[0523] トレーニング設定のための同一運動学習課題に対する異なる分習法による運動学習効果を基にした検討
Keywords:分習法, 学習課題と順序の設定, 姿勢制御
【はじめに】理学療法の場面では獲得すべき動作の構成要素を集中的にトレーニングすることが多い。理学療法では一般的に学習効果と達成度が高いとされる全習法よりも,むしろ構成要素ごとに学集する分習法をおこなうことで早期に改善する印象がある。この印象について検討するために,われわれは第48回日本理学療法学術大会においてバランスボール上での非利き手による下手投げ投球動作を用いて全習法と分習法の学習効果を検討した。その結果,全習法よりも分習法で有意な学習効果を認め,理学療法でおこなうトレーニングの有効性を証明した。一方,分習法によるトレーニングを実施する場合,構成要素をどのような基準で分割し,どのような順序で実施すべきかという疑問に対して,これまで有効な報告は得られていない。そこで今回,先行研究と同じ学習課題をもとに構成要素の学習順序が異なる2種の分習法を実施し,その効果を検討したので報告する。
【方法】対象者は健常大学生24名(男子16名,女子8名,平均年齢20.4±0.6歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ,2m前方にある目標の中心に当てるように指示し,お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。検定課題は学習課題前後に各1回ずつ実施し,バランスボール上座位を投球前に5秒間保持させ,的への投球をおこなった後,さらにバランスボール上座位を投球前に5秒間保持させた。目標の的から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3つの同心円(直径20cm,40cm,60cm)を描き,中心からの16本の放射線で分割した64分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40点,30点,20点,10点と順次点数付けし,その得点をもって結果とした。学習課題は2種類の方法を設定し,それぞれA群とB群として男女別に無作為に対象者を均等配置した。A群は,まずバランスボール上座位を6セット実施した後,椅座位での投球を6セット実施した。B群では,まず椅座位での投球を6セット実施した後,バランスボール上座位を6セット実施した。これらの学習では1セット1分40秒とし,セット間インターバルは1分間とした。投球課題では1セット内で対象者の任意のタイミングで5投実施した。学習効果の検討は,学習前後の的の得点と重心の総軌跡長の変化によって実施し,両群とも学習前後の検定課題の結果による群内比較と群間比較を実施した。統計学的手法は,群内比較には対応のあるt検定を用い,群間比較にはマン・ホイットニー検定を実施した。有意水準はそれぞれ5%とした。
【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。
【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は,A群5.8±13.7点/24.2±15.64点(mean±S.D.),B群8.3±15.3点/12.5±14.2点であった。また,学習前後の重心の総軌跡長(学習前/学習後)は,A群289.76±69.27cm/175.46±93.24cm,B群が257.86±77.68cm/213.84±64.64cmであった。群内比較では得点および総軌跡長ともA群に有意な学習効果を認めた(p<0.05)。群間比較ではいずれも有意差は認められなかったが,学習後の得点でA群に学習効果を認める傾向を認めた(p=0.064)。
【考察】Wadeら(1997)は,姿勢の変化が要求される運動は運動前や運動中におこなわれる姿勢制御によって担保され,運動の目的や状況,環境により姿勢制御は左右されるとしている。本研究では,バランスボール上座位という絶えず変化する座位の保持に加え,的の中心に当てるという精度の高い非利き手での投球動作の双方を要求した。対象者は,これらを実現するため絶えず座位の姿勢制御を求められていたものと考えられる。従って,B群に比べて初めに姿勢制御を学習したA群で,有効な姿勢制御を効果的に獲得でき,学習効果につながったと考えられる。以上のことから,分習法による構成要素の区分は姿勢制御課題を基準として分類し,まず姿勢制御課題から学習をおこなうことが重要であると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,トレーニング課題の設定方法として姿勢制御課題を軸とした分類と学習をおこなうことの有効性を示唆したものである。動的姿勢改善に着目した分習法は,基本動作獲得の一助として理学療法への応用に有用であると考えられる。
【方法】対象者は健常大学生24名(男子16名,女子8名,平均年齢20.4±0.6歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ,2m前方にある目標の中心に当てるように指示し,お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。検定課題は学習課題前後に各1回ずつ実施し,バランスボール上座位を投球前に5秒間保持させ,的への投球をおこなった後,さらにバランスボール上座位を投球前に5秒間保持させた。目標の的から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3つの同心円(直径20cm,40cm,60cm)を描き,中心からの16本の放射線で分割した64分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40点,30点,20点,10点と順次点数付けし,その得点をもって結果とした。学習課題は2種類の方法を設定し,それぞれA群とB群として男女別に無作為に対象者を均等配置した。A群は,まずバランスボール上座位を6セット実施した後,椅座位での投球を6セット実施した。B群では,まず椅座位での投球を6セット実施した後,バランスボール上座位を6セット実施した。これらの学習では1セット1分40秒とし,セット間インターバルは1分間とした。投球課題では1セット内で対象者の任意のタイミングで5投実施した。学習効果の検討は,学習前後の的の得点と重心の総軌跡長の変化によって実施し,両群とも学習前後の検定課題の結果による群内比較と群間比較を実施した。統計学的手法は,群内比較には対応のあるt検定を用い,群間比較にはマン・ホイットニー検定を実施した。有意水準はそれぞれ5%とした。
【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。
【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は,A群5.8±13.7点/24.2±15.64点(mean±S.D.),B群8.3±15.3点/12.5±14.2点であった。また,学習前後の重心の総軌跡長(学習前/学習後)は,A群289.76±69.27cm/175.46±93.24cm,B群が257.86±77.68cm/213.84±64.64cmであった。群内比較では得点および総軌跡長ともA群に有意な学習効果を認めた(p<0.05)。群間比較ではいずれも有意差は認められなかったが,学習後の得点でA群に学習効果を認める傾向を認めた(p=0.064)。
【考察】Wadeら(1997)は,姿勢の変化が要求される運動は運動前や運動中におこなわれる姿勢制御によって担保され,運動の目的や状況,環境により姿勢制御は左右されるとしている。本研究では,バランスボール上座位という絶えず変化する座位の保持に加え,的の中心に当てるという精度の高い非利き手での投球動作の双方を要求した。対象者は,これらを実現するため絶えず座位の姿勢制御を求められていたものと考えられる。従って,B群に比べて初めに姿勢制御を学習したA群で,有効な姿勢制御を効果的に獲得でき,学習効果につながったと考えられる。以上のことから,分習法による構成要素の区分は姿勢制御課題を基準として分類し,まず姿勢制御課題から学習をおこなうことが重要であると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,トレーニング課題の設定方法として姿勢制御課題を軸とした分類と学習をおこなうことの有効性を示唆したものである。動的姿勢改善に着目した分習法は,基本動作獲得の一助として理学療法への応用に有用であると考えられる。