[0510] 消化器外科手術患者の術前身体機能と術後経過の関連性
Keywords:消化器外科術後, 術前身体機能, 術後経過
【はじめに,目的】
周術期リハビリテーション(以下:リハ)は,肺合併症の予防,日常生活動作(Activity of Daily Living:以下ADL)の早期回復を目的とした術前後の介入である。このうち,術前介入は,術前オリエンテーションや呼吸トレーニング,咳嗽指導といった肺合併症の予防に関連したものがそのほとんどを占める。しかし,術後のADL低下の予防に視点をおいた介入は少なく,術前からそれらに着目した報告もみられない。そこで,本研究では消化器外科手術患者の術前身体機能に着目し,術後の移動能力や術後経過との関連について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2011年6月から2013年6月の期間に消化器外科に手術目的で入院し,術前から退院まで継続した周術期リハを実施し,身体機能評価に同意の得られた56例(平均年齢75.7±5.9歳,男性33例,女性23例)とした。なお,運動器疾患や中枢神経疾患を有するもの,術前移動能力が非自立のものは対象から除外した。また,当院では術後3日目までの棟内歩行自立を目標とした離床プロトコルを採用しており,ドレーン等の影響で離床が遅延する食道癌患者も対象から除外した。
調査測定項目は,患者背景(年齢,性別,手術部位,手術方法,術中出血量),術前身体機能,術後移動能力,および術後入院期間とし,診療録より後方視的に調査した。術前身体機能は上肢筋力指標として握力,下肢筋力指標として等尺性膝伸展筋力,バランス能力指標として片脚立位時間(One Leg Stance:以下OLS),運動耐容能の指標として6分間歩行距離(6 Minute Walk Distance:以下6MWD)を測定した。握力は,Jamar社製Hand Dynamometer-5030J1を用い,左右の最大値の平均値を握力(kgf)として算出した。等尺性膝伸展筋力は,アニマ社製μ-TasMF01を用い,左右の最大値の平均(kgf)を体重(kg)で除した値を等尺性膝伸展筋力(kgf/kg)として算出した。OLSは左右2回実施し,その最高値をOLS(sec)として採用した。6MWDは,6分間で最長距離歩行するよう指示しその歩行距離(m)を測定した。移動能力は,術後3日目における棟内歩行自立の可否とその時点の非自立の理由,そして術後1週時,退院時における術前移動能力への回復の有無を調査した。
検討は,術後3日目での棟内歩行自立の可否で自立群,非自立群の2群に分類し,術前身体機能や基本属性の差異について実施した。また2群間での術後1週時および退院時における移動能力や術後入院期間についても同様に検討した。統計解析は,χ²検定,Mann-Whitney検定,対応のないt検定を用いて検討した。全ての検討は,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。なお,結果はパラメトリック検定を用いた場合は平均値±標準偏差を,ノンパラメトリック検定を用いた場合は中央値(四分位範囲)を用いて表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮として,S大学病院生命倫理委員会の承認を得た(承認番号:第2314号)。各測定はヘルシンキ宣言に沿って評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意を得られたもののみを対象とした。なお,患者情報は厳重に管理し取り扱った。
【結果】
術後3日目での棟内歩行自立群は36例(64%),非自立群は20例(36%)であった。非自立群の遅延理由は,下肢支持性やバランス能力の低下を原因とした身体機能の低下7例(35%),肺合併症5例(25%),他の術後合併症3例(15%),起立性低血圧・嘔気2例(10%),その他3例(15%)であった。また自立群,非自立群の間には年齢,性別,手術部位,手術方法,術中出血量には差を認めないものの,等尺性膝伸展筋力(0.52±0.13 vs 0.43±0.12kgf/kg),OLS(37.1[12.2-60.0]vs 3.8[2.7-25.9]sec),6MWD(422.6±79.1 vs 290.0±63.3m)において有意差を認めた(p<0.05)。次に移動能力について検討した結果,術前移動能力への回復例の割合は,術後1週時では自立群,非自立群の順に34例(94%),9例(43%)であり(χ²値=17.6,p<0.05),退院時では同様に36例(100%),18例(85%)であった(χ²値=2.9,p<0.1)。また,術後入院期間は自立群13.0(11.0-17.8),非自立群19.0(15.0-31.8)日と2群間で有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,術後3日目での棟内歩行自立の可否には術前身体機能が密接に関連し,その後の移動能力の推移や術後入院期間にも影響を及ぼすことが明らかになった。以上より,術前に身体機能の低下を認める症例では,早期離床や肺合併症の予防に加え,術後早期からの身体機能に着目したトレーニングの積極的な導入や術前介入の工夫の必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は消化器外科手術患者の術前身体機能に着目し,術後経過との関連性を明らかにしたものである。術後肺合併症の予防に加え,身体機能面も加味した術前からの周術期リハの必要性を示唆している。
