[0439] 着地後早期の膝関節外反,内旋運動と下肢関節運動の関係
キーワード:前十字靭帯損傷, 予防, 動作解析
【はじめに,目的】
膝前十字靱帯(ACL)損傷はスポーツ外傷のうち最も多く,重篤な外傷の一つである。ACL損傷のうち約70%は非接触型損傷であり,女性は男性に比べ非接触型損傷率が2から8倍高いことから,特に女性のACL損傷予防が重要である。近年,ACL損傷メカニズムの一つに接地直後の急激な膝外反,内旋運動が提唱されており(Kogaら,2010),その様な急激な関節運動を防ぐことはACL損傷予防に繋がると考えられる。しかし,接地直後の急激な膝関節外反,内旋運動を導く要因は明らかとなっていない。本研究の目的は着地後早期の膝関節外反,内旋運動と他の下肢関節運動との関係を検討することである。
【方法】
対象は過去6か月に整形外科学的既往がない健常女性39名(21.3±1.2歳,160.3±6.1cm,52.3±7.0kg)とした。動作課題は30cm台から着地後直ちに最大垂直跳びを行うDrop vertical jumpとし,台からの着地を解析対象とした。反射マーカーを骨盤および下肢の骨指標,右の大腿,下腿などに合計39個貼付し,赤外線カメラ6台(MotionAnalysis,200Hz)と三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis),床反力計2枚(Kistler,1000Hz)を同期させ記録した。下肢関節角度(股関節屈伸・内外転・内外旋,膝関節屈伸・内外反・内外旋,足関節底背屈・内外反)の算出にはデータ解析ソフトSIMM6.0.2(MusculoGraphics)を用いた。また,下肢関節角度は静止立位時の角度を0°とした。初期接地(IC)を床反力の垂直成分が10N以上となった時点として同定し,IC後50msまでの下肢関節角度変化量を算出した。膝関節内外反および回旋角度変化量とその他の下肢関節角度変化量との間の関係をPearsonの相関係数を用いて検討した(P<0.05)。なお,各被験者データは成功3試行の平均値を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学保健科学研究院倫理委員会の承認を得て行った。対象には事前に口頭と書面にて本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などについて説明し,十分に理解を得て,参加に同意した者は同意書に署名をし,研究に参加した。
【結果】
膝関節内外反角度(外反が正)はIC時に-1.3±2.9°,IC後50msでは2.9±4.8°であり,接地後50msまでの角度変化量は4.2±2.6°(範囲:-0.3から11.5°)であった。また,膝関節回旋角度(内旋が正)はIC時に2.5±4.8°,IC後50msでは5.9±5.8°であり,接地後50msまでの角度変化量は3.4±4.3°(-5.0から11.1°)であった。IC後50msまでの股関節回旋角度変化量(内旋が正)は1.2±3.1°(-8.5から6.5°)であり,同時期での膝関節内外反角度変化量(R=0.365,P=0.022),膝関節回旋角度変化量(R=0.471,P=0.002)との間に有意な正の相関関係を認めた。その他に有意な相関関係は認めなかった。
【考察】
本研究結果から着地直後の股関節回旋運動と膝関節内外反,回旋運動との間に相関関係が示され,着地直後の股関節回旋運動がACL損傷と関連することが示唆された。Elleraら(2008)はACL損傷者で股関節内旋可動域が減少していたと報告しており,本研究結果も股関節外旋運動と膝関節外反,内旋運動の関連を示唆する結果であった。従来,股関節内旋はACL損傷と関連があるとされるdynamic knee valgusやknee-inといった下肢の動的アライメントの要素の一つであり,運動連鎖の観点から膝関節外反や内旋の増大を導くと考えられてきた。しかし,本研究結果からその様な正常な運動連鎖が生じないことにより膝関節の外反,内旋ストレスが増加する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は着地動作中の股関節外旋運動を減じる,もしくは内旋運動を引き出すことで膝関節外反,内旋ストレスを減じることが出来る可能性を示唆している。また,先行研究でACL損傷者の股関節内旋可動域の減少が報告されており(Elleraら,2008),股関節内旋可動域制限の改善は着地動作中の正常な運動連鎖を導き,膝関節外反,内旋ストレスの減少に繋がるかもしれない。本研究はスポーツ理学療法分野におけるACL損傷予防,またACL再建術後リハビリテーションの一助となるものと考える。
