[0522] 若年者と高齢者における指構成模倣の正確性にモデル提示角度が与える影響
Keywords:模倣, 高齢者, 提示方向
【はじめに,目的】
動作学習において,学習者にモデル動作を提示し模倣させる方法は重要な学習方法であり,臨床場面で用いることの多い治療手段の一つである。このような観察学習では,教示者によるモデル動作の提示方法が学習者の習得能率に影響を及ぼすものと考えられており,モデル提示角度は重要な問題の一つとして挙げられている。モデルの提示角度としては,学習者が主体となるような背面での教示と心的回転を伴わない方法が最も簡単であるとされており,様々な研究により実証されている。
しかし,先行研究で用いられている被験者は若年者であり,臨床場面で対象となることの多い高齢者での検討はなされていない。
そこで,本研究では若年者と高齢者における動作模倣時のモデル提示角度の影響について検証することを目的とした。
【方法】
対象は右利きの健常成人18名とし,若年群9名(男性5名,女性4名,年齢25.44±5.03歳)と高齢群9名(男性2名,女性7名,年齢79.56±6.25歳)に分類した。
被験者は,椅子座位を取り前方のモニターに映し出された模倣モデルの模倣を右手で行い,模倣が完成したら口頭で「はい」と合図するよう求めた。また,「なるべく早く」,「正確に」「手は常に手掌が自分の方向に向いているように」の3点の教示を与えた。被験者が試行している間,模倣モデルは提示したままとし,被験者の「はい」の合図で提示を終了とした。一試行終了ごとに被験者は手指を安楽肢位として待機し,次の試行に備えた。被験者には,模倣の成否を知らせることは行わなかった。
模倣課題は,8種類の指構成それぞれに提示方向4方向を設けた32種類とし,これらをランダムに提示した。
模倣モデルの提示方向は,手掌が被験者を向いた一人称,手背が被験者を向いた三人称を設定し,それぞれに右手であれば同側,左手であれば対側と区別し提示した。すなわち,模倣モデルの提示は,一人称同側,一人称対側,三人称同側,三人称対側の4方向とした。
測定は,模倣の正解率とした。解析は,Excel統計2010を用い,若年群と高齢群の2群間でモデル提示方向の影響を検討するため,二元配置分散分析(two-way ANOVA)を行い,有意差が認められた場合にはBonferroni検定を行った。
【説明と同意】
被験者には,事前に実験の趣旨,方法の説明を十分に行い実験への参加の同意を得た。
【結果】
two-way ANOVAの結果,若年群,高齢群の2群間とモデル提示方向それぞれに有意差が認められ(p<0.01),交互作用は認められなかった(p>0.05)。若年群,高齢群の各要因におけるモデル提示方向の主効果は,若年群においては認められなかったが(p>0.05),高齢群において認められた(p<0.01)。
モデル提示方向の主効果が認められた高齢群において,一人称同側と三人称同側(p<0.01),一人称同側と三人称対側(p<0.01)に有意差が認められた。
【考察】
本研究の結果,指構成模倣課題の正確性にモデル提示方向が与える影響は,若年者より高齢者に大きいことが示唆された。また,高齢群内におけるモデル提示方向の影響の検討から,一人称同側がより正確性の高いモデル提示方向であることが示された。
動作模倣には,観察した動作である視覚的表象と自分の動作の内的表象とをマッチングさせる過程が存在すると考えられており,視覚的表象と内的表象に方向の違いがある場合にはマッチングの前に心的回転により方向を一致させる必要があると思われる。心的回転能力は心的回転課題において検討され,高齢者は若年者に比べ正解率が低下することが報告されていることから,高齢者のみに提示方向の影響が生じたのは心的回転能力の加齢による低下が反映されていると考えられる。
また,動作模倣の難易度にモデル提示方向が与える影響について,心的回転課題から回転角度に比例して難易度が上がることが報告されており,動作観察,模倣時の脳活動から一人称に比べ三人称において複雑性が強いことが示唆されている。上記の報告から,一人称で心的回転を必要としない同側において正解率が高かったと考えられる。
今回,指構成模倣時のモデル提示角度が若年者と高齢者に与える影響について検討し,観察学習時において高齢者を対象とする場合にはよりモデル提示方向に注意を払う必要があることが示唆された。
今後,ダイナミックな動作課題や観察学習における記憶,保持におけるモデル提示角度の影響についても検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究から,高齢者の動作模倣能力が提示方向に受ける影響は若年者より大きいことが認められ,高齢者を対象に動作模倣教示を行う場合にはよりモデル提示方向を考慮していく必要性が示唆された。
