[0441] 回転ジャンプ着地動作時の筋活動開始時間
キーワード:回転ジャンプ着地動作, 前十字靭帯損傷予防, 筋活動開始時間
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(以下ACL)損傷予防において,ジャンプ着地動作時に脛骨前方移動を制御するための前活動という機能が着目されており,着地前からの筋活動を誘導することが損傷予防に有効であると多く報告されている。前活動に関して,垂直ジャンプ着地やドロップジャンプ着地時の報告は多くあり,着地時に大腿四頭筋に対してハムストリングスの前活動が早いことが報告されており,着地前に適切なタイミングでハムストリングスの前活動を高めることが,ACL損傷予防に有効な戦略の一つとして考えられる。ACL損傷予防プログラムには様々なジャンプ動作が用いられており,その中には回転ジャンプ着地動作も含まれている。しかし,回転ジャンプ着地時における前活動のタイミングについて明らかにされておらず,損傷予防のための前活動を促す練習としての有用性は明らかでない。そこで本研究の目的は,180°,360°回転ジャンプ着地動作両条件における着地時の筋の前活動開始時間の相違を検証することとした。
【方法】
対象は下肢に運動器疾患のない健常女性10名(平均年齢23.5±2.5歳,平均身長158.5±4.8 cm,平均体重50.3±3.8 kg)とした。課題は直立位から右側へ180°および360°回転ジャンプを行わせ,着地後に着地姿勢を2秒間保持することとし,両条件において3試行ずつ実施した。着地動作における左膝関節周囲筋の筋活動の評価は表面筋電図測定装置を用い,筋活動開始が床反力計により評価した着地時点より何秒前に認められたかを算出した。被検筋は,内側広筋,大腿直筋,外側広筋,大腿二頭筋,半膜様筋の5筋とした。各条件において,各筋の活動開始時間の3試行の平均値を算出した。統計解析は,課題間における各筋の活動開始時間の差の検討には対応のあるt検定を用いた。また,各課題において筋間の活動開始時間の差を検討する際には,一元配置分散分析を用い多重比較にはTukey-Kramer検定を用いた。危険率は5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-25)を得て行った。被験者には本研究の趣旨について口頭および文書にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
180°回転ジャンプの筋活動開始時間は,内側広筋が0.03±0.01ms,大腿直筋が0.03±0.01ms,外側広筋が0.04±0.01ms,大腿二頭筋が0.11±0.03ms,半膜様筋が0.13±0.04msであった。また,360°回転ジャンプにおいて,内側広筋が0.04±0.01ms,大腿直筋が0.04±0.01ms,外側広筋が0.04±0.01ms,大腿二頭筋が0.13±0.04ms,半膜様筋が0.14±0.04msであった。全ての筋の活動開始時間は課題間で有意差が認められなかった。また,180°,360°回転ジャンプいずれにおいても,大腿二頭筋と半膜様筋の活動開始時間は内側広筋・大腿直筋・外側広筋に対して有意に早かった(p<0.01)。しかし,どちらの課題も大腿二頭筋と半膜様筋間の活動開始時間,また内側広筋・大腿直筋・外側広筋間の活動開始時間において有意差が認められなかった。
【考察】
本研究では,180°,360°回転ジャンプ着地動作における膝関節周囲筋の筋活動開始時間の差を検討した結果,各筋において前活動を認めたが,活動開始時間は課題間で有意な差を認めなかった。また,いずれの課題においても大腿二頭筋と半膜様筋が内側広筋・大腿直筋・外側広筋に対して有意に早かった。本研究において検討した膝関節周囲の5筋すべてにおいて着地前の前活動が認められたことから,回転ジャンプ着地動作はACL損傷予防のための前活動を促す動作課題として利用可能であると考えられる。また,回転ジャンプ着地動作における大腿二頭筋と半膜様筋の筋活動開始時間は,先行研究におけるドロップジャンプ着地動作の結果より早い傾向が見られ,回転ジャンプ着地動作はドロップジャンプ着地動作よりも着地前のより早いタイミングでの前活動を促す課題として有用である可能性がある。
また,大腿二頭筋と半膜様筋間の活動開始時間に差がなく,内側広筋・大腿直筋・外側広筋間にも差を認めなかった。着地前に外側の大腿二頭筋と外側広筋の活動が高まることで着地時に膝関節が外反方向へ誘導されることや,膝関節内側の筋群の活動が着地時の外反制動に関連することなどの報告がある。本研究における両回転ジャンプ着地動作においては大腿二頭筋と半膜様筋間の前活動が同様のタイミングで起こり,また内側広筋・大腿直筋・外側広筋間でも活動が同様のタイミングで起こったことにより,内外反方向への回旋ストレスを軽減している可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
