[0459] 身体と関連した動詞提示における意味プライミングと運動の準備についての検討
キーワード:動詞, 意味プライミング, 随伴性陰性変動
【目的】理学療法場面において対象者に「持ってください」や「歩きましょう」などの動詞を使用して動作を促すことが多い。動詞は動作や状態の変化を表す言語であり,意味的に身体に関連する動詞を提示することで運動の反応時間(以下RT)が速くなることが明らかにされている(Sato 2008)。また,条件刺激(以下S1)とその後に続く弁別刺激(以下S2)が,意味的に関連する場合を意味プライミングと呼び,二つの刺激が関連している時にRTが速くなることも明らかにされている。ヒトは運動前に運動の準備や計画を構成することで,運動実行の効率を高める役割をしていると言われており(Brunia 1999,Gomez 2001),身体に関連する動詞を提示することでRTが速くなることから,運動の準備状態にも影響を与えていると考えられる。本研究は身体と関連する動詞を使用し,意味プライミング効果がRT,単語の意味理解に関与する電位(N400),運動の準備状態を反映している随伴性陰性変動(Contingent Negative Variation:CNV)に及ぼす影響について検討した。
【方法】対象は右利きの健常成人10名(男性6名,女性4名:年齢29.1±3.5歳)である。対象者には椅子座位にて前方画面を注視させ,画面上に提示される単語を理解するように求めた。課題は「×」を5秒,S1では「手に関連する動詞(以下V1)」もしくは「足に関連する動詞(以下V2)」を2秒,S2では「手」もしくは「足」という文字を1秒間提示した。この8秒間を1試行とし,合計80試行を1ブロックとした。提示回数はV1,V2を各40回,手や足を各40回の計80回とし,全てランダムに提示した。S1とS2が意味的に関連する時を一致条件,関連しない時を不一致条件とし,条件毎に2ブロック実施した。被験者には,一致条件でS1とS2が関連している時と,不一致条件でS1とS2が関連していない時にのみ,出来るだけ早くボタンを押すように指示し,S2提示からボタンが押されるまでの時間をRTとして測定した。RTの誤反応はすべて除去し,条件間,動詞間の各平均値を算出した。脳波の測定には32chの脳波計Active Two System(Biosemi社製)を用い,サンプリング周波数1024Hzにて脳波を記録した。解析にはEMSE suite(Source Signal Imaging製社)を用い,眼球運動とアーチファクトの除去を行った。band pass filterを0.05~100Hzとし,S1提示前の500msから提示後3500msを加算平均し,N400とCNVを算出した。RT,そしてN400およびCNVの最大振幅値を各条件間でWilcoxon符号付順位検定を用い比較し,動詞間の比較には二元配置分散分析を用い,主効果が認められた場合はBonferroni法を行った。すべての有意水準は5%とした。
【説明と同意】本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(承認番号H25-13)を得て,被験者には十分な説明を行い,同意を得たうえで実施した。
【結果】RTは一致条件で速く(p<0.05),N400は一致条件と比較し,不一致条件で左中心部にて有意な振幅の増大が認められた(p<0.05)。CNVは一致条件と比較し,不一致条件で運動領域にて有意な振幅の増大が認められた(p<0.05)。動詞間でのRTとN400に有意差は認められなかったが,一致条件のV1提示で左頭頂連合野のCNVの有意な振幅の増大が認められた(p<0.05)。
【考察】今回RTでは一致条件で速く,単語の意味理解を反映するN400では不一致条件で振幅の増大が認められた。N400は振幅値が高い程単語理解の負荷が強くRTが遅延することから(Ellen 2008),不一致条件で単語理解の負荷が強くなり,一致条件でRTが速くなったと考える。また,左中心部でもある運動領域は動詞の意味理解に関与する領域であり(Binder 2011),身体と関連する動詞を呈示後,短時間で運動前野が活性化するという報告(Hauk 2004)から,単語の意味理解を反映するN400が運動領域で認められたと考えられる。CNVは補足運動野や運動前野,一次運動野,前頭前野などが発生源であり,意思決定など運動前の情報処理を反映している(Dirnberger 2000)。また,N400の結果より,不一致条件において単語の意味理解に負荷が高くなっていることから,運動前の情報処理や単語理解に負荷が加わり,CNVの振幅が不一致条件で増大したと考えられる。動詞間での比較では,一致条件のV1提示で左頭頂連合野のCNVの振幅の増大を認めた。左頭頂連合野は手の操作や道具使用,ワーキングメモリーの短期貯蔵に関与(Smith EE 1995,Osaka 2004)していることから,手に関連するV1でより左頭頂連合野の活動が認められたと考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,動詞の提示が運動の反応時間や運動の準備状態の脳活動に影響を及ぼすことを明らかにした。この結果は,理学療法士が対象者に対して使用する言葉かけの重要性を示唆するものである。
