[0445] 回復期脳血管障害患者の移乗動作の改善と注意機能・意欲の関係について
キーワード:移乗動作, 注意機能, 意欲
【はじめに,目的】回復期の脳血管障害患者(Cerebrovascular Disease:以下CVD患者)では,日常生活活動(activities of daily living:以下ADL)の改善が多いものと少ないものがいる。その中でも臨床経験上,注意機能障害や意欲低下を有すると動作・活動能力の改善が少ない印象を受ける。特に,移乗は動作を遂行する際に多くのプロセスを組んでいるため,他の基本動作に比べ,より多くの注意機能を必要とすると考えられる。しかし,CVD患者の注意機能が歩行能力に影響するという報告はされているが,注意機能と移乗動作に着目した報告は少ない。また,意欲低下においてはADLの改善を阻害する因子であるとの報告を散見するが,移乗動作との関係は明らかではない。そこで,移乗動作に着目して,CVD患者の注意機能障害・意欲低下がその改善に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は2012年9月から2013年9月までA病院に在院したCVD患者64例(男性43例,女性21例,平均年齢67.8±12.4歳)であった。移乗動作に関しては,病棟での実際の移乗動作を測定した実行状況移乗Functional Independence Measure(以下FIM)と最大能力を測定した能力移乗FIMの2つを評価した。さらに他の測定項目において,脳卒中機能はStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS),運動機能はBrunnstrom recovery stage(以下BRS),認知機能はMini-Mental State Examination(以下MMSE),注意機能はTrail Maiking Test PartA(以下TMT-A),Behavioral Assessment of Attentional Disturbance(以下BAAD),意欲はやる気スコア,Vitality Index(鳥羽ら)を用いた。各項目は入院時と入院1ヶ月後(以下1ヶ月後)に測定をした。実行状況移乗FIMと能力移乗FIMについて,1ヶ月後-入院時の値を求め,それぞれ改善あり・なしの2群に分類した。各項目間の関連性にはSparmanの相関係数を用いた。移乗FIM改善あり・なしの2群を従属変数とし,入院時SIAS,MMSE,TMT-A,BAAD,Vitality Indexを独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。さらに,入院時と1ヶ月後の移乗FIMで,自立群(FIM7・6点)と介助群(FIM5点以下)の2群に分類し,同様の分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。全ての対象者に文書と口頭にて十分な説明をし,文書による同意を得た。
【結果】入院時の実行状況移乗FIMは,BAAD(r=-0.475)・SIAS(r=0.657)・Vitality Index(r=0.405)・BRS(r=0.492)と相関がみられた。能力移乗FIMは,BAAD(r=-0.441)・SIAS(r=0.570)・Vitality Index(r=0.387)・BRS(r=0.387)と相関がみられた。ロジスティック回帰分析では,実行状況移乗FIMの改善には,入院時のMMSE(オッズ比0.875),能力移乗FIMには入院時のBAAD(オッズ比0.852)が関係していた。また,実行状況移乗FIMの自立には,SIAS(入院時オッズ比0.890,1ヶ月オッズ比0.930)とVitality Index(入院時オッズ比0.566,1ヶ月オッズ比0.552)が関係していた。能力移乗FIMの自立には,SIAS(入院時オッズ比0.914,1ヶ月オッズ比0.932)とVitality Index(入院時オッズ比0.566,1ヶ月オッズ比0.367)が抽出された。
【考察】実行状況移乗FIMの改善に与える因子として,認知機能評価であるMMSEが抽出された。能力移乗FIMの改善に与える因子としては,注意機能評価であるBAADが抽出された。豊倉らは,FIMとBAADには負の相関があると報告している。今回も同様の結果が得られ,更にFIMの改善には認知機能・注意機能が影響していることが示唆された。また,入院時と1ヶ月後のそれぞれの時期においてFIMの自立に影響を及ぼす因子として,意欲の評価であるVitality Indexが抽出された。実際の日常生活での移乗自立に影響を与える因子として,意欲が関与することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】今回,移乗の改善や自立に影響を及ぼす因子として,注意機能と意欲の関連が認められた。理学療法士として,身体機能に加えて注意機能や意欲に着目した治療プログラムとゴール設定が必要であると考えられる。今後,退院までの経時的な変化を追うことで,より詳細な構造を明らかにしていきたい。
【方法】対象は2012年9月から2013年9月までA病院に在院したCVD患者64例(男性43例,女性21例,平均年齢67.8±12.4歳)であった。移乗動作に関しては,病棟での実際の移乗動作を測定した実行状況移乗Functional Independence Measure(以下FIM)と最大能力を測定した能力移乗FIMの2つを評価した。さらに他の測定項目において,脳卒中機能はStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS),運動機能はBrunnstrom recovery stage(以下BRS),認知機能はMini-Mental State Examination(以下MMSE),注意機能はTrail Maiking Test PartA(以下TMT-A),Behavioral Assessment of Attentional Disturbance(以下BAAD),意欲はやる気スコア,Vitality Index(鳥羽ら)を用いた。各項目は入院時と入院1ヶ月後(以下1ヶ月後)に測定をした。実行状況移乗FIMと能力移乗FIMについて,1ヶ月後-入院時の値を求め,それぞれ改善あり・なしの2群に分類した。各項目間の関連性にはSparmanの相関係数を用いた。移乗FIM改善あり・なしの2群を従属変数とし,入院時SIAS,MMSE,TMT-A,BAAD,Vitality Indexを独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。さらに,入院時と1ヶ月後の移乗FIMで,自立群(FIM7・6点)と介助群(FIM5点以下)の2群に分類し,同様の分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。全ての対象者に文書と口頭にて十分な説明をし,文書による同意を得た。
【結果】入院時の実行状況移乗FIMは,BAAD(r=-0.475)・SIAS(r=0.657)・Vitality Index(r=0.405)・BRS(r=0.492)と相関がみられた。能力移乗FIMは,BAAD(r=-0.441)・SIAS(r=0.570)・Vitality Index(r=0.387)・BRS(r=0.387)と相関がみられた。ロジスティック回帰分析では,実行状況移乗FIMの改善には,入院時のMMSE(オッズ比0.875),能力移乗FIMには入院時のBAAD(オッズ比0.852)が関係していた。また,実行状況移乗FIMの自立には,SIAS(入院時オッズ比0.890,1ヶ月オッズ比0.930)とVitality Index(入院時オッズ比0.566,1ヶ月オッズ比0.552)が関係していた。能力移乗FIMの自立には,SIAS(入院時オッズ比0.914,1ヶ月オッズ比0.932)とVitality Index(入院時オッズ比0.566,1ヶ月オッズ比0.367)が抽出された。
【考察】実行状況移乗FIMの改善に与える因子として,認知機能評価であるMMSEが抽出された。能力移乗FIMの改善に与える因子としては,注意機能評価であるBAADが抽出された。豊倉らは,FIMとBAADには負の相関があると報告している。今回も同様の結果が得られ,更にFIMの改善には認知機能・注意機能が影響していることが示唆された。また,入院時と1ヶ月後のそれぞれの時期においてFIMの自立に影響を及ぼす因子として,意欲の評価であるVitality Indexが抽出された。実際の日常生活での移乗自立に影響を与える因子として,意欲が関与することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】今回,移乗の改善や自立に影響を及ぼす因子として,注意機能と意欲の関連が認められた。理学療法士として,身体機能に加えて注意機能や意欲に着目した治療プログラムとゴール設定が必要であると考えられる。今後,退院までの経時的な変化を追うことで,より詳細な構造を明らかにしていきたい。