第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学2

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (基礎)

座長:石川博隆(レッツリハビリデイサービスセンター磐田)

基礎 ポスター

[0466] 母趾圧迫力と内側縦アーチの関係性について

冨田恭輔, 工藤慎太郎, 稲生侑汰, 下村咲喜, 松下智美 (国際医学技術専門学校理学療法学科)

Keywords:母趾圧迫力, 内側縦アーチ, アーチ高率

【はじめに,目的】
従来,臨床場面において,内側縦アーチ(以下,MLA)が低下している際に,タオルギャザー,足趾じゃんけん,足趾圧迫トレーニングなどの足趾内在筋の筋力トレーニングが行われている。その中の一つとして,足趾圧迫力についての報告もされている。これらのトレーニングはMLAを構成する筋の内,長母指屈筋,長指屈筋,母指外転筋などにアプローチをしている。これらの介入のエビデンスとして,石坂らは,MLAが上昇したとしており,その原因として,足趾屈筋群や後脛骨筋,足底筋膜などの筋肥大と述べている。一方,城下らは,母趾底屈エクササイズによりMLAが低下したとしており,その原因として,筋電図解析から内がえし筋群より長腓骨筋の活動を認め,長腓骨筋の外がえし作用によるものと報告している。つまり,どちらも,内在筋の筋力強化を行っているものの,結果は相反するものになっており,足趾圧迫力がMLAに与える影響は明らかではない。また,石坂や城下は,座位や足趾荷重量が10%に設定した肢位での計測であり,問題となる立位での計測ではない。
そこで,本研究では,母趾圧迫力と立位でのMLAの関係性を検討した。
【方法】
対象は健常成人男女40名66肢(男性;52肢,女性;14肢,年齢22.0±3.6歳,身長167.9±7.7cm,体重64.7±11.1 kg)とした。
母趾圧迫力の計測には,床反力計(アニマ)を用いた。床反力計上に母趾のみを置けるように自作した計測装置を固定し,3秒間の最大努力圧迫における垂直分力を計測した。その際,計測肢位は椅子坐位で,椅子に大腿と骨盤・体幹を固定した状態で実施した。垂直分力から力積を算出し,体重で除した百分率を母趾圧迫力とした。アーチ高率は,計測したアーチ高率値の中央値と四分位範囲を算出し,Low arch群,Normal arch群,High arch群の3群に分類した。アーチ高率の3群間で母趾圧迫力に関して比較した。統計学的手法には三群間の比較にKruskal Wallis test,post hoc testとして,bonfferoni法を用いた。なお,統計解析にはSPSS ver.18を用いて,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,対象者には本研究の趣旨および対象者の権利を紙面と口頭で説明し,紙面上にて同意を得た。
【結果】
各パラメーターの中央値と四分位範囲を示す。母趾圧迫力は,Low arch群19.0%(16.6-22.3),Normal arch群18.7%(15.7-23.3),High arch群18.8%(13.9-22.2)で有意差を認めない。
【考察】
今回の結果から,アーチ高率と母趾圧迫力に有為差を認めなかった。つまり,母趾圧迫力が向上することで,アーチ高率が上昇するとは言えず,城下らの見解を支持する結果となった。石坂らの報告と異なる結果となったのは,アーチ高率の測定肢位の影響と考えている。彼らは,下腿・足部筋群の筋活動の影響を排除するため,坐位で計測している。それに対して,われわれは,静止立位でアーチ高率を計測している。Cavanaughらは荷重位で計測したアーチの高さと動作時のアーチの高さは異なることを報告している。足趾圧迫力が強いものは,足部の剛性も強いと考えられる。しかし,母趾圧迫力の中央値は21.9Nmであり,荷重負荷に耐えられる程の力を発揮しているとは考えにくい。つまり,母趾圧迫力は非荷重位ではアーチ高率と関係していると考えることができるが,荷重負荷が強くなっていくことでアーチ高率との関係が弱くなることが考えられた。また堂田らは,足趾屈曲筋力強化により,アーチ高率が上昇することを示しており,前川らは母趾外転筋に電気刺激することで即時的にアーチ高率が上昇することを示している。いずれも測定肢位は片脚立位および立位であり,荷重負荷の影響が強い。扁平足では中足部内側の接触面積が増加しており,足圧中心も内側に変移している。つまり,アーチ高率が低下した足部は足部内側への荷重負荷が増加している。そこで,足内在筋の収縮を促通することで,足圧中心が外側に移動し,アーチが上昇したとも考えられる。つまり,足内在筋の筋力よりも,発揮するタイミングや筋緊張,固有感覚といった,神経生理学的調節機序がARと関与していることも考えられ,今後の検討が必要になった。
【理学療法学研究としての意義】
従来MLAの低下に対して,足趾トレーニングが施行されてきた。しかし,本研究の結果から,母趾圧迫力とアーチ高率の関係性が低かったため,母趾圧迫力の向上を目的とした筋力増強トレーニングを施行しても,アーチ高率を上昇させることは考えにくいことが示唆された。今後は足部内在筋のエクササイズを筋力強化の側面としてのみではなく,そのエクササイズの神経生理学的側面や生体力学的側面から検討していくための契機となると考えられた。