[0449] 不全頸髄損傷例における受傷後早期の歩行獲得状況
Keywords:頸髄損傷, 不全麻痺, 歩行
【はじめに,目的】不全頸髄損傷例においては,その後の機能回復により歩行再獲得の可能性が高いとされている。しかし,多くの報告は受傷後6ヶ月以降の機能的予後について検討したものであり,急性期病院で関わる受傷後早期(1ヶ月以内)の歩行獲得状況についての報告は少ない。本研究は,不全頸髄損傷例について改良フランケル分類およびAmerican Spinal Injury Association機能障害評価の下肢運動スコアを用いて群分けし,各群における受傷後早期の歩行獲得状況の経時的変化を明らかにし,理学療法(PT)の目標設定やプログラム立案に必要な情報を提供することを目的とした。
【方法】対象は,平成21~24年度に頸髄損傷の診断により入院しPTを実施した95例のうち,採択基準を満たした53例とした。採択基準は,受傷後1週間以内にPTを開始し,PT開始時の改良フランケル分類がCおよびDの不全麻痺例とした。対象の内訳として,年齢の中央値(25-75パーセンタイル値)は64(53-72)歳,受傷からPT開始までの日数は3(3-5)日,性別は男性45例,女性8例であり,PT開始時の改良フランケル分類は,C1が13例,C2が5例,D0が7例,D1が16例,D2が4例,D3が8例であった。方法は,診療録内容の後方視的観察研究とし,PT開始時の改良フランケル分類および下肢運動スコアを用いた群分けによる各群の歩行獲得状況を調査した。各評価指標を用いた群分けについて,改良フランケル分類では,C1,2の歩行不能な不全麻痺例(C群),D0の急性期で歩行評価不能例(D0群),歩行可能だが車いす併用例(D1群),歩行可能例(D2,3群)の4群,下肢運動スコアでは四分位数をもとに4群とした。歩行獲得の判定は機能的動作尺度(0-4点の5段階評価)を用い,4点(歩行補助具を使用せず50mの歩行が自立)を歩行獲得とした。歩行獲得状況の経時的変化については,受傷後1週から4週の各週における各群の歩行獲得率を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】改良フランケル分類を用いた群分けでは,C群18例,D0群7例,D1群16例,D2,3群12例となった。下肢運動スコアを用いた群分けでは,25パーセンタイル値が35点,中央値が45点,75パーセンタイル値と最大値が50点であったため,35点以下群15例,36-45点群12例,46点以上群26例の3群として検討した。全例における歩行獲得率の経時的変化は,受傷後1週が32.1%(17/53例),2週が51.9%(27/52例),3週が60.0%(30/50例),4週が65.3%(32/49例)であり,4週までの間で歩行が未獲得のまま転院となった例が4例あった。改良フランケル分類を用いた各群の歩行獲得率の経時的変化(1週から4週の順)は,C群では4週までの全てが0%,D0群では0%,33.3%,60%,100%,D1群では31.2%,81.2%,100%,100%,D2,3群では1週目からの全てが100%であった。下肢運動スコアを用いた各群の歩行獲得率の経時的変化は,35点以下群では4週までの全てが0%,36-45点群では16.7%,50%,72.7%,72.7%,46点以上群では57.7%,84.0%,91.7%,100%であった。
【考察】今回,不全頸髄損傷例における受傷後早期の歩行獲得状況として,受傷後2週では約半数,4週では約2/3の症例で歩行補助具を使用しない50mの歩行が自立となることが明らかとなり,急性期病院退院時の歩行能力を予測したPT介入に役立つ指標になると考えられた。改良フランケル分類は歩行能力を判定基準に採用しているため,D1およびD2,3の症例において早期の歩行獲得が期待できることは予測されたが,D0の症例においても1ヶ月以内での歩行獲得が期待できることが明らかとなった。しかし,C1,2の症例については先行研究に示されるような長期の歩行獲得は期待されるものの,早期の歩行獲得は困難であることが示唆され,早期に獲得可能な活動レベルを念頭に置いたPT計画の立案が必要であると考えられた。下肢運動スコアは歩行獲得に重要な下肢筋力の把握に有用で,急性期から評価可能な指標とされている。下肢運動スコアが35点以下の症例では短期的な歩行獲得が困難であること,46点以上の症例では受傷後2週の歩行獲得率が約85%,36点以上を含めた2群の症例では4週の歩行獲得率が約90%(32/35例)であることが明らかとなり,急性期で歩行評価不能例の歩行予後や歩行獲得に向けたPTの介入ポイントを検討するための指標になると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】急性期病院では在院日数の短縮にともない,早期から自宅退院の可能性,日常生活活動や歩行能力などの機能的予後を判断した介入の必要性が増加している。本研究のように,不全頸髄損傷例における早期の歩行獲得状況に関する知見は,このような急性期病院における理学療法の進め方を判断する上で役立つ内容であると考える。