動作学習において,学習者にモデル動作を提示し模倣させる方法は重要な学習方法であり,臨床場面で用いることの多い治療手段の一つである。このような観察学習では,教示者によるモデル動作の提示方法が学習者の習得能率に影響を及ぼすものと考えられており,モデル提示角度は重要な問題の一つとして挙げられている。モデルの提示角度としては,学習者が主体となるような背面での教示と心的回転を伴わない方法が最も簡単であるとされており,様々な研究により実証されている。
しかし,先行研究で用いられている被験者は若年者であり,臨床場面で対象となることの多い高齢者での検討はなされていない。
そこで,本研究では若年者と高齢者における動作模倣時のモデル提示角度の影響について検証することを目的とした。
【方法】
対象は右利きの健常成人18名とし,若年群9名(男性5名,女性4名,年齢25.44±5.03歳)と高齢群9名(男性2名,女性7名,年齢79.56±6.25歳)に分類した。
被験者は,椅子座位を取り前方のモニターに映し出された模倣モデルの模倣を右手で行い,模倣が完成したら口頭で「はい」と合図するよう求めた。また,「なるべく早く」,「正確に」「手は常に手掌が自分の方向に向いているように」の3点の教示を与えた。被験者が試行している間,模倣モデルは提示したままとし,被験者の「はい」の合図で提示を終了とした。一試行終了ごとに被験者は手指を安楽肢位として待機し,次の試行に備えた。被験者には,模倣の成否を知らせることは行わなかった。
模倣課題は,8種類の指構成それぞれに提示方向4方向を設けた32種類とし,これらをランダムに提示した。
模倣モデルの提示方向は,手掌が被験者を向いた一人称,手背が被験者を向いた三人称を設定し,それぞれに右手であれば同側,左手であれば対側と区別し提示した。すなわち,模倣モデルの提示は,一人称同側,一人称対側,三人称同側,三人称対側の4方向とした。
測定は,模倣の正解率とした。解析は,Excel統計2010を用い,若年群と高齢群の2群間でモデル提示方向の影響を検討するため,二元配置分散分析(two-way ANOVA)を行い,有意差が認められた場合にはBonferroni検定を行った。
【説明と同意】
被験者には,事前に実験の趣旨,方法の説明を十分に行い実験への参加の同意を得た。
【結果】
two-way ANOVAの結果,若年群,高齢群の2群間とモデル提示方向それぞれに有意差が認められ(p<0.01),交互作用は認められなかった(p>0.05)。若年群,高齢群の各要因におけるモデル提示方向の主効果は,若年群においては認められなかったが(p>0.05),高齢群において認められた(p<0.01)。
モデル提示方向の主効果が認められた高齢群において,一人称同側と三人称同側(p<0.01),一人称同側と三人称対側(p<0.01)に有意差が認められた。
【考察】
本研究の結果,指構成模倣課題の正確性にモデル提示方向が与える影響は,若年者より高齢者に大きいことが示唆された。また,高齢群内におけるモデル提示方向の影響の検討から,一人称同側がより正確性の高いモデル提示方向であることが示された。
動作模倣には,観察した動作である視覚的表象と自分の動作の内的表象とをマッチングさせる過程が存在すると考えられており,視覚的表象と内的表象に方向の違いがある場合にはマッチングの前に心的回転により方向を一致させる必要があると思われる。心的回転能力は心的回転課題において検討され,高齢者は若年者に比べ正解率が低下することが報告されていることから,高齢者のみに提示方向の影響が生じたのは心的回転能力の加齢による低下が反映されていると考えられる。
また,動作模倣の難易度にモデル提示方向が与える影響について,心的回転課題から回転角度に比例して難易度が上がることが報告されており,動作観察,模倣時の脳活動から一人称に比べ三人称において複雑性が強いことが示唆されている。上記の報告から,一人称で心的回転を必要としない同側において正解率が高かったと考えられる。
今回,指構成模倣時のモデル提示角度が若年者と高齢者に与える影響について検討し,観察学習時において高齢者を対象とする場合にはよりモデル提示方向に注意を払う必要があることが示唆された。
今後,ダイナミックな動作課題や観察学習における記憶,保持におけるモデル提示角度の影響についても検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究から,高齢者の動作模倣能力が提示方向に受ける影響は若年者より大きいことが認められ,高齢者を対象に動作模倣教示を行う場合にはよりモデル提示方向を考慮していく必要性が示唆された。