[0476] 地域在住一般高齢者における10秒間椅子立ち上がりテストの有用性について
キーワード:地域在住高齢者, 立ち上がりテスト, 下肢機能
【はじめに】高齢者の筋力は20~30歳代と比べて80歳代までには約30~40%も低下し,特に下肢筋力の低下は転倒との関連が指摘され,下肢筋力を評価することは重要な意味を持つ。臨床において高齢者の下肢筋力低下を早期に発見するためには簡易かつ簡便な評価法が必要であるが,簡易的な筋力評価法として用いられている村永ら(2002)の片脚立ち上がりテストや中谷ら(2004)による30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)は動作方法,測定時間を考慮すると高齢者にとって負担が大きいと考えられる。我々は,先の調査において10秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-10)が中高年女性において下肢筋力及び移動能力との間に相関が認められたことを報告した。しかし,CS-30との関連については検討していなかったため,本研究ではCS-10を地域在住一般高齢者で実施し,CS-30及び身体運動能力との関連を検証し,CS-10の有用性を検討することを目的とした。
【方法】対象は東京都M市にある高齢者包括支援センターが開催した介護予防教室及び測定会に参加した地域在住一般高齢者56名(男性16名,女性40名)とした。年齢は72.7±5.0歳,身長は154.4±9.5cm,体重は53.3±9.7kgであった。測定はCS-10の他,30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30),等尺性膝伸展筋力,Timed up&go test(TUGT),握力を実施した。CS-10及びCS-30は椅子座位で両上肢を組み,10秒経過時,30秒経過時の立ち上がり回数を測定した。尚,10秒経過時,30秒経過時に着座していない場合は回数に含めなかった。等尺性膝伸展筋力は,アニマ社製等尺性筋力測定装置μ-tas F-1を用い,被検者を端座位,膝関節90度屈曲位として左右を2回測定し,左右各々の最大値の平均値を体重で除した値を膝伸展筋力体重比(kgf/kg)とした。TUGTは3 m先の指標を回転し再び椅子に着席するまでの所要時間を2回測定し,速い方を採用した。握力は立位にてデジタル握力計を使用して左右両側の測定を行った。測定は左右それぞれ1回ずつ行い,その平均値をデータとして採用した。統計学的分析は,CS-10と各測定結果との関係をスピアマンの順位相関係数を用いて検討した。
【説明と同意】対象者には測定の目的および方法を十分に説明し,同意を得たものとした。
【結果】CS-10と各測定値との相関関係は,CS-30でrho=0.84(p<0.001),膝伸展筋力体重比でrho=0.42(p<0.01)と有意な正の相関関係を認めた。また,CS-10とTUGTとでrho=-0.55(p<0.001)と有意な負の相関関係を認めた。CS-10と握力との間には有意な相関関係は認められなかった。一方,CS-30と各測定値との相関関係は,膝伸展筋力体重比でrho=0.52(p<0.001)と有意な正の相関関係を認め,TUGTでrho=-0.55(p<0.001)と有意な負の相関関係を認めた。CS-30と握力との間には有意な相関は認められなかった。
【考察】地域在住一般高齢者においてCS-10はCS-30との間に正の強い相関関係が認められ,また膝伸展筋力体重比や移動能力との間にも相関関係が認められたことから,立ち上がりテストの測定時間が短くても下肢筋力と関連する評価法として有用な指標となりえることが示唆された。本研究の限界として,対象者数の問題と妥当性の検証があげられる。CS-10を一般化するためには,対象者数を増やし,CS-10を適応できる対象年齢や利点・欠点などを明らかにするとともに,予測妥当性の検証が必要である。
【理学療法学研究としての意義】臨床における評価は対象者にとってできるだけ負担の少ないものが望まれる。本研究の結果は,地域在住一般高齢者にとってより負担の少ない筋力評価法の確立に示唆を与えるものである。
【方法】対象は東京都M市にある高齢者包括支援センターが開催した介護予防教室及び測定会に参加した地域在住一般高齢者56名(男性16名,女性40名)とした。年齢は72.7±5.0歳,身長は154.4±9.5cm,体重は53.3±9.7kgであった。測定はCS-10の他,30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30),等尺性膝伸展筋力,Timed up&go test(TUGT),握力を実施した。CS-10及びCS-30は椅子座位で両上肢を組み,10秒経過時,30秒経過時の立ち上がり回数を測定した。尚,10秒経過時,30秒経過時に着座していない場合は回数に含めなかった。等尺性膝伸展筋力は,アニマ社製等尺性筋力測定装置μ-tas F-1を用い,被検者を端座位,膝関節90度屈曲位として左右を2回測定し,左右各々の最大値の平均値を体重で除した値を膝伸展筋力体重比(kgf/kg)とした。TUGTは3 m先の指標を回転し再び椅子に着席するまでの所要時間を2回測定し,速い方を採用した。握力は立位にてデジタル握力計を使用して左右両側の測定を行った。測定は左右それぞれ1回ずつ行い,その平均値をデータとして採用した。統計学的分析は,CS-10と各測定結果との関係をスピアマンの順位相関係数を用いて検討した。
【説明と同意】対象者には測定の目的および方法を十分に説明し,同意を得たものとした。
【結果】CS-10と各測定値との相関関係は,CS-30でrho=0.84(p<0.001),膝伸展筋力体重比でrho=0.42(p<0.01)と有意な正の相関関係を認めた。また,CS-10とTUGTとでrho=-0.55(p<0.001)と有意な負の相関関係を認めた。CS-10と握力との間には有意な相関関係は認められなかった。一方,CS-30と各測定値との相関関係は,膝伸展筋力体重比でrho=0.52(p<0.001)と有意な正の相関関係を認め,TUGTでrho=-0.55(p<0.001)と有意な負の相関関係を認めた。CS-30と握力との間には有意な相関は認められなかった。
【考察】地域在住一般高齢者においてCS-10はCS-30との間に正の強い相関関係が認められ,また膝伸展筋力体重比や移動能力との間にも相関関係が認められたことから,立ち上がりテストの測定時間が短くても下肢筋力と関連する評価法として有用な指標となりえることが示唆された。本研究の限界として,対象者数の問題と妥当性の検証があげられる。CS-10を一般化するためには,対象者数を増やし,CS-10を適応できる対象年齢や利点・欠点などを明らかにするとともに,予測妥当性の検証が必要である。
【理学療法学研究としての意義】臨床における評価は対象者にとってできるだけ負担の少ないものが望まれる。本研究の結果は,地域在住一般高齢者にとってより負担の少ない筋力評価法の確立に示唆を与えるものである。