【方法】対象は,平成21~24年度に頸髄損傷の診断により入院しPTを実施した95例のうち,採択基準を満たした53例とした。採択基準は,受傷後1週間以内にPTを開始し,PT開始時の改良フランケル分類がCおよびDの不全麻痺例とした。対象の内訳として,年齢の中央値(25-75パーセンタイル値)は64(53-72)歳,受傷からPT開始までの日数は3(3-5)日,性別は男性45例,女性8例であり,PT開始時の改良フランケル分類は,C1が13例,C2が5例,D0が7例,D1が16例,D2が4例,D3が8例であった。方法は,診療録内容の後方視的観察研究とし,PT開始時の改良フランケル分類および下肢運動スコアを用いた群分けによる各群の歩行獲得状況を調査した。各評価指標を用いた群分けについて,改良フランケル分類では,C1,2の歩行不能な不全麻痺例(C群),D0の急性期で歩行評価不能例(D0群),歩行可能だが車いす併用例(D1群),歩行可能例(D2,3群)の4群,下肢運動スコアでは四分位数をもとに4群とした。歩行獲得の判定は機能的動作尺度(0-4点の5段階評価)を用い,4点(歩行補助具を使用せず50mの歩行が自立)を歩行獲得とした。歩行獲得状況の経時的変化については,受傷後1週から4週の各週における各群の歩行獲得率を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】改良フランケル分類を用いた群分けでは,C群18例,D0群7例,D1群16例,D2,3群12例となった。下肢運動スコアを用いた群分けでは,25パーセンタイル値が35点,中央値が45点,75パーセンタイル値と最大値が50点であったため,35点以下群15例,36-45点群12例,46点以上群26例の3群として検討した。全例における歩行獲得率の経時的変化は,受傷後1週が32.1%(17/53例),2週が51.9%(27/52例),3週が60.0%(30/50例),4週が65.3%(32/49例)であり,4週までの間で歩行が未獲得のまま転院となった例が4例あった。改良フランケル分類を用いた各群の歩行獲得率の経時的変化(1週から4週の順)は,C群では4週までの全てが0%,D0群では0%,33.3%,60%,100%,D1群では31.2%,81.2%,100%,100%,D2,3群では1週目からの全てが100%であった。下肢運動スコアを用いた各群の歩行獲得率の経時的変化は,35点以下群では4週までの全てが0%,36-45点群では16.7%,50%,72.7%,72.7%,46点以上群では57.7%,84.0%,91.7%,100%であった。
【考察】今回,不全頸髄損傷例における受傷後早期の歩行獲得状況として,受傷後2週では約半数,4週では約2/3の症例で歩行補助具を使用しない50mの歩行が自立となることが明らかとなり,急性期病院退院時の歩行能力を予測したPT介入に役立つ指標になると考えられた。改良フランケル分類は歩行能力を判定基準に採用しているため,D1およびD2,3の症例において早期の歩行獲得が期待できることは予測されたが,D0の症例においても1ヶ月以内での歩行獲得が期待できることが明らかとなった。しかし,C1,2の症例については先行研究に示されるような長期の歩行獲得は期待されるものの,早期の歩行獲得は困難であることが示唆され,早期に獲得可能な活動レベルを念頭に置いたPT計画の立案が必要であると考えられた。下肢運動スコアは歩行獲得に重要な下肢筋力の把握に有用で,急性期から評価可能な指標とされている。下肢運動スコアが35点以下の症例では短期的な歩行獲得が困難であること,46点以上の症例では受傷後2週の歩行獲得率が約85%,36点以上を含めた2群の症例では4週の歩行獲得率が約90%(32/35例)であることが明らかとなり,急性期で歩行評価不能例の歩行予後や歩行獲得に向けたPTの介入ポイントを検討するための指標になると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】急性期病院では在院日数の短縮にともない,早期から自宅退院の可能性,日常生活活動や歩行能力などの機能的予後を判断した介入の必要性が増加している。本研究のように,不全頸髄損傷例における早期の歩行獲得状況に関する知見は,このような急性期病院における理学療法の進め方を判断する上で役立つ内容であると考える。