[0457] 「運動することをイメージする」と「運動を実際にする」の脳活動の比較について
キーワード:fMRI, 一人称イメージ, 紡錘状回
【はじめに,目的】運動イメージを利用しパフォーマンスを向上させる報告が多数なされている。運動イメージは大別して一人称イメージと三人称イメージがある。一人称イメージとは自分から突き出たあたかも自分が行っているかのようなイメージである。実際の治療場面で麻痺した手足に治療を行う場合,脳内のイメージのみならず自分自身の足を見ながら動くことをイメージすることや隣に座った治療者の足の動きを見ながら動くことをイメージして治療を行うことがある。しかし,運動をイメージした時の脳活動の報告は多数なされているが,運動を実際に行った場合と運動することをイメージした場合の比較を行った脳活動の研究は少ない。今回,被験者本人の足趾と治療者としての他者を想定した足趾一人称イメージの映像を用いて,運動を実際に行った場合と運動することをイメージした場合の脳活動について機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて比較検討を行ったので報告する。
【方法】対象は,21-23歳の健常者19名(男性7名,女性12名)とした。課題は,MRI装置の中から背臥位にてプリズムメガネでスクリーン上に投影された足趾動作の映像を模倣することとした。スクリーン上に投影される映像は,足関節以下の足趾一人称イメージとし,予め撮影した被験者本人と他者の右足趾映像とした。提示する映像の足趾動作は,足趾を開いた状態から第1趾を握り,そして残り4足趾を握る動作とした。課題は,映し出された映像に合わせて被験者の右足趾を実際に動かす「動」課題と実際には動かさずに動かすことをイメージする「イメージ」課題,動く足趾を見る「見」課題,そしてスクリーン上の中央の点を見つめる「固視」課題とした。それぞれの課題を被験者自身の映像と他者の映像を組み合わせて2セッション計8分間行い,課題中の脳活動を測定した。fMRIの撮影は,所属する機関のMRI室GE製MRIスキャナSigna Lightning(1.5T)を用いた。撮像パラメータは,TE 40,TR 3000,Flip Angle 90,Slice Thickness 4.0,Spacing 1.0,スライス枚数22である。解析は,MathWorks社製数値計算ソフトMatlabとSPM8を組み合わせて行った。統計処理は,SPM8上のfamily wise errorで統計的推論を行い,p<0.05を有意水準として行った。脳賦活部位の同定は,SPM8で出力される標準脳のMNI座標系をMATLAB上でmni2talにて変換し,その後Talairach Daemon ClientにてTalairach座標に変換してBrodmann areaの決定を行なった。この設定の下で,被験者自身の足趾と他者の足趾の一人称イメージ映像に合わせて,「動」課題,「イメージ」課題,「見」課題,「固視」課題を行い比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,検者が所属する機関の倫理委員会の承認を得た。すべての被験者は,審査に基づくアンケート調査と十分な説明の後,同意書に署名の上,ボランティアとして今回の測定に参加した。
【結果】被験者自身の映像を用いての「動」課題と他者の映像を用いての「動」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を用いての「イメージ」課題と他者の映像を用いての「イメージ」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を用いての「見」課題と他者の映像を用いての「見」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を見て足趾運動をイメージする「イメージ」課題と他者の映像を見て足趾運動を実際に動かす「動」課題の比較では,被験者自身の足を見て足趾運動をイメージする「イメージ」課題の方が有意にBrodmann area37野の右紡錘状回の賦活を生じた。
