[0475] 高齢者における身体機能と筋力の関係
キーワード:高齢者, 筋力, 身体機能
【はじめに,目的】高齢者の身体機能を維持することは健康寿命を延ばす上で重要である。近年,サルコぺニア(筋肉量の減少)に注目が集まり,身体機能の維持には筋肉量を維持もしくは増やすことが重要であると考えられている。しかし,筋力の減少が筋肉量の減少よりも先に生じること,さらに身体機能の低下には筋肉量よりも筋力が影響すると報告され,筋力の減少に注目が集まっている。筋力の重要性を示した先行研究は日本人を対象とした研究は少なく,運動により身体機能の低下を引き起こす要因にアプローチするために,日本人でも包括的な観点から身体機能に影響する要因を検証する必要がある。そこで,本研究は移動が自立している高齢者を対象に,筋力(握力,下肢筋力),体組成(筋肉量,体脂肪率,BMI),認知機能,年齢の中で身体機能へ影響を及ぼす要因を検討した。
【方法】対象は,地域在住高齢者およびケアハウス居住者で移動が歩行および歩行補助具使用にて自立している113名(平均年齢:85.0±7.3歳,男性:21名,女性:92名)とした。身体機能はSPPB(Short Physical Performance Battery)を使用した。下肢筋力は,ハンド・ヘルド・ダイナモメーターで膝関節伸展の最大等尺性収縮を測定した。分析には実測値(N)を体重で除した値(N/kg)を用いた。握力はデジタル握力計を用いて測定した。体組成は生体電気インピーダンス法にて四肢筋肉量,体脂肪率,BMIを測定し,四肢筋肉量から骨格筋指数であるSMI(Skeletal Mass Index)を算出した。認知機能はMMSEを使用した。解析はSPPBの点数をもとに10点以上を身体機能維持群(以下;維持群),9点以下を身体機能低下群(以下;低下群)に群分けし,各指標を対応のないt検定を用いて検討した。また,身体機能に影響する要因を同定するために,従属変数をSPPB,独立変数を年齢,下肢筋力,握力,SMI,体脂肪率,BMI,MMSEとしたステップワイズ法による重回帰分析を行った。事前に多重共線性を考慮したがr>0.9もしくはr<-0.9となるような変数は存在しなかった。なお,全て有意水準は危険率5%未満とし,統計ソフトはSPSSを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】全対象者には,事前に研究の目的と方法を文面及び口頭で十分に説明し,参加の同意を得た。なお,本研究は聖隷クリストファー大学の倫理委員会の承認を得てから実施した。
【結果】113名の高齢者は維持群が50名(SPPB;11.6±0.7点)と低下群が63名(SPPB;8.1±0.7点)に群分けされた(p<0.05)。維持群は低下群に比べて,年齢が有意に低く(維持群;83±8歳,低下群;87±7歳),下肢筋力(維持群;4.5±1.5N/kg,低下群;3.2±1.0N/kg),握力(維持群;20.1±6.3kg,低下群;17.1±5.9kg),MMSE(維持群;25.5±4.0点,低下群;22.5±5.1点)が有意に高い値を示した(p<0.05)。しかし,BMI(維持群;20.96±2.99kg/m2,低下群;20.95±3.71kg/m2),体脂肪率(維持群;27.01±6.89%,低下群;26.27±7.22%),SMI(維持群;7.01±0.92kg/m2,低下群;6.99±1.02kg/m2)には有意差を認めなかった。また,重回帰分析の結果から,SPPBに影響する指標として抽出されたのは下肢筋力,年齢であった。標準偏回帰係数は下肢筋力が0.49,年齢が-0.17であり,R2は0.31,Durbin-Watson比は0.57であった。
【考察】結果より,身体機能には年齢,筋力,認知機能が影響し,最も影響する要因は下肢筋力であることが明らかになった。群間の比較により,体組成の指標には差を認めず,筋力に差を認めたことから,筋の量よりも質が身体機能を維持する上で重要であると考えられる。また,筋力は神経系と筋系の両方を反映する指標であり,神経系の要因が身体機能の維持において重要であるとされている。つまり,重回帰分析により下肢筋力が抽出されたのは,神経系の要因の低下が身体機能に影響することを示すと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より身体機能に対する筋力の重要性が明らかとなり,特に神経系の要因が影響する可能性が示唆された。高齢者は速い収縮速度を発揮できなくなることを考慮すると,身体機能にアプローチする際には筋肥大を目的としたレジスタンストレーニングよりも神経活動を賦活させるパワートレーニングを提供していく必要があると考えられる。
