[0489] 脊椎圧迫骨折に対する保存療法とバルーン椎体形成術術後のADL変化の違いに関する調査
Keywords:脊椎圧迫骨折, BKP, 廃用症候群
【はじめに,目的】
本邦において,平成23年1月よりバルーン椎体形成術(balloon kyphoplasty:以下BKP)が保険適応として認可され,当院においてもその術式を実施している。BKPでは低侵襲でかつ早期からの除痛及び離床の効果が得られる事が利点として期待されている。そこで,当院において保存的加療により治療を進めた患者群とBKPを施行された患者群との経過比較を行い,今後の課題を検証したので報告する。本研究において1.離床までの期間が短縮されることで廃用症候群の予防が図れ,かつ早期退院が可能になるか。2.退院時FIM運動項目の数値は保存療法よりも向上した状態で退院が出来るか。この2点に着目し,これらを明らかにする事で今後の脊椎圧迫骨折に対する治療方針の一助となる事を目的とした。
【対象と方法】
2012年4月1日~2013年3月31日の間に当院に脊椎圧迫骨折の診断で入院し保存的加療の中で理学療法を施行した患者32名(以下,保存群)と2013年4月1日~同年10月31日までに脊椎圧迫骨折で入院されBKPを施行した8名(以下,BKP群)を対象とした。内訳は,保存群:男性6名,女性26名。平均年齢81.5歳±7.4歳。BKP群:男性1名,女性7名。平均年齢80.1歳±7.7歳であった。方法は,①在院日数②入院から離床までの日数③退院時FIM運動項目の群間比較を行った。統計学的処理にはMann-WhitneyのU検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。また,両群共にベッド上安静期間からゴムチューブを使用した体幹,下肢運動療法を週6日間実施し,出来る範囲での廃用症候群予防に努めた。
【倫理的配慮】
ヘルシンキ宣言及び当院倫理委員会規定に則り,患者から同意を得た上でデータ集計を行った。
【結果】
①在院日数:保存群52.2±30.5日,BKP群29.9±17.0日となり両群間に有意差を認めた(p=0.03)。②入院から離床までの日数:保存群12.8±12.0日,BKP群6.4±2.4日となり両群間に有意な傾向を認めた(p=0.09)。③退院時FIM運動項目:保存群38.5±20.0点,BKP群50.1±8.1点となり両群間に有意差を認めた(p=0.01)。
【考察】
従来の保存的加療では体幹装具を作成する事から始まり,少なくとも2週間のベッド上安静期間が必要である。また,脊椎圧迫骨折を受傷する患者は高齢者が多く,長期臥床により全身の廃用症候群の進行が最も懸念される項目である。今回,保存群に比べBKP群では在院日数・FIM運動項目に対して有意差が認められた。また,入院から離床までの日数は短縮される傾向にあった。この事から,BKPを施行する事により,受傷後早期離床が可能になる事で廃用症候群の予防が図れ,同時に「しているADL」であるFIM運動項目も向上すると考えられた。結果,入院日数が減少するという良好な流れを作り出す事が出来る可能性が示唆された。以上より,高齢者脊椎圧迫骨折においては従来の保存的加療による治療に比べ,BKPを施行する事で廃用症候群を予防できる可能性がある事を示唆している。反面,長期的に見るとBKPには合併症として隣接椎体の圧潰が認められることが報告されている。この際の理学療法頻度や内容に関しては定かではなく,早期離床・早期退院したことで入院生活中の廃用症候群が予防出来たとしても,十分な理学療法が行われない状況下での日常生活で隣接椎体にどのぐらいの影響が出現するかは今後調査が必要になると考えられる。また,当院においては保存療法の場合,受傷後3ヶ月間体幹装具を常時装着するよう指導をしているが,BKP術後に関しては明確な基準が設けてられていない。今後,体幹装具を外す時期に関しても検討の余地があると考えられ,同時にBKP術後早期退院に向けての理学療法プログラムを立案する事が重要であると考える
【理学療法学研究としての意義】
高齢者に対する脊椎圧迫骨折にBKPを施行する事によって,入院中の廃用症候群は最小限にとどめられる事が示唆され,治療方針の一助となり得る事が確認された。今後症例数を増やし,引き続き検討を進めていくことが高齢者に対するBKP術後の理学療法を展開していく上で重要であり,理学療法学研究としての意義があると考える。
