[0465] 足底挿板の力学的作用機序
キーワード:外側ウェッジ, 膝関節内転モーメント, 足部アライメント
【はじめに,目的】内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)に対する保存療法の1つに外側楔状足底挿板(以下,外側ウェッジ)がある。膝OAの進行は歩行中の外部膝関節内転モーメント(以下,内転モーメント)の増大と密接に関わっており,内転モーメントを減少させることが保存療法の主要な戦略となっている。外側ウェッジを使用することで内転モーメントが減少することが期待されているが,個人によっては内転モーメントの減少がみられない例も存在するという否定的な報告がされている。しかし,メカニカルストレス軽減の機序がどのように成り立ち,ウェッジの適応について明確に示した研究は渉猟する限りにおいて存在しない。そこで本研究では,ウェッジ装着の有無による片脚立位時の内転モーメントの変化を,運動学・運動力学的分析により明らかにすることを目的とした。また,足部アライメントによって内転モーメントの変化に相違がみられるかどうかを明らかにすることを副次的な目的として研究を実施した。
【方法】被験者は,若年健常成人30名(平均年齢21.17±1.18歳)とし,脊柱や下肢に整形疾患や外傷の既往のない者とした。各被験者に対して,足部アライメント簡易評価ツールであるTHE FOOT POSTURE INDEX(以下,FPI)を用いて評価を行い,normal,pronated,supinatedの3群に分類した。課題動作を裸足,外側ウェッジを装着した状態,内側ウェッジを装着した状態の3条件による左片脚立位とし,10秒間保持させた。計測には,2枚の床反力計(AMTI社,Watertown)と8台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion System社,Oxford)を同期させて使用し,サンプリング周波数120Hzで運動学・運動力学データを取得した。解析区間を前後の不安定な相の影響を排除するために,開始5秒後からの1秒間とし,3試行の平均を解析に使用した。解析項目を内転モーメント,膝関節前額面レバーアーム長(以下,前額面レバーアーム),床反力の大きさ,1秒間の足部座標内における足圧中心(以下,COP)の前額面変位量とし,それぞれの平均値を算出した。内転モーメントと前額面レバーアームに関しては,裸足条件に対する各ウェッジ条件の変化率を同時に算出した。モーメントと床反力データは各被験者の体重を標準化して用いた。統計解析にはEZR(Easy R,埼玉)を使用し,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,広島国際大学倫理委員会の承認を得た。すべての被験者に研究の目的と趣旨を十分に説明し,文書による同意を得た上で計測を実施した。
【結果】FPIの検者内信頼性ICC(1,1)はρ=0.868であった。被験者30名に対してFPIを評価した結果,normal footが18名,pronated footが6名,supinated footが6名であった。30名の内転モーメント,前額面レバーアーム,床反力の大きさ,COP前額面変位量のいずれに関しても3条件間における有意差は認められなかった。一方,裸足条件に対するウェッジ条件の変化率において,外側ウェッジでは内転モーメントと前額面レバーアームが減少するのに対して,内側ウェッジでは増加し,有意差を認めた。また,normal foot群に関して,外側ウェッジを装着することで裸足時よりもCOPが外側,内側ウェッジを装着することで裸足時よりもCOPが内側へ変位する症例が7名存在し,これらの集団において外側ウェッジ装着時の内転モーメントと前額面レバーアームの変化率との間に有意な正の相関(r=0.97;p<0.05)を認めた。
【考察】裸足条件に対するウェッジ条件の内転モーメントと前額面レバーアームの変化率において,外側ウェッジで両者が減少し,内側ウェッジで両者が増加した。また,normal foot群の中で,外側ウェッジによりCOPが外側,内側ウェッジによりCOPが内側へ変位する症例では,外側ウェッジ装着時の内転モーメントと前額面レバーアームの変化率との間に強い正の相関がみられた。先行研究において,外側ウェッジによる内転モーメントの減少に関して,COPの外側変位が報告されている。また,外側ウェッジを使用しても内転モーメントの減少がみられない症例の存在が報告されているが,本研究より足部アライメントの相違が関与している可能性が示唆される。今後,足部における機能評価を併せて実施することで,適切な足底挿板の治療介入の構築につなげたい。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,外側ウェッジを装着することでより効果が期待できるのがnormal footであり,COPの制御が関与している可能性が明らかとなった。また,内側型膝OAにおけるメカニカルストレス減少を目的とした足底挿板の処方を行う上で,足部アライメント評価が重要であることが示された。
