,前方で61.0±9.1度,後方で60.5±5.9度,未知条件では,右側方で63.8±7.0度,左側方で67.2±6.6度,前方で67.8±7.2度,後方で60.9±7.2度であり,前方での未知条件にて,既知条件よりも有意に大きかった。着地方向別での有意差は認められなかった。
【考察】
1.既知条件と未知条件
膝関節外反角度に有意差はなく,4方向への片脚着地動作における選択反応の影響は,膝関節外反ストレスには影響しなかったといえる。
膝関節最大屈曲角度は,前方への着地のみ,既知条件よりも未知条件にて大きかった。この結果から,未知条件における前方への着地では,着地場所が視界に入っていることにより,危険を予測し,回避するための反応として膝関節屈曲動作が出現したが,他の3方向では,着地場所を十分認知できず,膝関節屈曲動作が少なかったと考える。よって,片脚着地動作において下肢への負荷を少なくするためには,着地場所を確認するという視覚の重要性が示唆された。
2.足底接地時外反角度と膝屈曲時外反角度
ACL損傷の発生起点として,膝関節軽度屈曲位での膝関節外反ストレスが関係しているという報告が散見されるが,本研究の結果では,膝関節最大屈曲位での膝関節外反ストレスが大きいということになる。このことより,ACL損傷のリスクは膝関節屈曲角度よりも,着地時に体重が大きく負荷され,膝関節外反角度が大きくなることで高まると考えた。したがって,ACL損傷のリスクを把握するためには,片脚着地時に下肢に加わる荷重量についても明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,選択反応が片脚着地動作における膝関節へ及ぼす影響を示すことができた。今後は片脚着地動作を全身の複合運動としてとらえ,アライメントや荷重状況なども調べていきたい。
前十字靭帯(ACL)損傷の発生型は,接触型と非接触型に分類でき,7対3の割合で非接触型損傷が多いことが知られている。また,着地時や方向転換時の膝外反角度の大きさがACL損傷のリスクとして考えられており,片脚着地は両脚着地より膝外反角度が大きいとの報告がある。そして,実際のスポーツ場面では,着地場所の予測や確認をできない場合が多く,このことがACL損傷のリスクとして影響があるのではないかと考えた。よって,本研究では片脚着地動作における選択反応の影響に着目し,4方向への選択反応を加えた片脚着地動作のアライメントを解析した。
【方法】
1.対象
健常大学生10名(年齢20.1±1.2歳,身長159.9±5.4cm,体重52.1±4.7kg)とし,非接触型のACL損傷は女性に多いことから全員女性とした。
2.課題動作
対象が高さ30cmの台に右下肢で片脚立位をとり,前後左右の4方向へ落下するものとした。なお,対象には動作開始から終了までを通して,胸の前で腕を組み,視線は常に前方へ向けるよう指示した。
1)着地方向既知
対象に着地方向をあらかじめ伝え,検査者の合図により落下する。
2)着地方向未知
対象の正面に位置した検査者が着地方向を指さし,その方向にできるだけ速く落下する。
3.解析
ビデオカメラとダートフィッシュソフトウェア(ダートフィッシュ社製,Ver pro5.5)を使用し,膝関節外反角度と膝関節最大屈曲角度を測定した。膝関節外反角度は足底全面が接地した瞬間(足底接地時外反角度)と膝関節が最も屈曲した瞬間(膝屈曲時外反角度)の2相を測定した。
成功例のうち最初の3回の平均を代表値として,既知と未知の条件間での関節角度の比較は対応のあるt検定,4方向での関節角度の比較はTukey法による多重比較にて行った。各検定における有意水準を危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,対象者が所属する大学の倫理委員会の承認を受け,事前に研究内容を対象者に十分説明し,書面で同意を得た上で行った。
【結果】
1.膝関節外反角度
1)足底接地時外反角度
既知条件では右側方で6.9±8.0度,左側方で11.2±5.2度,前方で12.1±6.2度,後方で9.0±6.6度,未知条件では右側方で7.0±5.9度,左側方で11.5±5.5度,前方で9.7±4.3度,後方で8.9±5.5度であり,既知と未知の条件による有意差および着地方向による有意差は認められなかった。
2)膝屈曲時外反角度
既知条件では右側方で10.5±8.0度,左側方で29.1±5.6度,前方で24.0±9.3度,後方で20.2±7.9度,未知条件では右側方で13.4±1.15度,左側方で28.6±9.7度,前方で23.0±12.1度,後方で21.7±9.2度であり,両条件ともに右側方が有意に小さかった。既知と未知の条件による有意差は認められなかった。
3)足底接地時外反角度と膝屈曲時外反角度の比較
両条件ともに,左側方,前方,後方にて膝屈曲時外反角度が有意に大きかった。
2.膝関節最大屈曲角度
既知条件では右側方で61.1±7.3度,左側方で66.6±8.8度,前方で61.0±9.1度,後方で60.5±5.9度,未知条件では,右側方で63.8±7.0度,左側方で67.2±6.6度,前方で67.8±7.2度,後方で60.9±7.2度であり,前方での未知条件にて,既知条件よりも有意に大きかった。着地方向別での有意差は認められなかった。
【考察】
1.既知条件と未知条件
膝関節外反角度に有意差はなく,4方向への片脚着地動作における選択反応の影響は,膝関節外反ストレスには影響しなかったといえる。
膝関節最大屈曲角度は,前方への着地のみ,既知条件よりも未知条件にて大きかった。この結果から,未知条件における前方への着地では,着地場所が視界に入っていることにより,危険を予測し,回避するための反応として膝関節屈曲動作が出現したが,他の3方向では,着地場所を十分認知できず,膝関節屈曲動作が少なかったと考える。よって,片脚着地動作において下肢への負荷を少なくするためには,着地場所を確認するという視覚の重要性が示唆された。
2.足底接地時外反角度と膝屈曲時外反角度
ACL損傷の発生起点として,膝関節軽度屈曲位での膝関節外反ストレスが関係しているという報告が散見されるが,本研究の結果では,膝関節最大屈曲位での膝関節外反ストレスが大きいということになる。このことより,ACL損傷のリスクは膝関節屈曲角度よりも,着地時に体重が大きく負荷され,膝関節外反角度が大きくなることで高まると考えた。したがって,ACL損傷のリスクを把握するためには,片脚着地時に下肢に加わる荷重量についても明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,選択反応が片脚着地動作における膝関節へ及ぼす影響を示すことができた。今後は片脚着地動作を全身の複合運動としてとらえ,アライメントや荷重状況なども調べていきたい。