回転ジャンプ着地動作は着地前の前活動を要する課題であり,ACL損傷予防プログラムの一つとして有用であることが示された。
膝前十字靭帯(以下ACL)損傷予防において,ジャンプ着地動作時に脛骨前方移動を制御するための前活動という機能が着目されており,着地前からの筋活動を誘導することが損傷予防に有効であると多く報告されている。前活動に関して,垂直ジャンプ着地やドロップジャンプ着地時の報告は多くあり,着地時に大腿四頭筋に対してハムストリングスの前活動が早いことが報告されており,着地前に適切なタイミングでハムストリングスの前活動を高めることが,ACL損傷予防に有効な戦略の一つとして考えられる。ACL損傷予防プログラムには様々なジャンプ動作が用いられており,その中には回転ジャンプ着地動作も含まれている。しかし,回転ジャンプ着地時における前活動のタイミングについて明らかにされておらず,損傷予防のための前活動を促す練習としての有用性は明らかでない。そこで本研究の目的は,180°,360°回転ジャンプ着地動作両条件における着地時の筋の前活動開始時間の相違を検証することとした。
【方法】
対象は下肢に運動器疾患のない健常女性10名(平均年齢23.5±2.5歳,平均身長158.5±4.8 cm,平均体重50.3±3.8 kg)とした。課題は直立位から右側へ180°および360°回転ジャンプを行わせ,着地後に着地姿勢を2秒間保持することとし,両条件において3試行ずつ実施した。着地動作における左膝関節周囲筋の筋活動の評価は表面筋電図測定装置を用い,筋活動開始が床反力計により評価した着地時点より何秒前に認められたかを算出した。被検筋は,内側広筋,大腿直筋,外側広筋,大腿二頭筋,半膜様筋の5筋とした。各条件において,各筋の活動開始時間の3試行の平均値を算出した。統計解析は,課題間における各筋の活動開始時間の差の検討には対応のあるt検定を用いた。また,各課題において筋間の活動開始時間の差を検討する際には,一元配置分散分析を用い多重比較にはTukey-Kramer検定を用いた。危険率は5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-25)を得て行った。被験者には本研究の趣旨について口頭および文書にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た。
【結果】
180°回転ジャンプの筋活動開始時間は,内側広筋が0.03±0.01ms,大腿直筋が0.03±0.01ms,外側広筋が0.04±0.01ms,大腿二頭筋が0.11±0.03ms,半膜様筋が0.13±0.04msであった。また,360°回転ジャンプにおいて,内側広筋が0.04±0.01ms,大腿直筋が0.04±0.01ms,外側広筋が0.04±0.01ms,大腿二頭筋が0.13±0.04ms,半膜様筋が0.14±0.04msであった。全ての筋の活動開始時間は課題間で有意差が認められなかった。また,180°,360°回転ジャンプいずれにおいても,大腿二頭筋と半膜様筋の活動開始時間は内側広筋・大腿直筋・外側広筋に対して有意に早かった(p<0.01)。しかし,どちらの課題も大腿二頭筋と半膜様筋間の活動開始時間,また内側広筋・大腿直筋・外側広筋間の活動開始時間において有意差が認められなかった。
【考察】
本研究では,180°,360°回転ジャンプ着地動作における膝関節周囲筋の筋活動開始時間の差を検討した結果,各筋において前活動を認めたが,活動開始時間は課題間で有意な差を認めなかった。また,いずれの課題においても大腿二頭筋と半膜様筋が内側広筋・大腿直筋・外側広筋に対して有意に早かった。本研究において検討した膝関節周囲の5筋すべてにおいて着地前の前活動が認められたことから,回転ジャンプ着地動作はACL損傷予防のための前活動を促す動作課題として利用可能であると考えられる。また,回転ジャンプ着地動作における大腿二頭筋と半膜様筋の筋活動開始時間は,先行研究におけるドロップジャンプ着地動作の結果より早い傾向が見られ,回転ジャンプ着地動作はドロップジャンプ着地動作よりも着地前のより早いタイミングでの前活動を促す課題として有用である可能性がある。
また,大腿二頭筋と半膜様筋間の活動開始時間に差がなく,内側広筋・大腿直筋・外側広筋間にも差を認めなかった。着地前に外側の大腿二頭筋と外側広筋の活動が高まることで着地時に膝関節が外反方向へ誘導されることや,膝関節内側の筋群の活動が着地時の外反制動に関連することなどの報告がある。本研究における両回転ジャンプ着地動作においては大腿二頭筋と半膜様筋間の前活動が同様のタイミングで起こり,また内側広筋・大腿直筋・外側広筋間でも活動が同様のタイミングで起こったことにより,内外反方向への回旋ストレスを軽減している可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
回転ジャンプ着地動作は着地前の前活動を要する課題であり,ACL損傷予防プログラムの一つとして有用であることが示された。