第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習8

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (基礎)

座長:倉山太一(千葉大学大学院医学研究院子どものこころの発達研究センター)

基礎 ポスター

[0458] 機能的MRIを用いた運動性認知課題施行時の脳神経活動の分析

後藤圭介1,2, 池田由美1, 松田雅光3, 渡邊塁1, 来間弘展1, 妹尾淳史1 (1.首都大学東京大学院人間健康科学研究科, 2.東京女子医科大学病院リハビリテーション部, 3.植草学園大学保健医療学部)

Keywords:fMRI, 脳活動, 認知課題

【はじめに】理学療法において,行為としての運動機能回復を目指す治療方略の一つとして認知課題を用いたアプローチがある。中でも運動の要素を含んだ認知的な課題(運動性認知課題)は行為としての運動機能回復に繋がる重要な要素である。本研究では機能的MRIを用いて運動課題と運動性認知課題を施行している際の脳活動を測定し,両課題遂行中の脳賦活領域の比較検討を行った。
【方法】対象は神経学的な疾患の既往のない健常成人16名(20-31歳)であり,全員右利きであった。三つの課題施行中の脳活動を3.0テスラ臨床用MR装置(Achieva 3.0T Quasar-dual;Philips社製)を使用して撮像した。課題1は運動課題とし,三秒に一回の頻度で足踏みを行なわせた(以下,Task 1)。課題2と3は運動性認知課題とし,スポンジ硬度の識別(以下,Task 2)と下肢の位置の識別(以下,Task 3)を行なわせた。Task2では被験者の左足底で硬度の異なるスポンジ(五種類)を無作為な順序で踏ませ,最も柔らかいスポンジが提示された順番を解答させた。Task3は左足部の位置に配置した三角マットを左右方向に五分割し,ゴーグル上のモニターから視覚的に指定された位置に足を移動するものとした。全ての課題は撮像前に確実に遂行できるように30分程度練習を行った。実験は各課題間に安静を挟むブロックデザインとし,課題および安静は各々30秒,教示時間は9秒とし視覚的に提示した。また,各課題は学習の効果を避けるため無作為に提示した。撮像中の姿勢は背臥位,左股・膝関節屈曲位とし,左下肢で課題を行った。
測定データは脳機能画像統計処理ソフトSPM8を用いて解析を行った。解析は前処理(位置補正,標準化,平滑化)を行った後に16名のデータからMR信号強度が有意水準(p<0.001)を満たす部位を抽出し集団解析を行った。また運動性認知課題に特異的な脳賦活領域を抽出する目的で課題間の差分(Task2-Task1,Task3-Task1)を行い解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は所属機関の研究安全倫理委員会の承認を受けた後,全ての対象者に実験の趣旨を説明し,参加することの承諾を得た。
【結果】Task 1の足踏み課題では運動野,補足運動野,小脳に賦活領域が認められた。Task 2とTask1間の差分の結果,両側後頭葉(Brodmann area(以下BA)17,18,37),両側上頭頂小葉(BA7),両側下頭頂小葉(BA39,40),右運動前野(BA6),右上前頭回(BA10),両側背外側前頭前野(BA46),左下前頭回(BA44)両側中側頭回(BA21),帯状回(BA23),両側視床,左海馬傍回,右被殻,小脳,に有意な賦活領域を認めた。また,Task 3とTask1間の差分の結果,両側後頭葉(BA17,18,37),両側下頭頂小葉(BA39,40),両側上頭頂小葉(BA7),両側運動前野(BA6),左上前頭回(BA10),右背外側前頭前野(BA46),左下前頭回(BA44),両側中側頭回(BA21),右帯状回(BA23),両側視床,小脳に有意な賦活領域を認めた。
【考察】Task2は足底でのスポンジとの接触により得られる感覚情報を知覚するために適切な筋出力に調整することが求められる接触課題である。Task3は骨盤や体幹に対する下肢の相対的位置関係や股関節の関節角度によって得られる関節位置覚の情報を統合し,運動を制御する空間課題である。Task2とTask1間の差分の結果認められた海馬傍回,両側の前頭前野の活動は,被験者に最も柔らかいスポンジを解答する課題を課したことによりスポンジとの接触を通して得られた感覚情報を一時的に保持し,別のスポンジを踏んだ際に得られる情報と比較・照合するための活動と考えられる。Task3とTask1間の差分の結果で小脳,頭頂葉,右運動前野の賦活が得られたが,これらの領域は運動の空間的な制御に関わるとされており,方向・距離の情報を基に指定された位置へ下肢を動かすように運動を調整した結果によるものと考えられる。また,今回設定した二つの運動性認知課題にいて観察された共通賦活領域から,運動性認知課題施行時には,知覚情報の弁別やその情報に基づいた運動制御を実行していることが推測される。
本研究の結果から,運動機能を回復するには対象者ごとに最も適切な課題の設定を行うことが神経ネットワークの再組織化に関与する可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】課題施行時の脳神経活動を捉えることは効果的な理学療法プログラムを構築するためのエビデンスとなり得ると考える。