【方法】対象は右利きの健常成人10名(男性6名,女性4名:年齢29.1±3.5歳)である。対象者には椅子座位にて前方画面を注視させ,画面上に提示される単語を理解するように求めた。課題は「×」を5秒,S1では「手に関連する動詞(以下V1)」もしくは「足に関連する動詞(以下V2)」を2秒,S2では「手」もしくは「足」という文字を1秒間提示した。この8秒間を1試行とし,合計80試行を1ブロックとした。提示回数はV1,V2を各40回,手や足を各40回の計80回とし,全てランダムに提示した。S1とS2が意味的に関連する時を一致条件,関連しない時を不一致条件とし,条件毎に2ブロック実施した。被験者には,一致条件でS1とS2が関連している時と,不一致条件でS1とS2が関連していない時にのみ,出来るだけ早くボタンを押すように指示し,S2提示からボタンが押されるまでの時間をRTとして測定した。RTの誤反応はすべて除去し,条件間,動詞間の各平均値を算出した。脳波の測定には32chの脳波計Active Two System(Biosemi社製)を用い,サンプリング周波数1024Hzにて脳波を記録した。解析にはEMSE suite(Source Signal Imaging製社)を用い,眼球運動とアーチファクトの除去を行った。band pass filterを0.05~100Hzとし,S1提示前の500msから提示後3500msを加算平均し,N400とCNVを算出した。RT,そしてN400およびCNVの最大振幅値を各条件間でWilcoxon符号付順位検定を用い比較し,動詞間の比較には二元配置分散分析を用い,主効果が認められた場合はBonferroni法を行った。すべての有意水準は5%とした。
【説明と同意】本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(承認番号H25-13)を得て,被験者には十分な説明を行い,同意を得たうえで実施した。
【結果】RTは一致条件で速く(p<0.05),N400は一致条件と比較し,不一致条件で左中心部にて有意な振幅の増大が認められた(p<0.05)。CNVは一致条件と比較し,不一致条件で運動領域にて有意な振幅の増大が認められた(p<0.05)。動詞間でのRTとN400に有意差は認められなかったが,一致条件のV1提示で左頭頂連合野のCNVの有意な振幅の増大が認められた(p<0.05)。
【考察】今回RTでは一致条件で速く,単語の意味理解を反映するN400では不一致条件で振幅の増大が認められた。N400は振幅値が高い程単語理解の負荷が強くRTが遅延することから(Ellen 2008),不一致条件で単語理解の負荷が強くなり,一致条件でRTが速くなったと考える。また,左中心部でもある運動領域は動詞の意味理解に関与する領域であり(Binder 2011),身体と関連する動詞を呈示後,短時間で運動前野が活性化するという報告(Hauk 2004)から,単語の意味理解を反映するN400が運動領域で認められたと考えられる。CNVは補足運動野や運動前野,一次運動野,前頭前野などが発生源であり,意思決定など運動前の情報処理を反映している(Dirnberger 2000)。また,N400の結果より,不一致条件において単語の意味理解に負荷が高くなっていることから,運動前の情報処理や単語理解に負荷が加わり,CNVの振幅が不一致条件で増大したと考えられる。動詞間での比較では,一致条件のV1提示で左頭頂連合野のCNVの振幅の増大を認めた。左頭頂連合野は手の操作や道具使用,ワーキングメモリーの短期貯蔵に関与(Smith EE 1995,Osaka 2004)していることから,手に関連するV1でより左頭頂連合野の活動が認められたと考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,動詞の提示が運動の反応時間や運動の準備状態の脳活動に影響を及ぼすことを明らかにした。この結果は,理学療法士が対象者に対して使用する言葉かけの重要性を示唆するものである。