[0491] 腰椎後弯症に対するPSO(pedicle subtraction osteotomy)の術後経過についての検討
キーワード:矢状面, アライメント, 骨切り術
【はじめに,目的】腰椎後弯症は,脊柱矢状面のアライメント異常によって,強い腰痛,間欠性跛行様の歩行障害,立位保持困難,呼吸障害,逆流性食道炎,外見上の問題などをきたす疾患である。従来保存療法が主体であったが,近年,保存療法では症状が改善しない場合に変形矯正固定手術が選択され,当施設ではその術式としてPSO(pedicle subtraction osteotomy)を施行している。椎体を楔状に短縮骨切りすることで30°程度の前弯矯正が期待でき,侵襲の大きさや合併症が少なくないが,手術手技の向上や高齢化に伴って症例数が増加している。一方,腰椎後弯症の術後経過について機能,能力の変化を論じた研究は少ない。今回,PSOにおける術後経過を調査し,その特徴について考察したので報告する。
【方法】2010年12月から2013年7月に,腰椎後弯症または腰椎後側弯症に対してPSOが施行され退院後の経過が観察できた8症例を対象とした。男性3名女性5名,平均年齢67.4±7.0歳,入院期間平均45±17日であった。骨切り部はL1が1名,L2が4名,L3が3名であり,固定範囲の上位はT9~T11,下位はL5が5名,S1が3名であった。全例,術前は手放しまたは杖歩行で自宅内ADLは自立しており,自宅退院していた。術前,退院時および最終観察時(3~24か月)の,立位X線側面像にて腰椎前弯角(第12胸椎椎体下縁と仙椎上縁のなす角),SVA(sagittal vertical axis:第7頸椎の垂線から仙骨後壁上縁までの距離),歩行時腰痛および下肢痛(VAS100mm法),膝関節伸展筋力および股関節外転筋力(microFETにて測定,左右の平均),開眼閉足立位重心の外周面積,単位軌跡長(アニマ社製重心動揺計GRAVICORDER GS-31Pにて測定),6分間歩行試験(6MD)を計測した。統計学的検討には一元配置分散分析(P<0.05)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の目的,発表時の匿名化について口頭にて説明し同意を得た。
【結果】腰椎前弯角は術前の-0.9±19.8°から退院時34.7±11.9°および最終観察時36.3±12.1°,SVAは術前の13.1±4.9cmから退院時8.1±5.7cmおよび最終観察時8.8±5.2cmとなっていた。歩行時腰痛は術前の平均68mmから退院時28mmおよび最終観察時25mm,歩行時下肢痛は術前の平均27mmから退院時40mmおよび最終観察時20mmとなり,腰痛は術後から有意に改善を示していたのに対し,下肢痛は術後一旦増悪していた。膝関節伸展筋力は術前の1.07±0.58Nm/Kgから退院時0.87±0.41Nm/Kgおよび最終観察時1.30±0.47Nm/Kgへ,股関節外転筋力は術前の0.88±0.39 Nm/Kgから退院時0.77±0.13 Nm/Kgおよび最終観察時0.99±0.31 Nm/Kgへ変化し,有意差はないものの両下肢筋力とも術後一旦低下していた。開眼閉足立位重心の外周面積は術前の9.5±12.8cm2から退院時8.4±6.7cm2および最終評価時5.2±4.4cm2へ,単位軌跡長は術前の2.3±1.6cmから,退院時2.8±1.6cmおよび2.0±1.2cmへ変化し,重心動揺の改善は術後早期には認められなかった。6MDは術前の257±189mから退院時256±105mおよび最終観察時367±111mへ有意差はないものの改善していた。
【考察】PSO施行により,腰椎後弯症の主訴とされる歩行時腰痛は術後から退院までに改善を示し最終観察時まで改善が維持されていたことから,痛みの改善は手術による早期からの効果と言える。一方,下肢筋力,下肢痛,バランスは術後に一旦低下もしくは増悪したものがその後改善し,最終観察時では術前に比べ向上を認めている。当術式は,固定範囲が広く侵襲が大きいこと,骨切り部であるL2またはL3領域の末梢神経障害を一時的にきたすことが知られており,これらの要因が本研究の症例においても術後から退院までの下肢機能やバランス低下に反映し,歩行能力の改善には至っていないものと考える。侵襲の大きい手術のため創部痛が術後は強いものの,アライメントの改善により本来の腰痛は術後比較的早期に先行して改善し,その後筋力,バランス機能,歩行能力などは退院後に向上することが示唆された。これらの要素の向上を目的に退院以後も継続してリハビリテーションを実施していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】腰椎後弯症に対するPSOにおける術後経過とその特徴について検証しアプローチ時の留意点を提示した。
