[0508] 消化器外科術後における離床アプローチ標準化への試み
キーワード:周術期, 早期離床, プロトコール
【はじめに,目的】
周術期外科疾患において,術後の早期離床は様々な合併症を予防し,回復力を強化・促進するうえで重要である。その中で我々理学療法士(以下,PT)は,術後リスクを管理し,症例の苦痛を緩和しながら早期に離床させていく必要と役割があると考える。しかし,比較的臨床経験の浅いセラピストの中には術後“何を基準に,どのような手順で”離床を進めるべきか,困惑している者も少なくない。また,刻々と変動する各種パラメーターや術直後多数のドレーンを挿入され,体動とともに惹起される疼痛,苦悶表情を見せる症例を前に,結果的に離床を遅延させてしまう者もいるのではなだろうか。そこで当院では,2012年11月よりPTにおける術後の離床アプローチ手順を標準化するとともに,更なる質の向上(安全に活動する)をも目標に,術後PT離床プロトコールおよび離床手順フローチャートを外科医師の承認のもと作成し運用を開始した。この離床プロトコール・フローチャートには各種パラメータにおける上下限値や手術前後のオリエンテーション内容,離床手順等を記載しており,一定の標準化された離床アプローチが理解・実施しやすいよう配慮し作成したものである。
本研究の目的は,当院で運用している周術期管理における術後PT離床プロトコールおよび離床手順フローチャート導入の効果を検証することである。
【方法】
調査期間は2012年11月の導入月を境に前後1年間とした。対象は当院消化器外科にて,何らかの待機手術を施術され,PTが介入した231症例とし,入院中の死亡例,術前に歩行不可能もしくは著しく介助を要する例,重度の認知機能障害等によりPTアプローチの進行に障害をきたす症例を除外した。方法は,プロトコール導入前後における,各術後入院期間,術後合併症発生率:せん妄(DSM-IVを参考)・呼吸器関連疾患・その他の有無,術後離床(座位・歩行)開始期間,初回歩行開始時の総歩行距離,退院時ADL(BI利得率),転帰を比較した。統計学的手法としてMann-Whitney U検定,χ2乗検定を用い,統計解析ソフトSPSSにて検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言を遵守し,患者個人が特定されないよう匿名化し,当院研究規定に準じた手続きを経て,診療録を後方視的に調査した。
【結果】
該当症例は導入前124例,導入後87例であった。患者個人の術前状況(性別,年齢,既往,生活場所等)や手術侵襲因子(術時間,出血量,切開範囲),術後PT介入開始時期に有意差を認めなかった(p>0.05)。術後入院期間(前14.4日,後12.9日)や術後呼吸器合併症発生率(前4%,後5%),BI利得率(前95%,後95%)に有意差を認められなかったものの,術後PT介入から坐位開始(前0.21日,後0.11日:p=0.032),術後PT介入から歩行開始(前0.64日,後0.38日:p=0.001),歩行開始時総歩行距離(前122.7m,後187.7m:p=0.009)に有意差を認めた。更に合併症として,術後せん妄の有無において前17.7%,後8%と導入後の発生率に有意な低下を認めた(p=0.044 odds ratio 0.406 95%CI 0.165-0.997)。
【考察】
先にも述べたように,術後の早期離床は身体の回復力を強化・促進するうえで必要不可欠である。今回のプロトコール導入効果として,全般的な離床の促進,術後活動量増加が確認できた。この要因としては作成目標である,リスク管理を主とした質の向上と手技の標準化により,術後の不安定な時期であっても,許可範囲内で的確な離床アプローチが実施された結果と考えられる。また,これらが好転したためか,術後せん妄発生率にも改善を認める結果となっており,先行文献同様,早期離床・昼間の活動量増加が睡眠と覚醒のリズム調整に関与し,その効果としてあらわれたものと考える。これらのことを踏まえ,今回当院にて導入した離床プロトコール及びフローチャートは,アプローチの標準化と質の向上に対し一定の効果を示し,その有効性が示唆されたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
毎年多くの理学療法士が誕生する現状において,アプローチの標準化と質の向上を追求していかなければ我々の存在意義は失われる。本研究において離床の早期化だけでなく,これに付随する効果が示せたことは,我々の介入価値を証明していくうえでも,非常に有意義な事であると思われる。
