[0461] 乳児の非言語的表出に対する成人のストレス反応について
キーワード:NIRS, ストレス, 乳児
【はじめに,目的】
虐待の誘因といわれている乳児の表情に対するストレス反応について親での報告はあるが育児経験のない若年期成人ではみられない。昨年,我々は乳児の表情変化による脳活動の違いについて近赤外線分光法(Near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いて計測し本実験方法の可能性を本学会で報告した。前回の結果では個人解析では,前頭前皮質および上側頭溝近傍の関心領域において乳児が泣いている場面(cry条件),機嫌の良い状態(non-cry条件)の2つの条件による差がみられたが,グループ解析においては左右の関心領域と刺激条件では差は見いだせず,ストレス反応としての本実験方法の可能性に言及するにとどまった。そこで今回の報告では,対象者を増やし,脳活動の中でもストレス反応と関連が深いといわれている前頭葉について脳活動を検討した。本研究の目的は,乳児の表情によるストレス反応の影響を,育児経験のない若年期成人の前頭葉での脳活動について近赤外線分光法(NIRS)にて計側し明らかにすることとした。
【方法】
被験者は健康な大学生24名(男女各12名,平均年齢21.3歳,全員が右利き)である。実験は,防音室にて実施した。対象者の姿勢は背もたれのある椅子によりかかった安楽な姿勢とした。乳児の表情は刺激を統制するためビデオ画像を用いた。刺激呈示用のモニターは26インチの液晶モニター(Panasonic社製TH-L26C5)を使用し,対象者の頭部から約170cm前方で,床からの高さが90cmに画面の下端が配置するよう設置した。安静と刺激を20秒間3回繰り返すブロックデザインとし,刺激課題は乳児が泣いている場面(cry条件),泣いておらず比較的機嫌の良い状態(non-cry条件)とし,乳児が何を伝えようとしているかを考えるように教示した。安静課題は画面上に点滅するクロスの固視点を示し,何も考えずに注視するよう教示した。脳活動計側はNIRS(日立メディコ社製,ETG-4000)を使用し,計測プローブは,3×11ホルダーを使用し52chを計測した。計測部位は国際10-20法に基づきFp1-Fp2ラインに最下端のプローブを配置した。指標はOxyHb(mM・mm)とし,移動平均を5秒に設定し,各刺激について3回分を加算平均した。解析区間はOxyHbの反応が刺激提示時より遅延することから,安静,刺激課題とも開始後5秒経過時点からの15秒間とし,OxyHb平均値を算出した。計側部位は前頭前皮質(PFC)の19チャンネル(Ch)とした。統計解析は,各チャンネルにおいて刺激条件について対応のあるt検定を実施した。有意水準は5%とし,使用ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は東北福祉大学倫理審査委員会により承認された。対象者には研究内容について十分な説明を行い書面にて研究参加の同意を得た。
【結果】
計側した19Chのうち,PFCの中央に位置するCh37,Ch38においてcry条件との比較ではnon-cry条件のOxyHbが有意に低下した(Ch37:p=0,457 Ch37:p=0,457)。
【考察】
乳児の2つの表情cry,non-cry条件によりに,PFC中央部の脳活動に有意な差がみられた。近年,背外側前頭前野(DLPFC)がうつ病やストレスと関連があると報告されている。DLPFCは偏桃体や前部帯状回との線維連絡があり情動刺激に反応する部位である。今回は乳児の表情から何らかの感情を読み取ることが影響したかもしれない。しかし,今回non-cry条件で脳活動が低下した現象のメカニズムは明らかではない。この点については今後,検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本方法によるストレス反応を脳活動において明らかにすることは,ストレスに対する介入効果を明らかにする上で有用である。また乳児の表情表出に対する若年期成人のストレス反応について明らかにすることは,育児不安がより高いといわれている障害児を抱える母親に対する対策や支援の基礎資料となる。
謝辞:本研究は,日本学術振興会科学研究費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。
虐待の誘因といわれている乳児の表情に対するストレス反応について親での報告はあるが育児経験のない若年期成人ではみられない。昨年,我々は乳児の表情変化による脳活動の違いについて近赤外線分光法(Near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いて計測し本実験方法の可能性を本学会で報告した。前回の結果では個人解析では,前頭前皮質および上側頭溝近傍の関心領域において乳児が泣いている場面(cry条件),機嫌の良い状態(non-cry条件)の2つの条件による差がみられたが,グループ解析においては左右の関心領域と刺激条件では差は見いだせず,ストレス反応としての本実験方法の可能性に言及するにとどまった。そこで今回の報告では,対象者を増やし,脳活動の中でもストレス反応と関連が深いといわれている前頭葉について脳活動を検討した。本研究の目的は,乳児の表情によるストレス反応の影響を,育児経験のない若年期成人の前頭葉での脳活動について近赤外線分光法(NIRS)にて計側し明らかにすることとした。
【方法】
被験者は健康な大学生24名(男女各12名,平均年齢21.3歳,全員が右利き)である。実験は,防音室にて実施した。対象者の姿勢は背もたれのある椅子によりかかった安楽な姿勢とした。乳児の表情は刺激を統制するためビデオ画像を用いた。刺激呈示用のモニターは26インチの液晶モニター(Panasonic社製TH-L26C5)を使用し,対象者の頭部から約170cm前方で,床からの高さが90cmに画面の下端が配置するよう設置した。安静と刺激を20秒間3回繰り返すブロックデザインとし,刺激課題は乳児が泣いている場面(cry条件),泣いておらず比較的機嫌の良い状態(non-cry条件)とし,乳児が何を伝えようとしているかを考えるように教示した。安静課題は画面上に点滅するクロスの固視点を示し,何も考えずに注視するよう教示した。脳活動計側はNIRS(日立メディコ社製,ETG-4000)を使用し,計測プローブは,3×11ホルダーを使用し52chを計測した。計測部位は国際10-20法に基づきFp1-Fp2ラインに最下端のプローブを配置した。指標はOxyHb(mM・mm)とし,移動平均を5秒に設定し,各刺激について3回分を加算平均した。解析区間はOxyHbの反応が刺激提示時より遅延することから,安静,刺激課題とも開始後5秒経過時点からの15秒間とし,OxyHb平均値を算出した。計側部位は前頭前皮質(PFC)の19チャンネル(Ch)とした。統計解析は,各チャンネルにおいて刺激条件について対応のあるt検定を実施した。有意水準は5%とし,使用ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は東北福祉大学倫理審査委員会により承認された。対象者には研究内容について十分な説明を行い書面にて研究参加の同意を得た。
【結果】
計側した19Chのうち,PFCの中央に位置するCh37,Ch38においてcry条件との比較ではnon-cry条件のOxyHbが有意に低下した(Ch37:p=0,457 Ch37:p=0,457)。
【考察】
乳児の2つの表情cry,non-cry条件によりに,PFC中央部の脳活動に有意な差がみられた。近年,背外側前頭前野(DLPFC)がうつ病やストレスと関連があると報告されている。DLPFCは偏桃体や前部帯状回との線維連絡があり情動刺激に反応する部位である。今回は乳児の表情から何らかの感情を読み取ることが影響したかもしれない。しかし,今回non-cry条件で脳活動が低下した現象のメカニズムは明らかではない。この点については今後,検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本方法によるストレス反応を脳活動において明らかにすることは,ストレスに対する介入効果を明らかにする上で有用である。また乳児の表情表出に対する若年期成人のストレス反応について明らかにすることは,育児不安がより高いといわれている障害児を抱える母親に対する対策や支援の基礎資料となる。
謝辞:本研究は,日本学術振興会科学研究費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。