[0474] 地域高齢者における筋力と身体能力との関連
キーワード:地域高齢者, 筋力, 身体能力
【はじめに,目的】筋力は運動機能を評価する指標の一つであり,身体活動や動作に大きく影響する。加齢とともに骨格筋量は減少し,筋力低下または身体能力低下が認められるとサルコペニアと診断される。身体能力の低下は,日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)などの低下を招き,健康寿命を短縮する。身体能力を低下させる要因は,筋力だけではなく,痛みやバランス機能,感覚機能,精神機能など多くの因子があり,これらが複雑に絡み合っているが,筋力は身体能力を反映する重要な指標の1つである。そこで本研究では,筋力と身体能力との関連を調査することを目的とした。
【方法】対象は某コホート研究に参加した高齢者のうち,解析する運動機能測定データがすべてそろっている520名(男性222名,女性298名,平均年齢73.0±5.1歳)とした。測定筋力は握力,膝伸展(KET)・膝屈曲(KFT)トルクとし,身体能力は10m歩行時間(10GT),開眼片脚立位時間(OLST,最大60秒間),Timed up and go test(TUG),5回立ち上がりテスト(5SUT),最大一歩幅(MSL),最大またぎ高(MSH),床からの物拾い上げ前方距離(FRD)を測定し,MSL,MSH,FRDは身長で補正した。男女別に検討することとし,各身体能力を従属変数とし,年齢,BMIおよび測定した筋力を目的変数として,これらの関連を重回帰分析ステップワイズ法で調べた。P<0.05で有意差ありとした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,奈良県立医科大学の倫理委員会の承認のもと,対象者からも同意を得た上で実施した。
【結果】男性では,10GTは年齢,握力と,OLST,MSHは年齢,BMI,握力と,TUGは年齢,BMI,握力,KFTと,5SUTは年齢,KFTと,MSL,FRDは年齢,BMIと関連が認められ,女性では,10GTは年齢,BMI,握力,KET,KFTと,OLSTは年齢,BMI,握力,KFTと,TUG,MSLは年齢,BMI,握力,KETと,5SUTは年齢,BMI,KET,KFTと,MSHは年齢,BMIとFRDは年齢,BMI,KETと関連が認められた。男女ともに加齢により身体能力は低下し,女性の10GTと握力との関連を除いて,すべての測定筋力は,筋力が高いと身体能力も高くなる関係であった。また,BMIが高いと10GT,OLST,TUG,5SUTの値は高くなり,MSL,MSH,FRDの値は低くなるという関連が認められた。さらに,決定係数は男女ともTUGで最も高かった(男性:R2=0.280,女性:R2=0.328)。
【考察】本研究では,男女ともに年齢と身体能力との関連が認められ,加齢とともに身体能力は低下することが示された。加齢とともに骨格筋量は減少し,筋力や身体能力の低下を招くため,身体能力に対する年齢の影響は大きいと言える。男性では下肢筋力と関連がなく,BMIと関連を示した項目(OLST,MSL,MSH,FRD)は体重を移動する動作にみられることから,BMIがバランス能力に関連する可能性が考えられる。女性ではすべての身体能力とBMIは関連を示したが,下肢筋力が関連しなかったのはMSHのみであり,女性では身体能力を評価する時には,BMIの影響を考慮する必要性が示された。筋力については,男女とも握力は10GT,OLST,TUGとの関連が認められた。握力は全身の運動機能を反映することが報告されており,本研究においても,移動能力やバランス能力を反映することが示された。下肢筋力については,男性では,立ち上がり動作が含まれる動作(KFTとはTUG,5SUT)と関連することが示された。女性では,下肢筋力はMSHを除いたすべての身体能力と関連が認められ,男性よりも身体能力が下肢筋力の影響を受けやすいことが示された。また,女性ではOLSTを除いてKETの関連が認められており,身体能力に対して大腿四頭筋の重要性が高いことが考えられる。筋力のみが身体能力を規定する訳ではないが,握力,下肢筋力の維持は身体能力維持の目安になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】筋力は身体能力を反映する指標の一つである。そのため,理学療法現場では重要な評価項目となる。「筋力低下=身体能力低下」ということではなく,筋力低下は今後の身体能力の低下につながることを意識して,高齢者の虚弱化の予防法,改善法を考えることが重要である。実際,要支援,要介護に陥る原因では転倒・骨折が約1割を占めており,これらの原因は下肢筋力の低下との関連が示されている。このことからも,身体能力を維持するとともに,筋力を維持することは高齢者の健康寿命を延伸することにつながると考えられる。
