[0524] 股関節の運動方向の違いと腹横筋厚の関係について
キーワード:超音波画像解析, 腹横筋, 股関節
【はじめに,目的】
側腹筋は外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋にて構成されており,体幹の安定性に関与している。特に,腹横筋は四肢の運動に先行して収縮し,腹圧の上昇,動的な脊柱の安定化に重要であることが報告されている。臨床において運動療法を行う際には,体幹部の影響を考慮しなければならないことが先行研究で述べられているが,四肢の運動方向の違いによる腹横筋の変化についての報告は少ない。四肢の運動方向の違いによる体幹筋の役割を知ることは,下肢筋力増強運動,動作練習など理学療法を行う際,体幹部の影響を考慮する上で必要な情報になると思われる。今回,下肢の運動に着目し,超音波診断装置を用いて股関節の運動方向を変えた際の腹横筋の変化について調査したので報告する。
【方法】
対象は,下肢・体幹に整形外科的・神経学的疾患のない健常者10名(男性:6名,女性:4名,24±2歳)とした。身長は166.3±7.6cm,体重は54.1±8.5kgであった。測定には超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社NemioMX SSA-590A)を使用し,測定はBモードにて行った。測定筋は,腹横筋とし,測定部位は右側前腋窩線上の肋骨下端と腸骨稜との中央部より下部にて微調整を行い決定した。方法は,測定肢位を背臥位とし安静呼気終末時の最大筋厚および股関節中間位における右股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋時の最大等尺性運動時の最大筋厚を各々2回測定し,その平均値を求めた。その後,安静時に対する各運動時の筋厚変化率を算出した。各運動時において,固定ベルト,クッションラバー,徒手にて可能な限り代償を抑制した。統計処理は,反復測定による一元配置分散分析と事後検定(Bonferroni法)を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の調査は,ヘルシンキ宣言の規定に従い実施し,研究の趣旨,測定の内容,個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。
【結果】
各運動時の筋厚変化率は,屈曲時が1.30±0.38,伸展時が1.30±0.37,外転時が1.39±0.41,内転時が1.21±0.30,外旋時が1.13±0.36,内旋時が1.12±0.24であった。統計学的検討では,安静時と比較し,屈曲時(P<0.05),伸展時(P<0.05),外転時(P<0.01)に有意差を認め内転時,外旋時,内旋時には有意差を認めなかった。各運動間での検討では,外転時に対する内旋時に有意差(P<0.05)を認め,その他の運動間で有意差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果,安静時と比較し,屈曲時,伸展時,外転時に有意差を認め内転時,外旋時,内旋時には有意差を認めなかった。屈曲時,伸展時,外転時に有意差を認めたのは,股関節屈筋群が強く活動すると骨盤は前傾方向へ,伸展筋群が強く活動すると後傾方向へ,外転筋群が強く活動すると下制方向へ引っ張られ,それに伴い骨盤運動が生じてしまうため,中枢部の固定作用として腹横筋が活動したのではないかと考えた。内転時,外旋時,内旋時に有意差を認めなかったのは,内転筋群が強く活動すると骨盤は前下方へ,外旋筋群が強く活動すると側方へ引っ張られるが,大腿骨頭と臼蓋が突き当たり,骨盤運動が生じにくいことと各主動筋の出力も比較的小さいことが中枢部の固定作用としての腹横筋の活動が少なくてもよかったためであると考えた。内旋時においては,小殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,内転筋群などが活動するといわれているが,各筋の出力が小さいこと,拮抗筋どうしの活動であるため,骨盤運動への影響が少なく,固定作用としての腹横筋の活動が少なくてよかったためであると考えた。外転時に対する内旋時に有意差を認めたのは,等尺性収縮下において最も体幹の固定作用が必要な股関節運動が外転であり,最も体幹の固定作用を必要としない股関節運動が内旋であったためであると思われる。今回,股関節運動側と対側の腹横筋の変化や上肢運動時の変化の検討までは至っていない。今後は,対側の腹横筋の作用の検討,上肢運動時の変化の検討,起立や歩行等,動作と腹横筋との関連を調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
今回,股関節屈曲時,伸展時,外転時に腹横筋の固定作用が比較的強く生じる可能性が示唆された。本研究の結果は,下肢筋力増強運動,動作練習など理学療法を行う上で,腹横筋の固定作用を検討する際の一助となると思われる。