【考察】今回,他者の足趾を見て「動」課題を行うことと比較し被験者自身の映像を見て「イメージ」課題を行う方が右紡錘状回に有意な賦活が生じた。他の比較においては有意な賦活はなく,他者の足趾を用いての治療も被験者自身の足趾を用いての治療も一人称的に行う場合は基本的に脳の同じ部位を用いられることが推察される。紡錘状回は,顔と身体の認知,単語認知,色情報の処理や抽象化に機能する。また,バイオロジカルモーションの知覚に関与するとの報告もある。右紡錘状回の損傷に関しては,相貌失認に関係するとの報告がある。今回の研究では,被験者自身の映像による「イメージ」課題で右紡錘状回の賦活を生じた。この領域は,自分自身の足趾動作をイメージする際に関与することが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】治療場面で視覚的な模倣を行う場合,治療者の立ち位置により被治療者の脳賦活部位が変化することが示唆される。今回の研究では,被治療者が運動をイメージする場合,治療者は同時に他動的介助を行うことで,単語認知,色情報の処理や抽象化に機能する紡錘状回を賦活する可能性があると推察する。
【方法】対象は,21-23歳の健常者19名(男性7名,女性12名)とした。課題は,MRI装置の中から背臥位にてプリズムメガネでスクリーン上に投影された足趾動作の映像を模倣することとした。スクリーン上に投影される映像は,足関節以下の足趾一人称イメージとし,予め撮影した被験者本人と他者の右足趾映像とした。提示する映像の足趾動作は,足趾を開いた状態から第1趾を握り,そして残り4足趾を握る動作とした。課題は,映し出された映像に合わせて被験者の右足趾を実際に動かす「動」課題と実際には動かさずに動かすことをイメージする「イメージ」課題,動く足趾を見る「見」課題,そしてスクリーン上の中央の点を見つめる「固視」課題とした。それぞれの課題を被験者自身の映像と他者の映像を組み合わせて2セッション計8分間行い,課題中の脳活動を測定した。fMRIの撮影は,所属する機関のMRI室GE製MRIスキャナSigna Lightning(1.5T)を用いた。撮像パラメータは,TE 40,TR 3000,Flip Angle 90,Slice Thickness 4.0,Spacing 1.0,スライス枚数22である。解析は,MathWorks社製数値計算ソフトMatlabとSPM8を組み合わせて行った。統計処理は,SPM8上のfamily wise errorで統計的推論を行い,p<0.05を有意水準として行った。脳賦活部位の同定は,SPM8で出力される標準脳のMNI座標系をMATLAB上でmni2talにて変換し,その後Talairach Daemon ClientにてTalairach座標に変換してBrodmann areaの決定を行なった。この設定の下で,被験者自身の足趾と他者の足趾の一人称イメージ映像に合わせて,「動」課題,「イメージ」課題,「見」課題,「固視」課題を行い比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,検者が所属する機関の倫理委員会の承認を得た。すべての被験者は,審査に基づくアンケート調査と十分な説明の後,同意書に署名の上,ボランティアとして今回の測定に参加した。
【結果】被験者自身の映像を用いての「動」課題と他者の映像を用いての「動」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を用いての「イメージ」課題と他者の映像を用いての「イメージ」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を用いての「見」課題と他者の映像を用いての「見」課題での比較では有意な差が無かった。被験者自身の映像を見て足趾運動をイメージする「イメージ」課題と他者の映像を見て足趾運動を実際に動かす「動」課題の比較では,被験者自身の足を見て足趾運動をイメージする「イメージ」課題の方が有意にBrodmann area37野の右紡錘状回の賦活を生じた。
【考察】今回,他者の足趾を見て「動」課題を行うことと比較し被験者自身の映像を見て「イメージ」課題を行う方が右紡錘状回に有意な賦活が生じた。他の比較においては有意な賦活はなく,他者の足趾を用いての治療も被験者自身の足趾を用いての治療も一人称的に行う場合は基本的に脳の同じ部位を用いられることが推察される。紡錘状回は,顔と身体の認知,単語認知,色情報の処理や抽象化に機能する。また,バイオロジカルモーションの知覚に関与するとの報告もある。右紡錘状回の損傷に関しては,相貌失認に関係するとの報告がある。今回の研究では,被験者自身の映像による「イメージ」課題で右紡錘状回の賦活を生じた。この領域は,自分自身の足趾動作をイメージする際に関与することが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】治療場面で視覚的な模倣を行う場合,治療者の立ち位置により被治療者の脳賦活部位が変化することが示唆される。今回の研究では,被治療者が運動をイメージする場合,治療者は同時に他動的介助を行うことで,単語認知,色情報の処理や抽象化に機能する紡錘状回を賦活する可能性があると推察する。