第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習8

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (基礎)

座長:倉山太一(千葉大学大学院医学研究院子どものこころの発達研究センター)

基礎 ポスター

[0460] 道具把持画像による心的回転課題は反応時間を遅延させ上側頭溝と下前頭回を賦活させる-EEG研究-

平田康介1, 中野英樹2,3, 石垣智也1,4, 森岡周4 (1.東生駒病院, 2.Queensland Brain Institute The University of Quensland, 3.日本学術振興会特別研究員, 4.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室)

Keywords:心的回転, 道具把持, 脳波

【はじめに,目的】
運動イメージ時,運動実行時と同様に運動関連領域が賦活する(Decety, 2002)ことが報告され,理学療法における運動学習の治療介入として注目されている。運動イメージを想起させる手段として,心的回転(Mental Rotation:MR)が用いられている。MRとは,三次元空間において呈示される図形や文字から,もとの正中図形をイメージする心的活動である(Persons, 2001)。手のMRと反応時間(Reaction Time:RT)に関する脳活動を検討した報告が多くある中,我々は道具使用時のMRでは手のMRと異なる脳部位が賦活することを報告している(松尾,2008)。しかし,道具のMRにおけるRTの変化と,それに関連する脳活動の検討は行われていない。そこで本研究では,手条件と道具条件におけるRTの変化と,それに関連する脳活動について,時間分解能に優れた脳波計を用いて検討することを目的とした。
【方法】
エディンバラ利き手テストで右利きを示した健康大学生7名(平均年齢21.6±0.9歳)を対象とした。被験者はPC画面前に座り,提示される画像を観察した。提示画像には,左右手の写真を90°毎に時計回りに回転させた計8枚を使用した。手の画像を手条件,手に箸を把持させた画像を箸条件とした。1試行に8種類の画像をランダムに提示し,課題は計4試行(計32枚の画像)を使用とした。課題は手条件,箸条件の順で実施した。画像提示には刺激提示装置(島津製作所製)を用い脳波と同期した。被験者にはPC画面を注視し,できるだけ早く正確にキーボードのボタンで回答するように指示した。RTと脳活動は課題正答率80%以上のものだけを解析に用いた。RTは各条件4試行分の画像提示から回答までの時間を加算平均して用いた。脳活動は脳波計Active two system(Biosemi社製)を用いて計測した。チャンネル数は国際10-20法に基づいた64chとし,サンプリング周波数は512Hzで記録した。脳波データは4試行分を加算平均し,解析にはEMSE Suiteプログラム(Source Signal Imaging)を使用した。バンドパスフィルタは0-20 Hzとし,80μVを超えるものはアーチファクトとして除外した。データ解析時間は手条件を画像提示後550~1000msecとし,箸条件はRTの差を考慮して1150~1600msecとした。脳活動の発生源同定は各条件4試行分を加算平均し,50msec毎にsLORETA(standardized low resolution brain electromagnetic tomography)解析を行った。RTの統計処理は,2条件の比較を対応のあるt-検定を用いた。脳波の統計処理はsLORETA解析後に,2条件の比較を対応のあるt-検定を用いて行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。全ての対象者に対して本研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護および参加の拒否と撤回について十分に説明を行った後に参加合意に対して自筆による署名を得た。
【結果】
RTの平均は手条件で1.35秒(±0.45)であり,箸条件は手条件に比べ約500msec遅延した1.87秒(±0.76)であった。手条件に比べ箸条件ではRTの有意な延長を認めた(p<.05)。脳波では,手条件において550msec~600msecに後頭葉,700msec~750msecに頭頂葉,900msec~1000msecに前頭葉の脳活動を認めた。箸条件でも同様の脳活動が1150msec~1200msec,1300msec~1350msec,1500msec~1600msecに生じていた。また箸条件でのみ手条件と比べ700msec~750msecに左半球の上側頭溝(Brodmann Area:BA21)と下前頭回(BA44)に有意な賦活を認めた(p<.05)。
【考察】
本研究結果から,箸条件は手条件に比べRTが約500msec遅延し,回答時に生じる脳活動が手条件と比べ約600msec遅延していた。また箸条件でのみ700msec~750msecに左半球の上側頭溝(BA21)と下前頭回(BA44)に有意な賦活を認めた。このことから,提示する画像の条件を変えることで脳活動に変化が生じ,RTが遅延したと考えられる。箸条件でのみ有意な賦活を認めた上側頭溝(BA21)と下前頭回(BA44)はミラーニューロンの責任領域と言われ,道具把持行為の観察課題で賦活する(Rizzolatti,1996)と報告されている。そのため,箸条件でのみミラーニューロンに類似した活動が生じたと考えられる。しかし,ミラーニューロンの活動条件は多数(手の動作観察時や観察動作と同様の動作実行時,目標指向運動の観察時)ある(森岡,2006)ため,道具特異性か道具操作特異性かの判別は本研究では困難であり,推測の域を出ない。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は,MR課題に道具を把持した画像を使用することにより,ミラーニューロンの活動を賦活させる可能性があるという基礎的知見を示した。このことから,道具把持画像を用いた心的回転課題は,運動イメージを想起させる有効なツールとして臨床応用できることが示唆された。