[0455] 脳性麻痺児における足圧中心変動からみた姿勢制御の動的特性
Keywords:脳性麻痺, 姿勢制御, 足圧中心
【はじめに】
姿勢制御は,空間での身体位置を制御する能力として身体運動の基礎となる。脳性麻痺児は痙縮の影響により,基本動作や日常生活動作をいった,運動課題における環境に応じた定位や安定性に支障をもたらす。これらは時々刻々と変化する課題要求に対して,絶えず対応しなければならない姿勢制御の特性や維持を必要とする。姿勢制御の発達は運動機能の基盤となり,基本動作における姿勢制御の発達が重要であることは明らかである。これまでに,立位姿勢制御の能力をはかるものの一つとして,足圧中心動揺が指標とされてきている。足圧中心動揺の指標では要約統計量に基づくものが多いが,時間的変化や動揺自体の動的特性に着目した研究は少ない。そこで今回,脳性麻痺児による足圧中心動揺の動的特性を,Rescaled Range Analysis(以下R/S解析)を用いて立位姿勢制御の検討をした。
【方法】
対象は脳性麻痺児5名(男児3名・女児2名,平均年齢11.2歳±4.6歳)。5名ともに両麻痺であり独歩3名,杖使用独歩2名であった。足圧中心動揺の計測は静止立位姿勢より開眼と閉眼にて行なった。目の高さの前方2mを注視し,30秒間行った。サンプリング周波数は50Hzとし,開始より5秒間を解析対象とした。解析方法として,R/S解析を用いてHurst指数を求めた。R/S解析はある一定期間における時系列データに対する動的特性を求める解析方法であり,時系列データ自体の時間依存度をH指数として表す。H指数は開眼,閉眼で計測された足圧中心のX座標,Y座標より算出した。算出された4変数においてpaired-T testを行った。また要約統計量として総軌跡長を開眼,閉眼で算出し比較,検討した。
【倫理的配慮】
対象者及びその家族には,本研究の目的と趣旨,倫理的配慮を十分説明した上で,書面にて同意を得て計測を行った。
【結果】
総軌跡長の平均は開眼では745.8±70.4mm,閉眼では899±137.2mmであった。開眼および閉眼でのpaired-T testでは有意な差を認めた(p<0.05)。
開眼でのX座標の平均H指数は0.89±0.08,Y座標の平均H指数は0.94±0.04であった。閉眼でのX座標の平均H指数は0.91±0.09,Y座標の平均H指数は0.97±0.04であった。開眼および閉眼でのpaired-T testでは有意な差は認められなかった。
【考察】
総軌跡長において開眼と閉眼での有意差を認めたことは,閉眼での動揺量が多いことを示している。またH指数では有意差は認めなかった。R/S解析はHurstにより開発された統計的手法であり,現象データに相関があるかを分析することができる。そこより求められたH指数を現象データに用いることによってH指数が0.5の場合,現象はランダムである。しかし,H指数が0.5より大きい場合は,過去のある時刻に正の変位,つまり増加があると,未来においても平均として増加する。逆に,Hが0.5より小さい場合は過去の増加傾向は未来の減少傾向を意味し,過去の減少傾向は未来には増加傾向に変わる。またH指数が0.5と異なる場合はフラクショナルブラウン運動と呼ばれ,毎回の変位は独立ではなく,関係を持つことになる。今回の結果より立位姿勢における足圧中心動揺のH指数は開眼,閉眼ともに0.9に集約されていた。このことは脳性麻痺児における立位姿勢制御の動揺過程はH>0.5となっているため過去との正の相関関係を示していることになる。これは脳性麻痺児の立位保持における姿勢動揺はランダムな姿勢動揺ではなく,ある程度の規則性を持った動揺であることを示している。また開眼と閉眼での動揺量の変化はあるが,H指数での差がないことは,質的な動揺においては開眼と開眼も同様のストラテジーに基づいて姿勢制御を行っている可能性が高いと言える。今回のように脳性麻痺児の動揺量が多い場合でも,こういった規則性が認められ,脳性麻痺児における姿勢制御の動的特性を表していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,これまでの足圧中心動揺の要約統計量では把握しきれなかった動揺の動的特性を把握することができた。動的状態を把握した上での理学療法を展開していくことは重要である。足圧中心動揺の計測は比較的簡便なものであり,成長とともに変化していく姿勢制御の発達過程を経時的に評価していく基礎データとなる。
また脳性麻痺児の手術後評価のおける回復過程での,姿勢制御の変動や段階を経時的に評価する指標としても有用である。脳性麻痺児による姿勢制御の発達過程を評価する指標として有用であり,効率的なリハビリの展開につながると考えた。
