[0503] 脳卒中片麻痺歩行における麻痺側荷重の違いが脳活動に及ぼす影響
キーワード:片麻痺歩行, 麻痺側荷重, fNIRS
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者の立位姿勢および歩行は非対称性を特徴とする。そのため一般的に歩行練習は,麻痺側への左右対称的な荷重を促すことで感覚入力による運動学習や下肢筋力の向上などに繋げ,対称的な歩行パターン獲得を目指している。しかし,脳卒中片麻痺患者の立位姿勢は,麻痺側の重心管理能力低下を非麻痺側(以下,健側)で補うことで姿勢制御を容易にしていることで知られている(長谷,2006)。また,歩行においても同様のことが考えられ,麻痺側と健側の荷重割合に留意することが重要であると思われる。我々は,歩行時の健側下肢機能を重要と考え,健側を中心とした歩行指導(以下,健側優位歩行)を行うことで,歩行速度が増し,身体(肩・骨盤)の側方変位が減少することを報告してきた(上間,2011)。本研究では,機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて片麻痺患者に対し麻痺側荷重を考慮した状況下で歩行指導が脳血流酸素動態に及ぼす影響について検討した。
【方法】
対象は,脳卒中片麻痺患者6名(男性4名,女性2名,平均年齢55.3±11.5歳。脳出血3名,脳梗塞3名。平均罹病期間33.3±23.9ヶ月。右片麻痺3名,左片麻痺3名,下肢Brunnstrome satageは,IVが5名,Vが1名)である。対象の選択条件は,短下肢装具とT字杖を使用して監視レベル以上で歩行が可能なものとした。なお骨関節疾患や重度の高次脳機能障害,重度の感覚障害,小脳症状を有するものは除外した。歩行様式は,健側優位歩行(健側下肢を基準とし健側および麻痺側立脚期に頭部・体幹の動揺が少ない歩行)と麻痺側歩行(健側と麻痺側を同程度に荷重:対称性歩行)とした。実験デザインは,安静30秒→歩行30秒→安静30秒を1セットとし,3セット施行した。歩行速度は,C-MILL-K(ForceLink社製)のトレッドミルを用い2km/hとした。脳血流酸素動態は,fNIRS(FOIRE-3000,島津製作所社製)を用いて測定した。チャンネルは,3cm間隔に配置されたプローブの間に位置した24個の送受光プローブで,両側半球で合計37チャンネルを作成した。プローブ位置は脳波における国際10-20法に基づきCzを基準として上下肢の運動野を中心に設定した。解析には,酸素化ヘモグロビン(以下,Oxy-Hb)値を用い2つの条件における各チャンネルのOxy-Hb値の測定開始時の値を0とした時の相対的な変化量(mM・mm)の平均値を算出し比較した。統計学的解析は,統計ソフト(PASW Statistics 18.0 for Macintosh)を用い,Wilcoxonの符号順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,臨床研究倫理審査委員会の承認を得たうえで,全ての対象者に研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
病巣側半球では,2群間で有意差はみられなかったものの健側優位歩行が麻痺側歩行に比べ,下肢の一次運動野領域においてOxy-Hb値の増加がみられた。また,麻痺側歩行では健側優位歩行と比べ,上肢・手指の一次運動野領域においてOxy-Hb値の増加がみられた。非病巣側半球では,健側優位歩行と麻痺側歩行において有意な差はみられなかった。
【考察】
病巣側半球において健側優位歩行は,麻痺側歩行と比べて,麻痺側の荷重を制限した歩行にも関わらず,下肢の一次運動野領域でOxy-Hb値の増加がみられた。麻痺側歩行は,健側優位歩行と比べて,左右対称的な荷重を求めた結果,上肢・手指の一次運動野領域でOxy-Hb値の増加がみられた。脳卒中患者の歩行時の脳活動は健常者と比較し左右差があり,歩行機能の改善に伴って左右差が改善する傾向があるとされている。さらに,一次感覚運動野の賦活の左右差は,下肢の遊脚期の左右差と相関していたと報告がある(Miyai,2003)。本研究の結果から,健側優位歩行は病巣側の下肢の一次運動野のOxy-Hb値の増加がみられたことは,麻痺側下肢の遊脚期の変化と考えられ,脳賦活への影響があると考えられる。一方,麻痺側歩行における上肢・手指の一次運動野のOxy-Hb値の増加は連合反応や共同運動の惹起を反映した可能性がある。今後は,症例数の蓄積を図るとともに運動学的視点や麻痺の程度による脳活動の差の検討等を研究していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者へ健側優位歩行を指導することで,病巣側半球での下肢運動野領域の賦活が実証されれば,脳活動および歩行効率を向上させる麻痺側荷重を考慮した新しい指導法として期待できると考えられる。