【方法】2010年12月から2013年7月に,腰椎後弯症または腰椎後側弯症に対してPSOが施行され退院後の経過が観察できた8症例を対象とした。男性3名女性5名,平均年齢67.4±7.0歳,入院期間平均45±17日であった。骨切り部はL1が1名,L2が4名,L3が3名であり,固定範囲の上位はT9~T11,下位はL5が5名,S1が3名であった。全例,術前は手放しまたは杖歩行で自宅内ADLは自立しており,自宅退院していた。術前,退院時および最終観察時(3~24か月)の,立位X線側面像にて腰椎前弯角(第12胸椎椎体下縁と仙椎上縁のなす角),SVA(sagittal vertical axis:第7頸椎の垂線から仙骨後壁上縁までの距離),歩行時腰痛および下肢痛(VAS100mm法),膝関節伸展筋力および股関節外転筋力(microFETにて測定,左右の平均),開眼閉足立位重心の外周面積,単位軌跡長(アニマ社製重心動揺計GRAVICORDER GS-31Pにて測定),6分間歩行試験(6MD)を計測した。統計学的検討には一元配置分散分析(P<0.05)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の目的,発表時の匿名化について口頭にて説明し同意を得た。
【結果】腰椎前弯角は術前の-0.9±19.8°から退院時34.7±11.9°および最終観察時36.3±12.1°,SVAは術前の13.1±4.9cmから退院時8.1±5.7cmおよび最終観察時8.8±5.2cmとなっていた。歩行時腰痛は術前の平均68mmから退院時28mmおよび最終観察時25mm,歩行時下肢痛は術前の平均27mmから退院時40mmおよび最終観察時20mmとなり,腰痛は術後から有意に改善を示していたのに対し,下肢痛は術後一旦増悪していた。膝関節伸展筋力は術前の1.07±0.58Nm/Kgから退院時0.87±0.41Nm/Kgおよび最終観察時1.30±0.47Nm/Kgへ,股関節外転筋力は術前の0.88±0.39 Nm/Kgから退院時0.77±0.13 Nm/Kgおよび最終観察時0.99±0.31 Nm/Kgへ変化し,有意差はないものの両下肢筋力とも術後一旦低下していた。開眼閉足立位重心の外周面積は術前の9.5±12.8cm2から退院時8.4±6.7cm2および最終評価時5.2±4.4cm2へ,単位軌跡長は術前の2.3±1.6cmから,退院時2.8±1.6cmおよび2.0±1.2cmへ変化し,重心動揺の改善は術後早期には認められなかった。6MDは術前の257±189mから退院時256±105mおよび最終観察時367±111mへ有意差はないものの改善していた。
【考察】PSO施行により,腰椎後弯症の主訴とされる歩行時腰痛は術後から退院までに改善を示し最終観察時まで改善が維持されていたことから,痛みの改善は手術による早期からの効果と言える。一方,下肢筋力,下肢痛,バランスは術後に一旦低下もしくは増悪したものがその後改善し,最終観察時では術前に比べ向上を認めている。当術式は,固定範囲が広く侵襲が大きいこと,骨切り部であるL2またはL3領域の末梢神経障害を一時的にきたすことが知られており,これらの要因が本研究の症例においても術後から退院までの下肢機能やバランス低下に反映し,歩行能力の改善には至っていないものと考える。侵襲の大きい手術のため創部痛が術後は強いものの,アライメントの改善により本来の腰痛は術後比較的早期に先行して改善し,その後筋力,バランス機能,歩行能力などは退院後に向上することが示唆された。これらの要素の向上を目的に退院以後も継続してリハビリテーションを実施していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】腰椎後弯症に対するPSOにおける術後経過とその特徴について検証しアプローチ時の留意点を提示した。