姿勢制御は,空間での身体位置を制御する能力として身体運動の基礎となる。脳性麻痺児は痙縮の影響により,基本動作や日常生活動作をいった,運動課題における環境に応じた定位や安定性に支障をもたらす。これらは時々刻々と変化する課題要求に対して,絶えず対応しなければならない姿勢制御の特性や維持を必要とする。姿勢制御の発達は運動機能の基盤となり,基本動作における姿勢制御の発達が重要であることは明らかである。これまでに,立位姿勢制御の能力をはかるものの一つとして,足圧中心動揺が指標とされてきている。足圧中心動揺の指標では要約統計量に基づくものが多いが,時間的変化や動揺自体の動的特性に着目した研究は少ない。そこで今回,脳性麻痺児による足圧中心動揺の動的特性を,Rescaled Range Analysis(以下R/S解析)を用いて立位姿勢制御の検討をした。
【方法】
対象は脳性麻痺児5名(男児3名・女児2名,平均年齢11.2歳±4.6歳)。5名ともに両麻痺であり独歩3名,杖使用独歩2名であった。足圧中心動揺の計測は静止立位姿勢より開眼と閉眼にて行なった。目の高さの前方2mを注視し,30秒間行った。サンプリング周波数は50Hzとし,開始より5秒間を解析対象とした。解析方法として,R/S解析を用いてHurst指数を求めた。R/S解析はある一定期間における時系列データに対する動的特性を求める解析方法であり,時系列データ自体の時間依存度をH指数として表す。H指数は開眼,閉眼で計測された足圧中心のX座標,Y座標より算出した。算出された4変数においてpaired-T testを行った。また要約統計量として総軌跡長を開眼,閉眼で算出し比較,検討した。
【倫理的配慮】
対象者及びその家族には,本研究の目的と趣旨,倫理的配慮を十分説明した上で,書面にて同意を得て計測を行った。
【結果】
総軌跡長の平均は開眼では745.8±70.4mm,閉眼では899±137.2mmであった。開眼および閉眼でのpaired-T testでは有意な差を認めた(p<0.05)。
開眼でのX座標の平均H指数は0.89±0.08,Y座標の平均H指数は0.94±0.04であった。閉眼でのX座標の平均H指数は0.91±0.09,Y座標の平均H指数は0.97±0.04であった。開眼および閉眼でのpaired-T testでは有意な差は認められなかった。
【考察】
総軌跡長において開眼と閉眼での有意差を認めたことは,閉眼での動揺量が多いことを示している。またH指数では有意差は認めなかった。R/S解析はHurstにより開発された統計的手法であり,現象データに相関があるかを分析することができる。そこより求められたH指数を現象データに用いることによってH指数が0.5の場合,現象はランダムである。しかし,H指数が0.5より大きい場合は,過去のある時刻に正の変位,つまり増加があると,未来においても平均として増加する。逆に,Hが0.5より小さい場合は過去の増加傾向は未来の減少傾向を意味し,過去の減少傾向は未来には増加傾向に変わる。またH指数が0.5と異なる場合はフラクショナルブラウン運動と呼ばれ,毎回の変位は独立ではなく,関係を持つことになる。今回の結果より立位姿勢における足圧中心動揺のH指数は開眼,閉眼ともに0.9に集約されていた。このことは脳性麻痺児における立位姿勢制御の動揺過程はH>0.5となっているため過去との正の相関関係を示していることになる。これは脳性麻痺児の立位保持における姿勢動揺はランダムな姿勢動揺ではなく,ある程度の規則性を持った動揺であることを示している。また開眼と閉眼での動揺量の変化はあるが,H指数での差がないことは,質的な動揺においては開眼と開眼も同様のストラテジーに基づいて姿勢制御を行っている可能性が高いと言える。今回のように脳性麻痺児の動揺量が多い場合でも,こういった規則性が認められ,脳性麻痺児における姿勢制御の動的特性を表していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,これまでの足圧中心動揺の要約統計量では把握しきれなかった動揺の動的特性を把握することができた。動的状態を把握した上での理学療法を展開していくことは重要である。足圧中心動揺の計測は比較的簡便なものであり,成長とともに変化していく姿勢制御の発達過程を経時的に評価していく基礎データとなる。
また脳性麻痺児の手術後評価のおける回復過程での,姿勢制御の変動や段階を経時的に評価する指標としても有用である。脳性麻痺児による姿勢制御の発達過程を評価する指標として有用であり,効率的なリハビリの展開につながると考えた。