周術期外科疾患において,術後の早期離床は様々な合併症を予防し,回復力を強化・促進するうえで重要である。その中で我々理学療法士(以下,PT)は,術後リスクを管理し,症例の苦痛を緩和しながら早期に離床させていく必要と役割があると考える。しかし,比較的臨床経験の浅いセラピストの中には術後“何を基準に,どのような手順で”離床を進めるべきか,困惑している者も少なくない。また,刻々と変動する各種パラメーターや術直後多数のドレーンを挿入され,体動とともに惹起される疼痛,苦悶表情を見せる症例を前に,結果的に離床を遅延させてしまう者もいるのではなだろうか。そこで当院では,2012年11月よりPTにおける術後の離床アプローチ手順を標準化するとともに,更なる質の向上(安全に活動する)をも目標に,術後PT離床プロトコールおよび離床手順フローチャートを外科医師の承認のもと作成し運用を開始した。この離床プロトコール・フローチャートには各種パラメータにおける上下限値や手術前後のオリエンテーション内容,離床手順等を記載しており,一定の標準化された離床アプローチが理解・実施しやすいよう配慮し作成したものである。
本研究の目的は,当院で運用している周術期管理における術後PT離床プロトコールおよび離床手順フローチャート導入の効果を検証することである。
【方法】
調査期間は2012年11月の導入月を境に前後1年間とした。対象は当院消化器外科にて,何らかの待機手術を施術され,PTが介入した231症例とし,入院中の死亡例,術前に歩行不可能もしくは著しく介助を要する例,重度の認知機能障害等によりPTアプローチの進行に障害をきたす症例を除外した。方法は,プロトコール導入前後における,各術後入院期間,術後合併症発生率:せん妄(DSM-IVを参考)・呼吸器関連疾患・その他の有無,術後離床(座位・歩行)開始期間,初回歩行開始時の総歩行距離,退院時ADL(BI利得率),転帰を比較した。統計学的手法としてMann-Whitney U検定,χ2乗検定を用い,統計解析ソフトSPSSにて検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言を遵守し,患者個人が特定されないよう匿名化し,当院研究規定に準じた手続きを経て,診療録を後方視的に調査した。
【結果】
該当症例は導入前124例,導入後87例であった。患者個人の術前状況(性別,年齢,既往,生活場所等)や手術侵襲因子(術時間,出血量,切開範囲),術後PT介入開始時期に有意差を認めなかった(p>0.05)。術後入院期間(前14.4日,後12.9日)や術後呼吸器合併症発生率(前4%,後5%),BI利得率(前95%,後95%)に有意差を認められなかったものの,術後PT介入から坐位開始(前0.21日,後0.11日:p=0.032),術後PT介入から歩行開始(前0.64日,後0.38日:p=0.001),歩行開始時総歩行距離(前122.7m,後187.7m:p=0.009)に有意差を認めた。更に合併症として,術後せん妄の有無において前17.7%,後8%と導入後の発生率に有意な低下を認めた(p=0.044 odds ratio 0.406 95%CI 0.165-0.997)。
【考察】
先にも述べたように,術後の早期離床は身体の回復力を強化・促進するうえで必要不可欠である。今回のプロトコール導入効果として,全般的な離床の促進,術後活動量増加が確認できた。この要因としては作成目標である,リスク管理を主とした質の向上と手技の標準化により,術後の不安定な時期であっても,許可範囲内で的確な離床アプローチが実施された結果と考えられる。また,これらが好転したためか,術後せん妄発生率にも改善を認める結果となっており,先行文献同様,早期離床・昼間の活動量増加が睡眠と覚醒のリズム調整に関与し,その効果としてあらわれたものと考える。これらのことを踏まえ,今回当院にて導入した離床プロトコール及びフローチャートは,アプローチの標準化と質の向上に対し一定の効果を示し,その有効性が示唆されたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
毎年多くの理学療法士が誕生する現状において,アプローチの標準化と質の向上を追求していかなければ我々の存在意義は失われる。本研究において離床の早期化だけでなく,これに付随する効果が示せたことは,我々の介入価値を証明していくうえでも,非常に有意義な事であると思われる。