第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習8

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (基礎)

座長:倉山太一(千葉大学大学院医学研究院子どものこころの発達研究センター)

基礎 ポスター

[0462] 身体的・精神的QOLの違いが物理的ストレス時の脳活動に及ぼす影響

松田雅弘1, 新田收2, 白谷智子3, 後藤圭介4, 渡邊塁2, 妹尾淳史2, 渡邉修5 (1.植草学園大学保健医療学部, 2.首都大学東京大学院人間健康科学研究科, 3.苑田第二病院リハビリテーション科, 4.東京女子医科大学病院リハビリテーション科, 5.東京慈恵医科大学附属第三病院リハビリテーション科)

Keywords:機能的MRI, ストレス, 身体的・精神的QOL

【はじめに,目的】ストレスは一般的に物理的ストレスと心理的ストレスの2種類に分けることができる。物理的ストレスは熱,寒さ,密集(過密),騒音などが知られている。心理的ストレスとしては対人関係上の葛藤,孤立(別離)などが知られている。このように,日常的な気候や社会的な生活のなかでヒトは多くのストレスを感じており,その蓄積が抑うつを引き起こす原因と考えられる。健全な精神性を保持するためには,適度な運動が薦められている。このように,運動によってストレスの軽減や,気分の改善などに効果が認められている。日常的に感じている身体的ストレスの軽減し,許容量を超過することなく,運動によって気分の改善することは,QOLの向上やメンタルヘルスを増進させる。主に,ストレス時に活動する部位は前帯状回,扁桃体,前頭前野や島皮質を主体とする脳のネットワークがストレスや抑うつと関連している。fMRI(functional MRI)の報告で情動刺激と疼痛刺激が入力されると扁桃体の機能が活性し,扁桃体から前帯状回皮質への結合性が増大することで,前帯状回皮質における痛みの主観的な体験が増幅された。このようにストレスは脳の情動系に関連する領域での活動がみられ,情動と認知に大きな影響を与える。今回,身体的・精神的QOLに違いによって,物理的ストレス刺激を健常高齢者に与えた時のストレスに関与する脳部位活動を,fMRIによる脳活動計測で明らかにすることを目的とした。本研究は平成24年度明治安田厚生事業団研究助成を受けて実施した。
【方法】対象は神経学的な疾患の既往のない右利き健常高齢者12名(68~79歳,平均年齢74.1歳,男性3名,女性9名)であった。被験者は全員ADL(日常生活活動)が自立していた。利き手は全員,エディンバラインベントリー21にてラテラリティ係数90%以上の右利きであることを確認した。被験者には事前にSF-36v2を利用して面接法で質問して,下位項目から算出される身体的QOLと精神的QOLの高い群7名(高値群)と,低い群5名(低値群)に分けた。MRI実験のデザインはブロックデザインとして,1分間のストレス課題を3回,休憩を40秒で挟んだ。被験者はMRI装置内で仰臥位となり,両上肢は体幹側面に安楽に置くように指示した。物理的ストレス課題は,4℃の非磁性帯の冷却ジェルに右手をつけることとした。使用装置はphilip社製3.0T臨床用MR装置を使用した。MRI撮像後の分析はSPM8を利用して,個人解析後,集団解析を実施した。解析は位置補正,標準化,平滑化を実施した。ストレス課題の最後の36秒間を抽出し,3回分を重ね合わせた。集団解析にて被験者全員の脳画像をタライラッハ標準脳の上に重ね合わせて,MR信号強度がuncorrectedで有意水準(p<0.001)をこえる部位を求めた。また,QOLの点数で分けた両群においても集団分析を実施した。関心領域(Range of Interests;ROI)は,WFU_PickAtlasを用いて活動部位を抽出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は平成25年度首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号13027)を得た後で,すべての対象者に実験の趣旨を説明し,参加することの承諾を得た。
【結果】被験者全員の集団解析を行った結果,両側1次感覚野,両側2次感覚野,両側視床,両側前部帯状回,両側扁桃体,両側島,両側前頭前野の活動が有意に認められた。また,各群で分析した結果,高値群ではストレスに関連する視床・帯状回・扁桃体・右側背側前頭前野の活動範囲が22ボクセルと狭く,低値群では127ボクセルと広い活動がみられた。
【考察】不快の予測は右前頭前野および前部帯状回が有意に活動している報告や,ネガティブな情動刺激で扁桃体・前部帯状回の活動が増大することが知られている。ストレスを感じとるネットワークで,感覚・認知された情報を右背外側前頭前野へと送られ,前部帯状回,島皮質などの情動系のシステムとの結合が強まる。今回,全員の被験者で広く物理的な刺激によって身体的ストレスを受けていた。また,身体的・精神的QOLが両方とも50点以上の高い群では,ストレスに関する部位の活動が減少し,反対に低値群ではストレスをよく感じていることが示唆された。常にQOLが高いような生活を意識したり,運動や活動にてQOLの高い高齢者は,物理的なストレス刺激を感じることが鈍いことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】身体的・精神的QOLの違いによって,ストレスに関連する脳活動の差が生じることが示唆された。QOLの向上,ストレスの軽減のために,日常的な運動などを指導することが重要であるという知見になるものと考えている。今後は運動がストレスに及ぼす影響についても検討していきたい。