周術期リハビリテーション(以下:リハ)は,肺合併症の予防,日常生活動作(Activity of Daily Living:以下ADL)の早期回復を目的とした術前後の介入である。このうち,術前介入は,術前オリエンテーションや呼吸トレーニング,咳嗽指導といった肺合併症の予防に関連したものがそのほとんどを占める。しかし,術後のADL低下の予防に視点をおいた介入は少なく,術前からそれらに着目した報告もみられない。そこで,本研究では消化器外科手術患者の術前身体機能に着目し,術後の移動能力や術後経過との関連について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2011年6月から2013年6月の期間に消化器外科に手術目的で入院し,術前から退院まで継続した周術期リハを実施し,身体機能評価に同意の得られた56例(平均年齢75.7±5.9歳,男性33例,女性23例)とした。なお,運動器疾患や中枢神経疾患を有するもの,術前移動能力が非自立のものは対象から除外した。また,当院では術後3日目までの棟内歩行自立を目標とした離床プロトコルを採用しており,ドレーン等の影響で離床が遅延する食道癌患者も対象から除外した。
調査測定項目は,患者背景(年齢,性別,手術部位,手術方法,術中出血量),術前身体機能,術後移動能力,および術後入院期間とし,診療録より後方視的に調査した。術前身体機能は上肢筋力指標として握力,下肢筋力指標として等尺性膝伸展筋力,バランス能力指標として片脚立位時間(One Leg Stance:以下OLS),運動耐容能の指標として6分間歩行距離(6 Minute Walk Distance:以下6MWD)を測定した。握力は,Jamar社製Hand Dynamometer-5030J1を用い,左右の最大値の平均値を握力(kgf)として算出した。等尺性膝伸展筋力は,アニマ社製μ-TasMF01を用い,左右の最大値の平均(kgf)を体重(kg)で除した値を等尺性膝伸展筋力(kgf/kg)として算出した。OLSは左右2回実施し,その最高値をOLS(sec)として採用した。6MWDは,6分間で最長距離歩行するよう指示しその歩行距離(m)を測定した。移動能力は,術後3日目における棟内歩行自立の可否とその時点の非自立の理由,そして術後1週時,退院時における術前移動能力への回復の有無を調査した。
検討は,術後3日目での棟内歩行自立の可否で自立群,非自立群の2群に分類し,術前身体機能や基本属性の差異について実施した。また2群間での術後1週時および退院時における移動能力や術後入院期間についても同様に検討した。統計解析は,χ²検定,Mann-Whitney検定,対応のないt検定を用いて検討した。全ての検討は,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。なお,結果はパラメトリック検定を用いた場合は平均値±標準偏差を,ノンパラメトリック検定を用いた場合は中央値(四分位範囲)を用いて表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮として,S大学病院生命倫理委員会の承認を得た(承認番号:第2314号)。各測定はヘルシンキ宣言に沿って評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意を得られたもののみを対象とした。なお,患者情報は厳重に管理し取り扱った。
【結果】
術後3日目での棟内歩行自立群は36例(64%),非自立群は20例(36%)であった。非自立群の遅延理由は,下肢支持性やバランス能力の低下を原因とした身体機能の低下7例(35%),肺合併症5例(25%),他の術後合併症3例(15%),起立性低血圧・嘔気2例(10%),その他3例(15%)であった。また自立群,非自立群の間には年齢,性別,手術部位,手術方法,術中出血量には差を認めないものの,等尺性膝伸展筋力(0.52±0.13 vs 0.43±0.12kgf/kg),OLS(37.1[12.2-60.0]vs 3.8[2.7-25.9]sec),6MWD(422.6±79.1 vs 290.0±63.3m)において有意差を認めた(p<0.05)。次に移動能力について検討した結果,術前移動能力への回復例の割合は,術後1週時では自立群,非自立群の順に34例(94%),9例(43%)であり(χ²値=17.6,p<0.05),退院時では同様に36例(100%),18例(85%)であった(χ²値=2.9,p<0.1)。また,術後入院期間は自立群13.0(11.0-17.8),非自立群19.0(15.0-31.8)日と2群間で有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,術後3日目での棟内歩行自立の可否には術前身体機能が密接に関連し,その後の移動能力の推移や術後入院期間にも影響を及ぼすことが明らかになった。以上より,術前に身体機能の低下を認める症例では,早期離床や肺合併症の予防に加え,術後早期からの身体機能に着目したトレーニングの積極的な導入や術前介入の工夫の必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は消化器外科手術患者の術前身体機能に着目し,術後経過との関連性を明らかにしたものである。術後肺合併症の予防に加え,身体機能面も加味した術前からの周術期リハの必要性を示唆している。