本邦において,平成23年1月よりバルーン椎体形成術(balloon kyphoplasty:以下BKP)が保険適応として認可され,当院においてもその術式を実施している。BKPでは低侵襲でかつ早期からの除痛及び離床の効果が得られる事が利点として期待されている。そこで,当院において保存的加療により治療を進めた患者群とBKPを施行された患者群との経過比較を行い,今後の課題を検証したので報告する。本研究において1.離床までの期間が短縮されることで廃用症候群の予防が図れ,かつ早期退院が可能になるか。2.退院時FIM運動項目の数値は保存療法よりも向上した状態で退院が出来るか。この2点に着目し,これらを明らかにする事で今後の脊椎圧迫骨折に対する治療方針の一助となる事を目的とした。
【対象と方法】
2012年4月1日~2013年3月31日の間に当院に脊椎圧迫骨折の診断で入院し保存的加療の中で理学療法を施行した患者32名(以下,保存群)と2013年4月1日~同年10月31日までに脊椎圧迫骨折で入院されBKPを施行した8名(以下,BKP群)を対象とした。内訳は,保存群:男性6名,女性26名。平均年齢81.5歳±7.4歳。BKP群:男性1名,女性7名。平均年齢80.1歳±7.7歳であった。方法は,①在院日数②入院から離床までの日数③退院時FIM運動項目の群間比較を行った。統計学的処理にはMann-WhitneyのU検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。また,両群共にベッド上安静期間からゴムチューブを使用した体幹,下肢運動療法を週6日間実施し,出来る範囲での廃用症候群予防に努めた。
【倫理的配慮】
ヘルシンキ宣言及び当院倫理委員会規定に則り,患者から同意を得た上でデータ集計を行った。
【結果】
①在院日数:保存群52.2±30.5日,BKP群29.9±17.0日となり両群間に有意差を認めた(p=0.03)。②入院から離床までの日数:保存群12.8±12.0日,BKP群6.4±2.4日となり両群間に有意な傾向を認めた(p=0.09)。③退院時FIM運動項目:保存群38.5±20.0点,BKP群50.1±8.1点となり両群間に有意差を認めた(p=0.01)。
【考察】
従来の保存的加療では体幹装具を作成する事から始まり,少なくとも2週間のベッド上安静期間が必要である。また,脊椎圧迫骨折を受傷する患者は高齢者が多く,長期臥床により全身の廃用症候群の進行が最も懸念される項目である。今回,保存群に比べBKP群では在院日数・FIM運動項目に対して有意差が認められた。また,入院から離床までの日数は短縮される傾向にあった。この事から,BKPを施行する事により,受傷後早期離床が可能になる事で廃用症候群の予防が図れ,同時に「しているADL」であるFIM運動項目も向上すると考えられた。結果,入院日数が減少するという良好な流れを作り出す事が出来る可能性が示唆された。以上より,高齢者脊椎圧迫骨折においては従来の保存的加療による治療に比べ,BKPを施行する事で廃用症候群を予防できる可能性がある事を示唆している。反面,長期的に見るとBKPには合併症として隣接椎体の圧潰が認められることが報告されている。この際の理学療法頻度や内容に関しては定かではなく,早期離床・早期退院したことで入院生活中の廃用症候群が予防出来たとしても,十分な理学療法が行われない状況下での日常生活で隣接椎体にどのぐらいの影響が出現するかは今後調査が必要になると考えられる。また,当院においては保存療法の場合,受傷後3ヶ月間体幹装具を常時装着するよう指導をしているが,BKP術後に関しては明確な基準が設けてられていない。今後,体幹装具を外す時期に関しても検討の余地があると考えられ,同時にBKP術後早期退院に向けての理学療法プログラムを立案する事が重要であると考える
【理学療法学研究としての意義】
高齢者に対する脊椎圧迫骨折にBKPを施行する事によって,入院中の廃用症候群は最小限にとどめられる事が示唆され,治療方針の一助となり得る事が確認された。今後症例数を増やし,引き続き検討を進めていくことが高齢者に対するBKP術後の理学療法を展開していく上で重要であり,理学療法学研究としての意義があると考える。