[0498] Gait Efficacy Scaleと入院患者の運動機能・日常生活活動の関連について
キーワード:歩行, 自己効力感, 日常生活活動
【はじめに,目的】
現在までの研究論文では歩行パフォーマンス評価に対する研究,カットオフ値などが算出されてきた。しかし,その一方で転倒に対する自己効力感などの報告も多数されており,この自己効力感が歩行指標の変数やActivities of Daily Living(以下ADL)能力の低下,転倒の発生に影響を与えるとされている。自立した日常生活を維持する要因のなかで歩行能力の重要度は大きい。理学療法領域にて歩行速度,歩幅,歩容などの改善に加えて,歩行に対する自己効力感を正確に把握することは重要な評価のひとつになりうる。牧迫らにより,高齢者における歩行状態の自信の程度を把握する指標として,Gait Efficacy Scale(以下GES)が良好な信頼性および妥当性を有する評価であると報告されている。しかし,先行研究での対象は地域在住高齢者であり,入院患者に対するGESの研究報告はない。本研究の目的は,回復期入院患者のGESと運動機能,ADLとの関係について検討することとした。
【方法】
対象は当院回復期病棟入院中の脳卒中患者32名(年齢63±25歳,男性25名,女性7名,発症からの期間39.5±29.5日,Mini-Mental State Examination(以下MMSE)19点±11点)であり,評価項目はGES,下肢Brunnstrom Stage(以下BS),10m歩行快適速度(以下10mCWS),10m歩行最大速度(以下10mMWS),Timed Up and Go test(以下TUG),Functional Balance Scale(以下FBS),等尺性膝伸展筋力,Ability for Basic Movement Scale(以下ABMS),Barthel Index(以下BI),modified Rankin Scale(以下mRs)とした。本研究では入院患者のGESがADLを評価するうえで,有効な評価であるか否かを検討することが目的であり,mRsの定義によるとgrade3とgrade4では日常生活における歩行の介助の有無が大きな違いである為,ROC曲線を作図し,感度,特異度より,grade3とgrade4を判別するGESのカットオフ値を算出した。各変数の関係はPearsonおよびSpearmanの相関を用いた。解析はSPSS17.0jForWindowsを用い,5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり,全て匿名化された既存データのみで検討を行った。
【結果】
上記評価項目のなかで,GESと相関が認められたものはBS,ABMS,FBS,BI,mRs,TUG(r=.412~.617)であり,さらに重回帰分析を用いて検討したところ,最も関連の強い評価項目はmRsであった(R2=0.192)。mRs-grade3とgrade4を判断するGESのカットオフ値はROC曲線を作図したところ37.5点と算出された。感度53.3%,特異度100%,曲線下面積。800であった。つまり,GESが37.5点未満であると,mRs-gradeは4以上であることが示唆されている。また,mRs-grade0~3群とgrade4~6群で分け,各評価項目点数をMann-Whitney検定にて比較・検討したところ差が出たものはBS,ABMS,FBS,BI,GES,10mMWS,TUGであった。
【考察】
本研究開始時の推察ではGESと歩行評価との関連が深いと考えたが,結果より,GESとの相関が認められたのはBS,ABMS,FBS,BI,mRs,TUGであり,歩行速度との関連は薄い。さらに,重回帰分析結果より,GESとの関連が最も強い評価はmRsであるため,GES向上とADL向上は関係性が強いと考えられる。mRs-grade3とgrade4の大きな違いは日常生活での歩行の介助の有無であり,mRs-grade3とgrade4を判定するGESカットオフ値は37.5点と算出されている。この値はmRs-gradeの判定基準だけでなく,入院患者の日常生活での歩行の介助の有無を判定するにあたり,有効な指標になるのではないかと考える。また,mRs-grade0~3群,grade4~6群に分けMann-Whitney検定にて,日常生活の中で歩行自立に達するには運動機能向上は必須であり,さらにADL向上には,GES向上が必要であることが示唆されている。つまりADLには運動機能・GESの2つの点が関連していると言える。やはり,運動機能面だけでなく自身の自己効力感もADLには必要であり,介入するセラピストは自己効力感に対しても評価・検討が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
GESを入院患者に対し検討することで,ADLとの相関が最も大きく,理学療法評価を行う際運動機能面だけでなく,自己効力感など別の視点からの介入も必要であることが示唆された。
