第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節10

2014年5月30日(金) 15:20 〜 16:10 ポスター会場 (運動器)

座長:川上榮一(同愛記念病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0492] 人工股関節置換術後早期における動作能力の回復過程

西村純, 南角学, 西川徹, 柿木良介 (京都大学医学部附属病院リハビリテーション部)

キーワード:人工股関節置換術, 動作能力, 階段

【目的】人工股関節置換術(以下,THA)後は,下肢筋力の回復過程に応じて,日常生活動作(以下,ADL)を獲得するためのリハビリテーションプログラムが作成される。近年,THA術後では入院期間の短縮のため,退院時には下肢筋力が十分に改善していないことが報告されている。筋力回復が十分得られていない術後早期に,無理にADL動作を獲得しようとすると,転倒や脱臼のリスクが増加するとともに,人工股関節に過度な負荷を与えることになる。そのため,THA術後早期における適切な動作の獲得には,下肢筋力とともに動作能力の回復過程を明確にする必要がある。しかし,THA術後早期の下肢筋力や歩行能力の回復過程を調査した報告は多いが,立ち上がりや階段昇降などの動作能力を定量的に評価した報告は見当たらない。そこで,本研究の目的は,THA術後早期における動作能力の回復過程を明らかとすることとした。
【方法】対象はTHAを施行された33名(男性2名,女性31名,年齢:62.6±10.1歳,BMI:21.5±2.6kg/m2)とした。全例,術後のリハビリテーションは当院のプロトコールにて行い,術後4週で退院となった。測定項目は,下肢筋力,歩行能力,動作能力,歩行時の痛みとし,測定時期は術前,術後4週,術後8週とした。下肢筋力は膝関節伸展筋力および脚伸展筋力を測定し,歩行能力はTimed up and go test(以下,TUG)を測定した。動作能力の評価として5回立ち座りテスト,階段昇降テストを用いた。歩行時の痛みの評価にはVisual Analog Scale(以下,VAS)を用いた。膝関節伸展筋力,脚伸展筋力の測定にはIsoforce GT-330(OG技研社製)を用い,等尺性最大筋力を測定した。膝関節伸展筋力はトルク体重比(Nm/kg),脚伸展筋力は体重比(N/kg)を算出した。5回立ち座りテストは,40cmの椅子を用い,できるだけ速く5回立ち座り動作を反復した時間を測定した。階段昇降テストは12cmの階段5段を用い,できるだけ速く昇降した時間を測定した。統計は,各時期における測定項目の比較にFriedman検定およびScheffe法による多重比較検定を用い,統計学的有意基準を5%未満とした。
【説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,各対象者には本研究の主旨ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加の同意を得て実施した。
【結果】膝関節伸展筋力は,術前1.35±0.52Nm/kg,術後4週1.07±0.45 Nm/kg,術後8週1.39±0.46 Nm/kgであり,脚伸展筋力は,術前7.43±4.25 N/kg,術後4週4.72±2.29 N/kg,術後8週6.47±2.21 N/kgであった。膝関節伸展筋力と脚伸展筋力は,術後4週では術前および術後8週と比較して最も低い値を示し,術前と術後8週では同等であった。TUG(術前:9.7±3.6秒,術後4週:9.9±2.4秒,術後8週:8.4±1.8秒)と5回立ち座りテスト(術前:10.6±3.6秒,術後4週:10.5±2.2秒,術後8週:9.3±2.2秒)については,術後8週では術前および術後4週と比べて有意に低い値を示し,術後8週では術前よりも動作能力の向上を認めた。階段昇降テストでは,術前7.9±3.1秒,術後4週9.4±2.8秒,術後8週7.8±2.9秒であり,術前と術後8週と比較して術後4週に最も大きい値を示し,術前と術後8週では同等であった。歩行時のVASは,術後4週(1.5±1.7)および術後8週(0.8±1.4)は術前(3.7±2.7)と比べ,有意に低い値を示した。
【考察】本研究の結果から,THA術後の歩行能力や立ち上がり能力は,術後4週には術前と同程度まで回復し,術後8週では術前よりも有意に改善することが明らかとなった。一方,下肢筋力と階段昇降能力は,術後4週に最も低く,術後8週を経過した時点においても術前レベルまでしか回復しておらず,THA術後早期における階段昇降能力の回復は歩行能力や立ち上がり能力に比べて遅いことが明らかとなった。THA術後において筋力が十分に回復していない症例では,階段昇降時に人工股関節への負荷が大きくなることが報告されている。以上より,THA術後において,階段昇降の練習は筋力の回復過程に応じて実施することが重要となることが示唆され,ADL指導の一助となると考えられた。
【理学療法研究としての意義】本研究の結果は,THA術後患者において,下肢筋力の回復過程に応じたトレーニングメニューの作成やADL指導を適切に行うための有益な情報となり,理学療法研究として意義あるものであると考えられる。