【方法】被験者は,若年健常成人30名(平均年齢21.17±1.18歳)とし,脊柱や下肢に整形疾患や外傷の既往のない者とした。各被験者に対して,足部アライメント簡易評価ツールであるTHE FOOT POSTURE INDEX(以下,FPI)を用いて評価を行い,normal,pronated,supinatedの3群に分類した。課題動作を裸足,外側ウェッジを装着した状態,内側ウェッジを装着した状態の3条件による左片脚立位とし,10秒間保持させた。計測には,2枚の床反力計(AMTI社,Watertown)と8台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion System社,Oxford)を同期させて使用し,サンプリング周波数120Hzで運動学・運動力学データを取得した。解析区間を前後の不安定な相の影響を排除するために,開始5秒後からの1秒間とし,3試行の平均を解析に使用した。解析項目を内転モーメント,膝関節前額面レバーアーム長(以下,前額面レバーアーム),床反力の大きさ,1秒間の足部座標内における足圧中心(以下,COP)の前額面変位量とし,それぞれの平均値を算出した。内転モーメントと前額面レバーアームに関しては,裸足条件に対する各ウェッジ条件の変化率を同時に算出した。モーメントと床反力データは各被験者の体重を標準化して用いた。統計解析にはEZR(Easy R,埼玉)を使用し,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,広島国際大学倫理委員会の承認を得た。すべての被験者に研究の目的と趣旨を十分に説明し,文書による同意を得た上で計測を実施した。
【結果】FPIの検者内信頼性ICC(1,1)はρ=0.868であった。被験者30名に対してFPIを評価した結果,normal footが18名,pronated footが6名,supinated footが6名であった。30名の内転モーメント,前額面レバーアーム,床反力の大きさ,COP前額面変位量のいずれに関しても3条件間における有意差は認められなかった。一方,裸足条件に対するウェッジ条件の変化率において,外側ウェッジでは内転モーメントと前額面レバーアームが減少するのに対して,内側ウェッジでは増加し,有意差を認めた。また,normal foot群に関して,外側ウェッジを装着することで裸足時よりもCOPが外側,内側ウェッジを装着することで裸足時よりもCOPが内側へ変位する症例が7名存在し,これらの集団において外側ウェッジ装着時の内転モーメントと前額面レバーアームの変化率との間に有意な正の相関(r=0.97;p<0.05)を認めた。
【考察】裸足条件に対するウェッジ条件の内転モーメントと前額面レバーアームの変化率において,外側ウェッジで両者が減少し,内側ウェッジで両者が増加した。また,normal foot群の中で,外側ウェッジによりCOPが外側,内側ウェッジによりCOPが内側へ変位する症例では,外側ウェッジ装着時の内転モーメントと前額面レバーアームの変化率との間に強い正の相関がみられた。先行研究において,外側ウェッジによる内転モーメントの減少に関して,COPの外側変位が報告されている。また,外側ウェッジを使用しても内転モーメントの減少がみられない症例の存在が報告されているが,本研究より足部アライメントの相違が関与している可能性が示唆される。今後,足部における機能評価を併せて実施することで,適切な足底挿板の治療介入の構築につなげたい。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,外側ウェッジを装着することでより効果が期待できるのがnormal footであり,COPの制御が関与している可能性が明らかとなった。また,内側型膝OAにおけるメカニカルストレス減少を目的とした足底挿板の処方を行う上で,足部アライメント評価が重要であることが示された。