側腹筋は外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋にて構成されており,体幹の安定性に関与している。特に,腹横筋は四肢の運動に先行して収縮し,腹圧の上昇,動的な脊柱の安定化に重要であることが報告されている。臨床において運動療法を行う際には,体幹部の影響を考慮しなければならないことが先行研究で述べられているが,四肢の運動方向の違いによる腹横筋の変化についての報告は少ない。四肢の運動方向の違いによる体幹筋の役割を知ることは,下肢筋力増強運動,動作練習など理学療法を行う際,体幹部の影響を考慮する上で必要な情報になると思われる。今回,下肢の運動に着目し,超音波診断装置を用いて股関節の運動方向を変えた際の腹横筋の変化について調査したので報告する。
【方法】
対象は,下肢・体幹に整形外科的・神経学的疾患のない健常者10名(男性:6名,女性:4名,24±2歳)とした。身長は166.3±7.6cm,体重は54.1±8.5kgであった。測定には超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社NemioMX SSA-590A)を使用し,測定はBモードにて行った。測定筋は,腹横筋とし,測定部位は右側前腋窩線上の肋骨下端と腸骨稜との中央部より下部にて微調整を行い決定した。方法は,測定肢位を背臥位とし安静呼気終末時の最大筋厚および股関節中間位における右股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋時の最大等尺性運動時の最大筋厚を各々2回測定し,その平均値を求めた。その後,安静時に対する各運動時の筋厚変化率を算出した。各運動時において,固定ベルト,クッションラバー,徒手にて可能な限り代償を抑制した。統計処理は,反復測定による一元配置分散分析と事後検定(Bonferroni法)を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の調査は,ヘルシンキ宣言の規定に従い実施し,研究の趣旨,測定の内容,個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。
【結果】
各運動時の筋厚変化率は,屈曲時が1.30±0.38,伸展時が1.30±0.37,外転時が1.39±0.41,内転時が1.21±0.30,外旋時が1.13±0.36,内旋時が1.12±0.24であった。統計学的検討では,安静時と比較し,屈曲時(P<0.05),伸展時(P<0.05),外転時(P<0.01)に有意差を認め内転時,外旋時,内旋時には有意差を認めなかった。各運動間での検討では,外転時に対する内旋時に有意差(P<0.05)を認め,その他の運動間で有意差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果,安静時と比較し,屈曲時,伸展時,外転時に有意差を認め内転時,外旋時,内旋時には有意差を認めなかった。屈曲時,伸展時,外転時に有意差を認めたのは,股関節屈筋群が強く活動すると骨盤は前傾方向へ,伸展筋群が強く活動すると後傾方向へ,外転筋群が強く活動すると下制方向へ引っ張られ,それに伴い骨盤運動が生じてしまうため,中枢部の固定作用として腹横筋が活動したのではないかと考えた。内転時,外旋時,内旋時に有意差を認めなかったのは,内転筋群が強く活動すると骨盤は前下方へ,外旋筋群が強く活動すると側方へ引っ張られるが,大腿骨頭と臼蓋が突き当たり,骨盤運動が生じにくいことと各主動筋の出力も比較的小さいことが中枢部の固定作用としての腹横筋の活動が少なくてもよかったためであると考えた。内旋時においては,小殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,内転筋群などが活動するといわれているが,各筋の出力が小さいこと,拮抗筋どうしの活動であるため,骨盤運動への影響が少なく,固定作用としての腹横筋の活動が少なくてよかったためであると考えた。外転時に対する内旋時に有意差を認めたのは,等尺性収縮下において最も体幹の固定作用が必要な股関節運動が外転であり,最も体幹の固定作用を必要としない股関節運動が内旋であったためであると思われる。今回,股関節運動側と対側の腹横筋の変化や上肢運動時の変化の検討までは至っていない。今後は,対側の腹横筋の作用の検討,上肢運動時の変化の検討,起立や歩行等,動作と腹横筋との関連を調査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
今回,股関節屈曲時,伸展時,外転時に腹横筋の固定作用が比較的強く生じる可能性が示唆された。本研究の結果は,下肢筋力増強運動,動作練習など理学療法を行う上で,腹横筋の固定作用を検討する際の一助となると思われる。