[0512] 上腹部周術期消化器外科患者の術後ADL低下因子を術前情報から推測する
キーワード:周術期, 急性期, 予後予測
【はじめに,目的】消化器外科周術期における術後リハビリテーションは,早期離床・合併症予防を目的とし,術後の低下したADLを早期に立ち上げるために重要である。日々の臨床において,高齢者や術前の能力が低い患者,手術侵襲の大きい患者では術後の離床やADLの立ち上げに難渋することも少なくない。そこで,予め術前情報からADL低下を予測することが可能であれば,術後早期より個別的なアプローチの展開が可能となるのではないかと考えた。しかし,現状では術後ADL低下の可能性を介入前の情報から予測することは,各セラピストの経験や感覚に頼っていることが多い。先行研究において,芳賀らは消化器外科周術期における術後の合併症や生命予後に関する因子として,術前患者生理機能,手術侵襲および周術期管理チームのqualityを挙げスコア化している。その反面,術後ADLとの関連については明らかにされていない。そこで今回,術後ADL低下に関与する因子を患者の術前情報から推測可能か検討することとした。
【方法】本邦で,周術期における患者術前情報や手術侵襲情報を点数化し合併症発生率,死亡率を算出する方法として,E-PASS(Estimation of Physiologic Avility and Stress)が有用とされており,今回はE-PASSを構成する因子を基に検討を行った。調査対象は2011年11月から2013年10月に当院消化器外科にて,待期上腹部開腹手術を施行され理学療法士が介入した115症例である。この115症例の情報をE-PASSにあてはめ術前因子スコア{PRS=-0.0686+0.00345X1(X1=年齢)+0.323X2(X2=重症心疾患あり[1],無し[0])+0.205 X3(X3=重症肺疾患あり[1],無し[0])+0.153 X4(X4=糖尿病あり[1],無し[0])+0.148 X5(X5=Performance status:以下PS[0-4]+0.666 X6(X6=麻酔リスク[1-5]),手術侵襲スコア{SSS=-0.342+0.0139 X7(X7=体重当たりの出血量:mg/kg)+0.0392 X8(X8=手術時間:h)+0.352 X9=(X9=胸腔鏡創または腹腔鏡創のみ[0],開胸あるいは開腹のいずれか一方のみ[1],開胸および開腹[3])}と総合リスク{(CRS=0.328+0.936(PRS)+0.976(SSS)}の各スコアを算出した。これらの各スコアとスコアを構成する各因子を従属変数,退院時Barthel Index(以下BI)の低下の有無を独立変数として検討を行った。統計分析には解析ソフトSPSSを使用し,ロジスティック回帰分析(変数増加尤度比)をおこなった。
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言を遵守し,患者個人が特定されないよう匿名化し,当院研究規定に準じた手続きを経て診療録を後方視的に調査した。
【結果】BI低下の有無にて,有意差を認めたものは年齢,術前Performance status,麻酔リスク(ASA-PS),術前リスクスコアであった。有意差を認めたものに関して,更に分析を進め,最終因子として採択されたものは術前Performance statusであった(p=0.007 95%CI1.196-3.180)。
【考察】今回の研究により,術後のADLに最も影響を及ぼす因子として術前Performance status,すなわち術前の動作活動能力であることが示唆された。年齢や全身疾患の強さ,侵襲の大きさよりも術前の動作活動能力との関連性が示唆されたことは,活動を評価し提供する我々理学療法士にとっての有用な情報であり,効率的に術後ADL低下を予防する上での一助となると考える。一般的に周術期での術後早期離床は合併症を予防しADL拡大に繋がるとされているが,中・長期的にADLを評価する場合,早期離床はもちろんのこと,術前の動作能力を十分に把握した上で介入していくことが重要と思われる。理学療法を行う上での情報収集は当然行うことであるが,今回の結果から,患者がどのような生活を送っていたのかを詳細に情報収集することの重要性を再認識することができた。これらの結果を踏まえて,消化器外科周術期理学療法において,介入前から術前の動作活動能力についての情報を十分に収集し,術後のADL低下を予め予測する。そして,高齢者や術前活動状況の低い患者程,術後ADL低下の可能性が高く個別的に積極的なアプローチを展開する必要があると考える。