膝前十字靱帯(ACL)損傷はスポーツ外傷のうち最も多く,重篤な外傷の一つである。ACL損傷のうち約70%は非接触型損傷であり,女性は男性に比べ非接触型損傷率が2から8倍高いことから,特に女性のACL損傷予防が重要である。近年,ACL損傷メカニズムの一つに接地直後の急激な膝外反,内旋運動が提唱されており(Kogaら,2010),その様な急激な関節運動を防ぐことはACL損傷予防に繋がると考えられる。しかし,接地直後の急激な膝関節外反,内旋運動を導く要因は明らかとなっていない。本研究の目的は着地後早期の膝関節外反,内旋運動と他の下肢関節運動との関係を検討することである。
【方法】
対象は過去6か月に整形外科学的既往がない健常女性39名(21.3±1.2歳,160.3±6.1cm,52.3±7.0kg)とした。動作課題は30cm台から着地後直ちに最大垂直跳びを行うDrop vertical jumpとし,台からの着地を解析対象とした。反射マーカーを骨盤および下肢の骨指標,右の大腿,下腿などに合計39個貼付し,赤外線カメラ6台(MotionAnalysis,200Hz)と三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis),床反力計2枚(Kistler,1000Hz)を同期させ記録した。下肢関節角度(股関節屈伸・内外転・内外旋,膝関節屈伸・内外反・内外旋,足関節底背屈・内外反)の算出にはデータ解析ソフトSIMM6.0.2(MusculoGraphics)を用いた。また,下肢関節角度は静止立位時の角度を0°とした。初期接地(IC)を床反力の垂直成分が10N以上となった時点として同定し,IC後50msまでの下肢関節角度変化量を算出した。膝関節内外反および回旋角度変化量とその他の下肢関節角度変化量との間の関係をPearsonの相関係数を用いて検討した(P<0.05)。なお,各被験者データは成功3試行の平均値を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学保健科学研究院倫理委員会の承認を得て行った。対象には事前に口頭と書面にて本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などについて説明し,十分に理解を得て,参加に同意した者は同意書に署名をし,研究に参加した。
【結果】
膝関節内外反角度(外反が正)はIC時に-1.3±2.9°,IC後50msでは2.9±4.8°であり,接地後50msまでの角度変化量は4.2±2.6°(範囲:-0.3から11.5°)であった。また,膝関節回旋角度(内旋が正)はIC時に2.5±4.8°,IC後50msでは5.9±5.8°であり,接地後50msまでの角度変化量は3.4±4.3°(-5.0から11.1°)であった。IC後50msまでの股関節回旋角度変化量(内旋が正)は1.2±3.1°(-8.5から6.5°)であり,同時期での膝関節内外反角度変化量(R=0.365,P=0.022),膝関節回旋角度変化量(R=0.471,P=0.002)との間に有意な正の相関関係を認めた。その他に有意な相関関係は認めなかった。
【考察】
本研究結果から着地直後の股関節回旋運動と膝関節内外反,回旋運動との間に相関関係が示され,着地直後の股関節回旋運動がACL損傷と関連することが示唆された。Elleraら(2008)はACL損傷者で股関節内旋可動域が減少していたと報告しており,本研究結果も股関節外旋運動と膝関節外反,内旋運動の関連を示唆する結果であった。従来,股関節内旋はACL損傷と関連があるとされるdynamic knee valgusやknee-inといった下肢の動的アライメントの要素の一つであり,運動連鎖の観点から膝関節外反や内旋の増大を導くと考えられてきた。しかし,本研究結果からその様な正常な運動連鎖が生じないことにより膝関節の外反,内旋ストレスが増加する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は着地動作中の股関節外旋運動を減じる,もしくは内旋運動を引き出すことで膝関節外反,内旋ストレスを減じることが出来る可能性を示唆している。また,先行研究でACL損傷者の股関節内旋可動域の減少が報告されており(Elleraら,2008),股関節内旋可動域制限の改善は着地動作中の正常な運動連鎖を導き,膝関節外反,内旋ストレスの減少に繋がるかもしれない。本研究はスポーツ理学療法分野におけるACL損傷予防,またACL再建術後リハビリテーションの一助となるものと考える。