【方法】対象は某コホート研究に参加した高齢者のうち,解析する運動機能測定データがすべてそろっている520名(男性222名,女性298名,平均年齢73.0±5.1歳)とした。測定筋力は握力,膝伸展(KET)・膝屈曲(KFT)トルクとし,身体能力は10m歩行時間(10GT),開眼片脚立位時間(OLST,最大60秒間),Timed up and go test(TUG),5回立ち上がりテスト(5SUT),最大一歩幅(MSL),最大またぎ高(MSH),床からの物拾い上げ前方距離(FRD)を測定し,MSL,MSH,FRDは身長で補正した。男女別に検討することとし,各身体能力を従属変数とし,年齢,BMIおよび測定した筋力を目的変数として,これらの関連を重回帰分析ステップワイズ法で調べた。P<0.05で有意差ありとした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,奈良県立医科大学の倫理委員会の承認のもと,対象者からも同意を得た上で実施した。
【結果】男性では,10GTは年齢,握力と,OLST,MSHは年齢,BMI,握力と,TUGは年齢,BMI,握力,KFTと,5SUTは年齢,KFTと,MSL,FRDは年齢,BMIと関連が認められ,女性では,10GTは年齢,BMI,握力,KET,KFTと,OLSTは年齢,BMI,握力,KFTと,TUG,MSLは年齢,BMI,握力,KETと,5SUTは年齢,BMI,KET,KFTと,MSHは年齢,BMIとFRDは年齢,BMI,KETと関連が認められた。男女ともに加齢により身体能力は低下し,女性の10GTと握力との関連を除いて,すべての測定筋力は,筋力が高いと身体能力も高くなる関係であった。また,BMIが高いと10GT,OLST,TUG,5SUTの値は高くなり,MSL,MSH,FRDの値は低くなるという関連が認められた。さらに,決定係数は男女ともTUGで最も高かった(男性:R2=0.280,女性:R2=0.328)。
【考察】本研究では,男女ともに年齢と身体能力との関連が認められ,加齢とともに身体能力は低下することが示された。加齢とともに骨格筋量は減少し,筋力や身体能力の低下を招くため,身体能力に対する年齢の影響は大きいと言える。男性では下肢筋力と関連がなく,BMIと関連を示した項目(OLST,MSL,MSH,FRD)は体重を移動する動作にみられることから,BMIがバランス能力に関連する可能性が考えられる。女性ではすべての身体能力とBMIは関連を示したが,下肢筋力が関連しなかったのはMSHのみであり,女性では身体能力を評価する時には,BMIの影響を考慮する必要性が示された。筋力については,男女とも握力は10GT,OLST,TUGとの関連が認められた。握力は全身の運動機能を反映することが報告されており,本研究においても,移動能力やバランス能力を反映することが示された。下肢筋力については,男性では,立ち上がり動作が含まれる動作(KFTとはTUG,5SUT)と関連することが示された。女性では,下肢筋力はMSHを除いたすべての身体能力と関連が認められ,男性よりも身体能力が下肢筋力の影響を受けやすいことが示された。また,女性ではOLSTを除いてKETの関連が認められており,身体能力に対して大腿四頭筋の重要性が高いことが考えられる。筋力のみが身体能力を規定する訳ではないが,握力,下肢筋力の維持は身体能力維持の目安になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】筋力は身体能力を反映する指標の一つである。そのため,理学療法現場では重要な評価項目となる。「筋力低下=身体能力低下」ということではなく,筋力低下は今後の身体能力の低下につながることを意識して,高齢者の虚弱化の予防法,改善法を考えることが重要である。実際,要支援,要介護に陥る原因では転倒・骨折が約1割を占めており,これらの原因は下肢筋力の低下との関連が示されている。このことからも,身体能力を維持するとともに,筋力を維持することは高齢者の健康寿命を延伸することにつながると考えられる。