第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法10

Fri. May 30, 2014 3:20 PM - 4:10 PM ポスター会場 (神経)

座長:平山昌男(兵庫県社会福祉事業団あわじ荘)

神経 ポスター

[0507] 慢性期脳卒中患者への短期理学療法と手指運動領域への低頻度rTMSが下肢機能に与える影響と歩行速度変化に影響を及ぼす介入前機能因子の検討

中村高良1, 平野和宏1, 安保雅博2 (1.東京慈恵会医科大学葛飾医療センターリハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

Keywords:脳卒中, 経頭蓋磁気刺激, 歩行速度

【はじめに,目的】脳卒中後上肢片麻痺患者に対する,低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcanial magnetic stimulation以下rTMS)は,脳卒中後の機能回復が発症後6か月以内という定説を覆す一つの方法として,近年報告が増加している。当科においても集中的作業療法(以下OT)を併用したプログラムを考案し,上肢機能が有意に改善することが示され,現在まで多くの患者に提供している。下肢機能についても有効性を報告しているものがいくつかあるが,介入前の機能が介入後の機能改善に影響を及ぼすかを検討した報告は認められない。そこで,慢性期脳卒中患者(以下慢性期患者)に対し,当科におけるrTMSとOTに加えて短期理学療法を行い,下肢機能に与える影響の検討と,介入前の機能が介入後の歩行速度改善に影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は,当院でrTMS治療の適応と判断され入院加療した脳卒中後片麻痺患者134名(男性96名,女性38名,平均年齢64.8±11.8歳)である。診断名は脳梗塞72例,脳出血58例,その他4例であり,治療開始までの罹患期間は145.5±121.9ヶ月であった。当科プロトコールに沿って,13日間の入院中,休日を除いた日にrTMS照射と午前午後のOT及び理学療法を行い,患者のニーズに合わせ歩行や下肢機能向上へ向けた介入を行った。評価項目は下肢のBrunnstorom recovery stage test(以下BRST),麻痺側・非麻痺側の足関節背屈関節可動域(以下ROMT),麻痺側下腿三頭筋のmodified Ashworth scale(以下mAs),Functional Reach Test(以下FRT),10M最大歩行速度(Maximum Walking Speed以下MWS)と歩数,Timed Up&Go test(以下TUG)の8項目を介入前後で測定した。
統計解析は,各評価項目の介入前後変化について対応のあるt検定を行った。また介入前の機能が歩行能力の改善可否に影響を及ぼすのか検討するために,介入前後におけるMWS改善の可否を目的変数とし,年齢,罹患期間と介入前の評価項目としてBRST,麻痺側ROMT,非麻痺側ROMT,mAs,FRT,TUGの8項目を説明変数とした尤度比による変数減少法でのロジスティック回帰分析を行い,有意な変数として抽出された項目については,オッズ比(odds ratio:以下OR)を算出した。尚,統計はSPSSver.20を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本大学倫理委員会の承認を得て「臨床研究に関する倫理指針」に遵守して実施した。
【結果】今回の介入前後の結果を以下に示す。BRSTは4.48±0.93から4.54±0.96,麻痺側ROMTは8.62±8.44度から10.22±7.48度,非麻痺側ROMTは16.64±6.68度から17.46±6.74度,mAsは1.46±1.07から1.26±1.0,FRTは28.75±7.57cmから30.99±7.09cm,MWSは0.88±0.36m/secから0.94±0.37m/sec,歩数は22.83±7.83歩から22.06±7.75歩,TUGは17.62±10.03secから16.35±9.91secと変化し,いずれも有意差を認めた。(BRST:p<0.01,非麻痺側ROMT:p<0.05,麻痺側ROMT,mAs,FRT,MWS,TUG:p<0.001)
MWS改善群は98名であった。ロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はp<0.01で有意であり,判別的中率は73.3%であった。得られた変数はBRSTのみであり,ORは1.93,95%信頼区間は1.22-3.05であった。
【考察】rTMSと集中的理学療法の先行研究では,当科と同様のプロトコールにおいてMWSと歩数の改善が認めなかったとの報告があるが,今回の結果ではすべての評価結果で改善が認められ,特に機能的な評価項目よりも歩行などの動作能力の改善が大きく認められた。これは対象者が慢性期である点と本プロトコールは短期間であるため,機能的な要素より,自宅生活で生じた廃用の改善が大きく影響しているものと考える。同時にrTMSの刺激部位が健側大脳運動野の手指部位であるにも拘らず,下肢領域への促通を促した可能性が考えられる。rTMSと短期理学療法のそれぞれの効果に関しては,今後比較検討する必要があるが,脳卒中後の機能回復が発症後6か月以内とされている中,当科のプロトコールは有効なものであると考える。
歩行速度の改善因子は,罹患期間や年齢などの背景因子は関係なく,介入時のBRSTのみ関連を示した。BRSTが高い方がより多様性のある対応が出来るため,廃用の改善も含めて今回の影響因子となったと考える。また年齢や罹患期間等の背景因子やBRST以外の評価項目との関連は認めなかったことより,当科プロトコールが幅広い多くの慢性期患者に適応がある結果であるとも考えられる。
【理学療法学研究としての意義】慢性期脳卒中患者において,当科のプロトコールは幅広い対象患者への効果が示され,歩行改善に影響を及ぼす介入前機能因子としてはBRSTのみ抽出された。これらの結果は,慢性期の脳卒中患者の理学療法研究として意義があると考える。