第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防9

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:柿田京子(介護老人保健施設うぐいすの丘リハビリテーション科)

生活環境支援 ポスター

[0478] 地域在住高齢者における体幹筋量と運動機能との関連性

中谷聖史, 大川直美, 貴志将紀, 西川勝矢, 徳村太地, 赤澤直紀 (河西田村病院リハビリテーション科)

Keywords:体幹筋量, 運動機能, 地域在住高齢者

【はじめに,目的】骨格筋は40歳から80歳までに30~50%減少し,それら骨格筋の萎縮は上肢よりも下肢筋で著明に認められることが報告されている。さらにこの骨格筋の萎縮は移動機能障害,転倒骨折リスクの増加,日常生活活動障害,死亡リスクの増加といった大きな代償を伴うことが指摘されている。そのため,高齢者の骨格筋量の改善に向けた効果的な介入の模索が現在までに行われてきた。その中で,高齢者の骨格筋量の改善に向けた効果的な介入として,レジスタンストレーニングを支持する報告が多く確認される。さらに近年では,レジスタンストレーニングのみではなく,栄養補充を併用した方がより効果的に筋量を改善させることが明らかとなっている。しかしながら,それら介入研究における効果判定は,骨格筋量の中でも四肢筋量または脚筋量を指標としており,体幹筋量を指標とした研究は我々が調査した範疇では見当たらない。体幹筋量に関する研究は,現在までに超音波診断装置を用いて測定された腹部筋の筋厚値と性別,年齢,歩行能力との関連が横断的に調査されている。それら研究では,腹部筋の筋厚値は,男性のそれらが女性よりも高値であり,加齢と伴に低値を示すことが報告されている。また,Ikezoeら(2012)は,若年女性と比較して歩行困難で長期臥床している高齢者では脊柱起立筋や腹横筋,多裂筋の萎縮が著しいと報告している。これら報告から体幹筋量も四肢筋量と同様に運動機能に深く関連していることが推察される。しかしながら,体幹筋量と運動機能との関連性については明らかにされていないため,それらの関連性を明らかにすることで,体幹筋量が介入の効果を判定するうえで良い指標と成り得る可能性がある。したがって,本研究は地域在住高齢者の体幹筋量と運動機能との関連性を調査することを目的とする。
【方法】対象は2012年7月から2013年7月に和歌山市第2圏域地域包括支援センターが主催する介護予防教室に参加した高齢者26名(男性2名,女性24名,年齢77.4±7.9歳,身長149.1±6.3cm,体重49.7±9.3kg)である。部位別骨格筋量は,体成分分析装置In Body 720(Biospace社)を使用して測定した。運動機能評価は握力,大腿四頭筋筋力,5m最大歩行速度,Functional Reach Test(FRT)を実施した。統計解析は,部位別骨格筋量(体幹・左右腕・左右脚)と各運動機能測定値との関連性についてSpearmanの順位相関係数を用いて分析し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の趣旨について書面と口頭により説明し,参加の同意および結果の使用について文書にて同意を得た。
【結果】体幹筋量は握力(ρ=0.69,p<0.01),FRT(ρ=0.40,p<0.05)との間に有意な相関を認めた。左右脚筋量は握力(ρ=0.80~0.81,p<0.01),大腿四頭筋筋力(ρ=0.40~0.41,p<0.05),歩行速度(ρ=0.41~0.43,p<0.05),FRT(ρ=0.63~0.67,p<0.01)との間に有意な相関を認めた。左右腕筋量と有意な相関が認められたのは握力(ρ=0.56~0.59,p<0.01)のみであった。
【考察】本研究の結果から,両脚筋量と同様に体幹筋量もFR値との間に有意な相関関係を示し,体幹筋量は両脚筋量とともにバランス能力を反映している可能性が示唆された。よって,バランス能力の向上を目的としたトレーニングにおいては,両下肢筋だけでなく体幹筋もその対象として考慮する必要性があると考えられる。また,両脚筋量が歩行速度との間に有意な相関関係を認めたのに対し,体幹筋量は歩行速度との間に相関関係を認めなかったため,体幹筋量は両脚筋量ほど歩行能力を反映していない可能性がある。しかし,本研究結果と相反する意見も確認される。Ikezoeら(2012)は,歩行能力の低い者ほど体幹筋の萎縮が著しいことを報告しており,体幹筋量と歩行能力との間には関連性があることが窺える。よって,体幹筋量と運動機能との関連性については対象者の状態によって詳細に区分し検証を続ける必要があると考える。さらに,本研究の対象である日常生活が自立した地域在住高齢者層については今後,縦断研究を実施することによって,体幹筋量と歩行能力やバランス能力といった運動機能との因果関係を明らかにする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,日常生活が自立した地域在住高齢者の体幹筋量と運動機能との関連性を調査し,体幹筋量とFR値との間には有意な相関関係があるという結果を示した。この結果は横断研究によって導き出されたものではあるが,体幹筋量は運動機能と関連していることが示唆され,体幹筋量が介入の効果を判定するうえで良い指標と成り得る可能性があり,理学療法学研究としての意義があると考える。