第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

健康増進・予防6

Fri. May 30, 2014 4:15 PM - 5:05 PM 第6会場 (3F 304)

座長:牧迫飛雄馬(国立長寿医療研究センター自立支援開発研究部自立支援システム開発室)

生活環境支援 口述

[0515] 地域在住自立高齢者における肥満と歩行能力,身体活動量の関連

杉本大貴1, 堤本広大2,3, 澤龍一3, 中津伸之3, 上田雄也3, 斉藤貴1, 中村凌1, 村田峻輔1, 山崎蓉子1, 中窪翔2,3, 土井剛彦2,4, 小野玲3 (1.神戸大学医学部保健学科, 2.国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター自立支援開発研究部自立支援システム開発室, 3.神戸大学大学院保健学研究科, 4.日本学術振興会特別研究員)

Keywords:肥満, 歩行, 身体活動量

【はじめに,目的】
本邦では自立高齢者の約3割が肥満であるとされ,その主な原因に身体活動量の減少が挙げられている。高齢期における肥満は,歩行能力や階段昇降を含む移動能力の低下につながると報告されている。一方,身体活動量の減少は歩行能力低下を引き起こすとも報告されている。以上のことから,身体活動量の減少による歩行能力低下には肥満が媒介的役割をしていることが仮説として考えられるが,身体活動量,歩行能力,肥満の3者の関係については明らかになっていない。さらに,肥満と身体活動量ないし歩行能力に関する先行研究において,肥満指標としてBody Mass Index(BMI)や腹囲が用いられ,BMIは全身的脂肪蓄積を腹囲は腹部脂肪蓄積を表すため両指標が示すものは異なる。そこで,本研究の目的は地域在住自立高齢者において身体活動量と歩行能力の関連性に肥満が媒介的役割を果たしているかを検討し,異なる脂肪蓄積を表すBMIと腹囲でその関係性が異なるかを合わせて検討することとする。
【方法】
本研究の解析対象者は,地域在住自立高齢者78名(男性38名,女性40名)のうちMini-Mental State Examination 24点未満,膝・股関節疾患,関節リウマチの既往のある者を除いた56名(男性28名,女性28名,平均73.3±4.1歳)とした。肥満指標として,BMI,腹囲を測定し,歩行能力として通常歩行速度を測定した。身体活動量は1軸加速度内蔵の活動量計を用いて,連続した7日間を測定期間とし,一日の平均歩数を算出した。肥満指標,身体活動量,歩行能力の3つの関係はBaron & Kenny(1986)が紹介した媒介モデルを作成し検討した。手順として,身体活動量が肥満指標と通常歩行速度のどちらにも影響を与えていることをSpearmanの順位相関係数あるいは,Pearsonの相関係数を求め有意に関連していることを確認後,通常歩行速度を従属変数とした重回帰分析(身体活動量と肥満指標を独立変数に投入)を実施し,肥満指標の効果が有意であり身体活動量の効果が有意に減少した場合,媒介モデルが成立したことを示す。各統計指標は5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会より承認を得た後に実施し,対象者より,事前に口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た。
【結果】
単変量解析においてBMIは平均歩数と,腹囲は通常歩行速度,平均歩数との間に有意な相関関係があった。年齢と性別で調整した多変量解析においてBMIと平均歩数(β=-0.31,p<0.05),腹囲と通常歩行速度(β=-0.33,p<0.01),腹囲と平均歩数について関係が見られ(β=-0.29,p<0.05),平均歩数と通常歩行速度それぞれと有意な関係が見られた肥満指標は腹囲のみであった。身体活動量減少による歩行能力低下に肥満が媒介的役割をしているという仮説を検討するため,X(独立変数:平均歩数)―M(媒介変数:腹囲)-Y(従属変数:通常歩行速度)として,モデル1:X-M(独立変数:平均歩数,従属変数:腹囲),モデル2:M―Y(独立変数:腹囲,従属変数:通常歩行速度),モデル3:X-Y(独立変数:平均歩数,従属変数:通常歩行速度),モデル4:X・M―Y(独立変数:X平均歩数,M腹囲,従属変数:Y通常歩行速度)を作成した。モデル1,2には負の相関関係,モデル3には正の相関関係が有意であることが認められた。次に,平均歩数が通常歩行速度へ及ぼす効果の変化をみるために,モデル3,4の回帰係数の変化をみた結果,腹囲投入前r=0.29,p<0.05,腹囲投入後β=0.21,p=0.11であった。このことより腹囲の増大は,平均歩数減少による通常歩行速度低下の媒介因子であることが示された。
【考察】
肥満指標の中で,身体活動量,歩行能力の両者と関連が認められたのは腹囲のみであった。先行研究において,BMIは筋肉量の蓄積あるいは脂肪の蓄積かを識別できないことや,加齢に伴う円背で身長が減少する高齢者には肥満指標として適さないことが報告されている。さらに,腹部の脂肪蓄積により体重心が前方に移動し身体平衡に必要な足関節のトルクが増大することと加齢に伴い運動器の応答が遅れることで転倒のリスクが増加することも報告されている。これらから,肥満指標のうち腹部の脂肪蓄積を示す腹囲のみに歩行能力と関連がみられたものと考えられる。また,媒介モデルが成立したことから身体活動量低下による腹囲増大が,歩行能力低下に影響を与えるという1つの可能性を明らかにした。
【理学療法学研究としての意義】
自立高齢者において,身体活動量低下により歩行能力低下を引き起こすことは広く知られているが,その媒介因子として形態学的な変化である腹囲増大が関連しており,歩行能力低下を予防するための介入として,腹囲を指標とした身体活動量処方が有用となる可能性が示唆された。