現在までの研究論文では歩行パフォーマンス評価に対する研究,カットオフ値などが算出されてきた。しかし,その一方で転倒に対する自己効力感などの報告も多数されており,この自己効力感が歩行指標の変数やActivities of Daily Living(以下ADL)能力の低下,転倒の発生に影響を与えるとされている。自立した日常生活を維持する要因のなかで歩行能力の重要度は大きい。理学療法領域にて歩行速度,歩幅,歩容などの改善に加えて,歩行に対する自己効力感を正確に把握することは重要な評価のひとつになりうる。牧迫らにより,高齢者における歩行状態の自信の程度を把握する指標として,Gait Efficacy Scale(以下GES)が良好な信頼性および妥当性を有する評価であると報告されている。しかし,先行研究での対象は地域在住高齢者であり,入院患者に対するGESの研究報告はない。本研究の目的は,回復期入院患者のGESと運動機能,ADLとの関係について検討することとした。
【方法】
対象は当院回復期病棟入院中の脳卒中患者32名(年齢63±25歳,男性25名,女性7名,発症からの期間39.5±29.5日,Mini-Mental State Examination(以下MMSE)19点±11点)であり,評価項目はGES,下肢Brunnstrom Stage(以下BS),10m歩行快適速度(以下10mCWS),10m歩行最大速度(以下10mMWS),Timed Up and Go test(以下TUG),Functional Balance Scale(以下FBS),等尺性膝伸展筋力,Ability for Basic Movement Scale(以下ABMS),Barthel Index(以下BI),modified Rankin Scale(以下mRs)とした。本研究では入院患者のGESがADLを評価するうえで,有効な評価であるか否かを検討することが目的であり,mRsの定義によるとgrade3とgrade4では日常生活における歩行の介助の有無が大きな違いである為,ROC曲線を作図し,感度,特異度より,grade3とgrade4を判別するGESのカットオフ値を算出した。各変数の関係はPearsonおよびSpearmanの相関を用いた。解析はSPSS17.0jForWindowsを用い,5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院リハビリテーション科における標準的評価のデータベースからの解析であり,全て匿名化された既存データのみで検討を行った。
【結果】
上記評価項目のなかで,GESと相関が認められたものはBS,ABMS,FBS,BI,mRs,TUG(r=.412~.617)であり,さらに重回帰分析を用いて検討したところ,最も関連の強い評価項目はmRsであった(R2=0.192)。mRs-grade3とgrade4を判断するGESのカットオフ値はROC曲線を作図したところ37.5点と算出された。感度53.3%,特異度100%,曲線下面積。800であった。つまり,GESが37.5点未満であると,mRs-gradeは4以上であることが示唆されている。また,mRs-grade0~3群とgrade4~6群で分け,各評価項目点数をMann-Whitney検定にて比較・検討したところ差が出たものはBS,ABMS,FBS,BI,GES,10mMWS,TUGであった。
【考察】
本研究開始時の推察ではGESと歩行評価との関連が深いと考えたが,結果より,GESとの相関が認められたのはBS,ABMS,FBS,BI,mRs,TUGであり,歩行速度との関連は薄い。さらに,重回帰分析結果より,GESとの関連が最も強い評価はmRsであるため,GES向上とADL向上は関係性が強いと考えられる。mRs-grade3とgrade4の大きな違いは日常生活での歩行の介助の有無であり,mRs-grade3とgrade4を判定するGESカットオフ値は37.5点と算出されている。この値はmRs-gradeの判定基準だけでなく,入院患者の日常生活での歩行の介助の有無を判定するにあたり,有効な指標になるのではないかと考える。また,mRs-grade0~3群,grade4~6群に分けMann-Whitney検定にて,日常生活の中で歩行自立に達するには運動機能向上は必須であり,さらにADL向上には,GES向上が必要であることが示唆されている。つまりADLには運動機能・GESの2つの点が関連していると言える。やはり,運動機能面だけでなく自身の自己効力感もADLには必要であり,介入するセラピストは自己効力感に対しても評価・検討が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
GESを入院患者に対し検討することで,ADLとの相関が最も大きく,理学療法評価を行う際運動機能面だけでなく,自己効力感など別の視点からの介入も必要であることが示唆された。