[0480] 腰痛予防を考えて
Keywords:ボード, 抱え上げ移乗, 腰部負担
【はじめに,目的】
高齢者介護は,従来から介護者の腰部への負担が大きく腰痛者数も増加している。厚生労働省においても,「職場における腰痛予防対策指針」を通達するなど積極的な対応を実施している。
中でも,重度介護者のベッド・車いす間の移乗(以下,移乗)は,特に腰部への負担が大きく,福祉用具の中でもリフトを使用することが勧められている。しかし,臨床上使用時間がかかってしまうことなどもあり,リフトを導入していない施設がまだ多い状況にある。リフトや人力による抱え上げ移乗ではない移乗方法として,フレックスボード(以下,ボード)を使用した臥位移乗は我々が調べた範囲内で言及している論文は見当たらない。
そこで我々は前年度第64回北海道理学療法士学術大会にて,2名での抱え上げ移乗よりフレックスボードを使用した臥位移乗の方が移乗介助量を軽減することを示唆した。
今回は病棟スタッフが実業務で使用し,移乗の腰部負担が軽減するのかを検証した。
【方法】
対象は移乗介助を実施している特定の病棟スタッフ18名とした。
研究開始2週間で,対象が1回以上ボードを使用した臥位移乗を経験し,その後6週間,実業務においてアームサポートが取れ,後方への姿勢変換機能付き車いす使用の患者に対し,ボードを使用した臥位移乗を実践した。そして,研究期間前後にアンケートを実施した。
アンケートは,①移乗業務全体における腰部負担,②ボード対象患者の移乗業務における腰部負担,③ボード非対象患者の移乗業務における腰部負担とし,0(なし)~5(大きくも小さくもない)~10(とても大きい)の11段階からの選択とした。研究期間後にはボードの感想も加えた。統計は中央値を算出し,ボード導入前後とボード対象・非対象患者間の移乗業務における腰部負担をWilcoxon検定にて比較し,有意水準は5%未満とした。
また,研究期間前後の病棟全患者数,ボード対象患者数と移乗状況,移乗介助人数毎の患者数と人力での抱え上げ移乗患者数を調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従い実施した。研究期間前のアンケートを研究の同意書とし,対象者には本研究について説明した後,アンケートを回収した。
【結果】
導入前の①は8.5で,そのうち②が10.0,③が7.5で②③間に有意差があった(p<.01)。導入後の①は7.0で,そのうち②が2.5,③が7.5で②③間に有意差があった(p<.001)。導入前後の比較では,②のみ有意差があった(p<.001)。感想は,「慣れれば,患者・介助者共に身体的に楽」というものが多く,「準備に手間はかかったがリフトよりは良い」「使用ができる車いすが限定される」というものもあった。
研究期間前後の全患者数は44名から47名になった。ボード対象患者は前後とも同一患者9名で,ボード導入前,全員臥位から抱え上げて移乗していた。また,人力での抱え上げ移乗人数は19名から8名になり,そのうち2人介助は17名から6名になった。
【考察】
ボード導入前,ボード対象患者の方が非対象患者に比べ移乗業務における腰部負担が有意に高かったことから,臥位からの抱え上げ移乗は最も腰部負担のかかる業務の一つであったと考えられた。
また,全患者数やボード対象者にほぼ変化がないにも関わらず,ボード使用前後でボード対象患者の移乗業務における腰部負担が有意に減少し,非対象患者よりも有意に減少した。さらに感想には,「患者・介助者共に身体的に楽」とあり,ボードの使用は重度介護者を移乗する際の腰部負担が軽減することが示唆された。
しかし,移乗業務全体において,腰部負担の軽減はみられたものの有意差はみられなかった。これはボード対象患者の移乗業務における腰部負担は軽減したが,ボード非対象患者の移乗業務における腰部負担が残存したためと考える。
厚生労働省によると,腰痛予防対策として,移乗時の人力による人の抱え上げは原則禁止としている。そのため,病棟へのボードの導入を推奨すると共に,ボード非対象患者の中で残存している抱え上げ移乗患者を減少させることで,はじめて移乗業務全体の腰部負担が軽減すると考えられた。
感想には,「準備に手間はかかったがリフトよりは良い」とあり,リフトより使用のしやすさが伺われたが,「使用ができる車いすが限定される」との意見もあり,アームサポートが取れないなどの車いすがあった場合などのためにも,リフトとボードの併用が臨床上必要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
最も腰部負担のかかる業務の一つである臥位からの抱え上げ移乗に代わる方法として,今まで言及されていなかったボードを使用した方法が,臨床上有効であることを示唆した。