脳卒中片麻痺患者の立位姿勢および歩行は非対称性を特徴とする。そのため一般的に歩行練習は,麻痺側への左右対称的な荷重を促すことで感覚入力による運動学習や下肢筋力の向上などに繋げ,対称的な歩行パターン獲得を目指している。しかし,脳卒中片麻痺患者の立位姿勢は,麻痺側の重心管理能力低下を非麻痺側(以下,健側)で補うことで姿勢制御を容易にしていることで知られている(長谷,2006)。また,歩行においても同様のことが考えられ,麻痺側と健側の荷重割合に留意することが重要であると思われる。我々は,歩行時の健側下肢機能を重要と考え,健側を中心とした歩行指導(以下,健側優位歩行)を行うことで,歩行速度が増し,身体(肩・骨盤)の側方変位が減少することを報告してきた(上間,2011)。本研究では,機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて片麻痺患者に対し麻痺側荷重を考慮した状況下で歩行指導が脳血流酸素動態に及ぼす影響について検討した。
【方法】
対象は,脳卒中片麻痺患者6名(男性4名,女性2名,平均年齢55.3±11.5歳。脳出血3名,脳梗塞3名。平均罹病期間33.3±23.9ヶ月。右片麻痺3名,左片麻痺3名,下肢Brunnstrome satageは,IVが5名,Vが1名)である。対象の選択条件は,短下肢装具とT字杖を使用して監視レベル以上で歩行が可能なものとした。なお骨関節疾患や重度の高次脳機能障害,重度の感覚障害,小脳症状を有するものは除外した。歩行様式は,健側優位歩行(健側下肢を基準とし健側および麻痺側立脚期に頭部・体幹の動揺が少ない歩行)と麻痺側歩行(健側と麻痺側を同程度に荷重:対称性歩行)とした。実験デザインは,安静30秒→歩行30秒→安静30秒を1セットとし,3セット施行した。歩行速度は,C-MILL-K(ForceLink社製)のトレッドミルを用い2km/hとした。脳血流酸素動態は,fNIRS(FOIRE-3000,島津製作所社製)を用いて測定した。チャンネルは,3cm間隔に配置されたプローブの間に位置した24個の送受光プローブで,両側半球で合計37チャンネルを作成した。プローブ位置は脳波における国際10-20法に基づきCzを基準として上下肢の運動野を中心に設定した。解析には,酸素化ヘモグロビン(以下,Oxy-Hb)値を用い2つの条件における各チャンネルのOxy-Hb値の測定開始時の値を0とした時の相対的な変化量(mM・mm)の平均値を算出し比較した。統計学的解析は,統計ソフト(PASW Statistics 18.0 for Macintosh)を用い,Wilcoxonの符号順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,臨床研究倫理審査委員会の承認を得たうえで,全ての対象者に研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
病巣側半球では,2群間で有意差はみられなかったものの健側優位歩行が麻痺側歩行に比べ,下肢の一次運動野領域においてOxy-Hb値の増加がみられた。また,麻痺側歩行では健側優位歩行と比べ,上肢・手指の一次運動野領域においてOxy-Hb値の増加がみられた。非病巣側半球では,健側優位歩行と麻痺側歩行において有意な差はみられなかった。
【考察】
病巣側半球において健側優位歩行は,麻痺側歩行と比べて,麻痺側の荷重を制限した歩行にも関わらず,下肢の一次運動野領域でOxy-Hb値の増加がみられた。麻痺側歩行は,健側優位歩行と比べて,左右対称的な荷重を求めた結果,上肢・手指の一次運動野領域でOxy-Hb値の増加がみられた。脳卒中患者の歩行時の脳活動は健常者と比較し左右差があり,歩行機能の改善に伴って左右差が改善する傾向があるとされている。さらに,一次感覚運動野の賦活の左右差は,下肢の遊脚期の左右差と相関していたと報告がある(Miyai,2003)。本研究の結果から,健側優位歩行は病巣側の下肢の一次運動野のOxy-Hb値の増加がみられたことは,麻痺側下肢の遊脚期の変化と考えられ,脳賦活への影響があると考えられる。一方,麻痺側歩行における上肢・手指の一次運動野のOxy-Hb値の増加は連合反応や共同運動の惹起を反映した可能性がある。今後は,症例数の蓄積を図るとともに運動学的視点や麻痺の程度による脳活動の差の検討等を研究していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者へ健側優位歩行を指導することで,病巣側半球での下肢運動野領域の賦活が実証されれば,脳活動および歩行効率を向上させる麻痺側荷重を考慮した新しい指導法として期待できると考えられる。