【方法】対象は,地域在住高齢者およびケアハウス居住者で移動が歩行および歩行補助具使用にて自立している113名(平均年齢:85.0±7.3歳,男性:21名,女性:92名)とした。身体機能はSPPB(Short Physical Performance Battery)を使用した。下肢筋力は,ハンド・ヘルド・ダイナモメーターで膝関節伸展の最大等尺性収縮を測定した。分析には実測値(N)を体重で除した値(N/kg)を用いた。握力はデジタル握力計を用いて測定した。体組成は生体電気インピーダンス法にて四肢筋肉量,体脂肪率,BMIを測定し,四肢筋肉量から骨格筋指数であるSMI(Skeletal Mass Index)を算出した。認知機能はMMSEを使用した。解析はSPPBの点数をもとに10点以上を身体機能維持群(以下;維持群),9点以下を身体機能低下群(以下;低下群)に群分けし,各指標を対応のないt検定を用いて検討した。また,身体機能に影響する要因を同定するために,従属変数をSPPB,独立変数を年齢,下肢筋力,握力,SMI,体脂肪率,BMI,MMSEとしたステップワイズ法による重回帰分析を行った。事前に多重共線性を考慮したがr>0.9もしくはr<-0.9となるような変数は存在しなかった。なお,全て有意水準は危険率5%未満とし,統計ソフトはSPSSを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】全対象者には,事前に研究の目的と方法を文面及び口頭で十分に説明し,参加の同意を得た。なお,本研究は聖隷クリストファー大学の倫理委員会の承認を得てから実施した。
【結果】113名の高齢者は維持群が50名(SPPB;11.6±0.7点)と低下群が63名(SPPB;8.1±0.7点)に群分けされた(p<0.05)。維持群は低下群に比べて,年齢が有意に低く(維持群;83±8歳,低下群;87±7歳),下肢筋力(維持群;4.5±1.5N/kg,低下群;3.2±1.0N/kg),握力(維持群;20.1±6.3kg,低下群;17.1±5.9kg),MMSE(維持群;25.5±4.0点,低下群;22.5±5.1点)が有意に高い値を示した(p<0.05)。しかし,BMI(維持群;20.96±2.99kg/m2,低下群;20.95±3.71kg/m2),体脂肪率(維持群;27.01±6.89%,低下群;26.27±7.22%),SMI(維持群;7.01±0.92kg/m2,低下群;6.99±1.02kg/m2)には有意差を認めなかった。また,重回帰分析の結果から,SPPBに影響する指標として抽出されたのは下肢筋力,年齢であった。標準偏回帰係数は下肢筋力が0.49,年齢が-0.17であり,R2は0.31,Durbin-Watson比は0.57であった。
【考察】結果より,身体機能には年齢,筋力,認知機能が影響し,最も影響する要因は下肢筋力であることが明らかになった。群間の比較により,体組成の指標には差を認めず,筋力に差を認めたことから,筋の量よりも質が身体機能を維持する上で重要であると考えられる。また,筋力は神経系と筋系の両方を反映する指標であり,神経系の要因が身体機能の維持において重要であるとされている。つまり,重回帰分析により下肢筋力が抽出されたのは,神経系の要因の低下が身体機能に影響することを示すと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より身体機能に対する筋力の重要性が明らかとなり,特に神経系の要因が影響する可能性が示唆された。高齢者は速い収縮速度を発揮できなくなることを考慮すると,身体機能にアプローチする際には筋肥大を目的としたレジスタンストレーニングよりも神経活動を賦活させるパワートレーニングを提供していく必要があると考えられる。