高齢者介護は,従来から介護者の腰部への負担が大きく腰痛者数も増加している。厚生労働省においても,「職場における腰痛予防対策指針」を通達するなど積極的な対応を実施している。
中でも,重度介護者のベッド・車いす間の移乗(以下,移乗)は,特に腰部への負担が大きく,福祉用具の中でもリフトを使用することが勧められている。しかし,臨床上使用時間がかかってしまうことなどもあり,リフトを導入していない施設がまだ多い状況にある。リフトや人力による抱え上げ移乗ではない移乗方法として,フレックスボード(以下,ボード)を使用した臥位移乗は我々が調べた範囲内で言及している論文は見当たらない。
そこで我々は前年度第64回北海道理学療法士学術大会にて,2名での抱え上げ移乗よりフレックスボードを使用した臥位移乗の方が移乗介助量を軽減することを示唆した。
今回は病棟スタッフが実業務で使用し,移乗の腰部負担が軽減するのかを検証した。
【方法】
対象は移乗介助を実施している特定の病棟スタッフ18名とした。
研究開始2週間で,対象が1回以上ボードを使用した臥位移乗を経験し,その後6週間,実業務においてアームサポートが取れ,後方への姿勢変換機能付き車いす使用の患者に対し,ボードを使用した臥位移乗を実践した。そして,研究期間前後にアンケートを実施した。
アンケートは,①移乗業務全体における腰部負担,②ボード対象患者の移乗業務における腰部負担,③ボード非対象患者の移乗業務における腰部負担とし,0(なし)~5(大きくも小さくもない)~10(とても大きい)の11段階からの選択とした。研究期間後にはボードの感想も加えた。統計は中央値を算出し,ボード導入前後とボード対象・非対象患者間の移乗業務における腰部負担をWilcoxon検定にて比較し,有意水準は5%未満とした。
また,研究期間前後の病棟全患者数,ボード対象患者数と移乗状況,移乗介助人数毎の患者数と人力での抱え上げ移乗患者数を調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従い実施した。研究期間前のアンケートを研究の同意書とし,対象者には本研究について説明した後,アンケートを回収した。
【結果】
導入前の①は8.5で,そのうち②が10.0,③が7.5で②③間に有意差があった(p<.01)。導入後の①は7.0で,そのうち②が2.5,③が7.5で②③間に有意差があった(p<.001)。導入前後の比較では,②のみ有意差があった(p<.001)。感想は,「慣れれば,患者・介助者共に身体的に楽」というものが多く,「準備に手間はかかったがリフトよりは良い」「使用ができる車いすが限定される」というものもあった。
研究期間前後の全患者数は44名から47名になった。ボード対象患者は前後とも同一患者9名で,ボード導入前,全員臥位から抱え上げて移乗していた。また,人力での抱え上げ移乗人数は19名から8名になり,そのうち2人介助は17名から6名になった。
【考察】
ボード導入前,ボード対象患者の方が非対象患者に比べ移乗業務における腰部負担が有意に高かったことから,臥位からの抱え上げ移乗は最も腰部負担のかかる業務の一つであったと考えられた。
また,全患者数やボード対象者にほぼ変化がないにも関わらず,ボード使用前後でボード対象患者の移乗業務における腰部負担が有意に減少し,非対象患者よりも有意に減少した。さらに感想には,「患者・介助者共に身体的に楽」とあり,ボードの使用は重度介護者を移乗する際の腰部負担が軽減することが示唆された。
しかし,移乗業務全体において,腰部負担の軽減はみられたものの有意差はみられなかった。これはボード対象患者の移乗業務における腰部負担は軽減したが,ボード非対象患者の移乗業務における腰部負担が残存したためと考える。
厚生労働省によると,腰痛予防対策として,移乗時の人力による人の抱え上げは原則禁止としている。そのため,病棟へのボードの導入を推奨すると共に,ボード非対象患者の中で残存している抱え上げ移乗患者を減少させることで,はじめて移乗業務全体の腰部負担が軽減すると考えられた。
感想には,「準備に手間はかかったがリフトよりは良い」とあり,リフトより使用のしやすさが伺われたが,「使用ができる車いすが限定される」との意見もあり,アームサポートが取れないなどの車いすがあった場合などのためにも,リフトとボードの併用が臨床上必要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
最も腰部負担のかかる業務の一つである臥位からの抱え上げ移乗に代わる方法として,今まで言及されていなかったボードを使用した方法が,臨床上有効であることを示唆した。