第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学3

2014年5月30日(金) 16:15 〜 17:05 ポスター会場 (基礎)

座長:大西智也(宝塚医療大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 ポスター

[0528] 療養患者における下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量との関係

柳川竜一, 角谷一徳, 都丸哲也 (医療法人社団永生会永生病院リハビリテーション部)

キーワード:下腿周径, 移乗動作能力, 経時的変化

【はじめに】
慢性期患者においては一般的に身体機能や日常生活活動(以下ADL)能力は維持又は低下すると言われているが,中には向上するという報告もされている。よって,慢性期患者においても定期的に身体機能の評価を行うことは重要であると考える。しかし,臨床場面において療養病院や特別養護老人ホームといった施設に入院されている慢性期患者(以下療養患者)では,認知面や覚醒の問題によって,身体機能の評価を正確に行えないことが多い。そこで,認知面などの影響を受けずに行える身体機能の評価が必要であると考える。身体機能のひとつである筋力や骨格筋量を簡便に評価する方法としては周径の評価が挙げられる。その中で下腿周径は,筋力や栄養状態を反映することやADLと相関関係が認められることが報告されている。しかし,先行研究では健康な高齢者,又は健常成人を対象としていることが多く,療養患者を対象として下腿周径とADLや身体機能との関係性を検討している報告はわずかである。中でも療養患者の移乗動作に関する報告や,下腿周径とADLの経時的変化を検討している報告は少ない。
今回我々は介護療養病棟に入院している療養患者に対し,下腿周径と移乗動作能力の経時的変化を評価し,この2つの変化量の関係性を比較,検討した。
【対象と方法】
対象は平成23年12月から平成25年4月までに介護療養病棟に転院又は転棟された患者の中で,明らかな浮腫を認めた患者と移乗動作が全介助又は自立の患者を除き,初回測定から6ヶ月後の下腿周径に変化があった患者32名(男性13名,女性19名,平均年齢86.0±7.4歳)とした。測定項目は下腿周径を計測し,移乗動作能力はFIMの車いす移乗項目を用いて,それぞれの初回測定と6ヶ月後の変化量を比較した。下腿周径では,左右の下肢を比較し,主として使用している側の下腿最大周径を計測した。なお,研究を行うにあたり下腿周径の計測の信頼性を評価するため,検者内級内相関係数(以下ICC)を求めた。統計学的解析ではSPSS ver15.0を使用。下腿周径の変化量と移乗動作の点数の変化量についてはSpearmanの順位相関係数で比較検討し,危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院,永生病院倫理委員会の承認を得て実施した。また,御本人又は御家族に対し倫理的配慮について文章または口頭にて説明し,了承が得られた者に対し測定を行った。
【結果】
初回測定と6ヶ月後の下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量の相関を求めた。結果,2つの変化量の順位相関係数はrs=0.865となり,強い相関が認められた。また,ICCは0.982となり優秀な相関を認めた。
【考察】
本研究の結果より,下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量に強い相関が認められた。このことから,下腿周径が大きくなると移乗動作能力も向上し,下腿周径が小さくなると移乗動作能力も低下するということが分かった。先行研究において下腿周径と筋力や骨格筋量の関係性についても報告されている。つまり,下腿周径の変化はこれらの変化によるものであると考えられる。移乗動作は立ち上がり,立位保持,方向転換,着座の動作を要する動きである。立ち上がり動作から立位保持においては足関節底屈筋群も膝関節伸展を作り出すのに関与していると言われており,着座動作では前脛骨筋の働きも関与すると報告されている。つまり,移乗動作は下腿の筋力も必要とする動作であると言える。以上のことから,下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量に関係性があったと推察される。
療養患者は認知面の影響により指示が入りにくいことや,覚醒に変動があることなどにより協力動作が得られない患者が少なくない。したがって,客観的な身体機能評価を正確に行うことが難しい患者も多い。そんな中で,本研究で下腿周径と移乗動作能力の変化量に相関が認められたことは,下腿周径の評価により認知面の影響を受けずに,移乗動作能力の変化を客観的かつ簡便に評価できるひとつの指標として活用できる可能性を示したと考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果,下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量に相関があることが示唆された。このことから,移乗動作能力が変化した際,下腿周径の変化が身体機能の評価のひとつとして使用できる可能性を示せたと考える。今後は下腿周径が変化した要因を検討するとともに,測定患者数の増加と,その他の周径やADL能力との関連性も検討し,療養患者におけるより簡便な身体機能評価を確立していく必要があると考える。