【理学療法研究としての意義】術前から術後ADL低下因子を予測することができれば,理学療法を行う上で先見的で個別的な介入が可能となる。本研究において術前のPerformance statusが術後ADLに関連することが示唆され,活動を評価し提供する我々理学療法士にとって有用な情報であり,術後ADL低下を予防する上での一助となると思われる。
【方法】本邦で,周術期における患者術前情報や手術侵襲情報を点数化し合併症発生率,死亡率を算出する方法として,E-PASS(Estimation of Physiologic Avility and Stress)が有用とされており,今回はE-PASSを構成する因子を基に検討を行った。調査対象は2011年11月から2013年10月に当院消化器外科にて,待期上腹部開腹手術を施行され理学療法士が介入した115症例である。この115症例の情報をE-PASSにあてはめ術前因子スコア{PRS=-0.0686+0.00345X1(X1=年齢)+0.323X2(X2=重症心疾患あり[1],無し[0])+0.205 X3(X3=重症肺疾患あり[1],無し[0])+0.153 X4(X4=糖尿病あり[1],無し[0])+0.148 X5(X5=Performance status:以下PS[0-4]+0.666 X6(X6=麻酔リスク[1-5]),手術侵襲スコア{SSS=-0.342+0.0139 X7(X7=体重当たりの出血量:mg/kg)+0.0392 X8(X8=手術時間:h)+0.352 X9=(X9=胸腔鏡創または腹腔鏡創のみ[0],開胸あるいは開腹のいずれか一方のみ[1],開胸および開腹[3])}と総合リスク{(CRS=0.328+0.936(PRS)+0.976(SSS)}の各スコアを算出した。これらの各スコアとスコアを構成する各因子を従属変数,退院時Barthel Index(以下BI)の低下の有無を独立変数として検討を行った。統計分析には解析ソフトSPSSを使用し,ロジスティック回帰分析(変数増加尤度比)をおこなった。
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言を遵守し,患者個人が特定されないよう匿名化し,当院研究規定に準じた手続きを経て診療録を後方視的に調査した。
【結果】BI低下の有無にて,有意差を認めたものは年齢,術前Performance status,麻酔リスク(ASA-PS),術前リスクスコアであった。有意差を認めたものに関して,更に分析を進め,最終因子として採択されたものは術前Performance statusであった(p=0.007 95%CI1.196-3.180)。
【考察】今回の研究により,術後のADLに最も影響を及ぼす因子として術前Performance status,すなわち術前の動作活動能力であることが示唆された。年齢や全身疾患の強さ,侵襲の大きさよりも術前の動作活動能力との関連性が示唆されたことは,活動を評価し提供する我々理学療法士にとっての有用な情報であり,効率的に術後ADL低下を予防する上での一助となると考える。一般的に周術期での術後早期離床は合併症を予防しADL拡大に繋がるとされているが,中・長期的にADLを評価する場合,早期離床はもちろんのこと,術前の動作能力を十分に把握した上で介入していくことが重要と思われる。理学療法を行う上での情報収集は当然行うことであるが,今回の結果から,患者がどのような生活を送っていたのかを詳細に情報収集することの重要性を再認識することができた。これらの結果を踏まえて,消化器外科周術期理学療法において,介入前から術前の動作活動能力についての情報を十分に収集し,術後のADL低下を予め予測する。そして,高齢者や術前活動状況の低い患者程,術後ADL低下の可能性が高く個別的に積極的なアプローチを展開する必要があると考える。
【理学療法研究としての意義】術前から術後ADL低下因子を予測することができれば,理学療法を行う上で先見的で個別的な介入が可能となる。本研究において術前のPerformance statusが術後ADLに関連することが示唆され,活動を評価し提供する我々理学療法士にとって有用な情報であり,術後ADL低下を予防する上での一助となると思われる。